第33話 成果をここに
第八位階下位
微睡みからゆっくりと覚醒する。
目蓋を持ち上げると、見えてきた物は——ウルルの下顎。
サイズを調整したけもウルルが僕を敷布団、もしくは抱き枕にしていた。
その寝顔は満足気である。
「……ウルル」
「ふがっ」
呼び掛けるや即座に起きたウルルは、僕が下にいる事に気付くと、やはり寝惚けているのか凄まじい勢いで舐め回して来た。
ふやけそう。
◇
どうにかふやけずに迎えた朝。
タク達を送り出し、配下の子達が待つ大修練場に向かった。
ぴりぴりと張り詰めた空気は、皆が僕に修行の成果を見せようと張り切っているから。
各々、来たるべき時に備え、ある者は瞑想し、またある者は体を動かしている。早速片端から見て行こう。
先ずは人型で瞑想しているウルルを呼び出す。
理法典の容量にはまだまだ余裕があるので、どれだけの被害が出ても良い様に、もう一つ別の世界を生成し、そこに移動した。
普通の世界と同じ様に、山あり谷あり小川に海に、理法典の限界ギリギリまで生成した。規模は精々大陸の3分の1くらいだ。
既に展開されている世界と合わせると、おおよそ大陸1個分程度の広さ。これが理法典の限界容量である。
それでは、行ってみようか。
ふんすふんすと気合い十分なウルルに近寄り、囁く様に声を掛ける。
「ウルル……一番期待してるよ」
「っ!! ……ゆきぃ」
「さぁ、ウルルの全力。僕に見せて?」
昨夜の反動かキスしてこようとしたウルルの顔を抑えて止め、距離を取る。
ウルルはしばし切なそうに此方を見ていたが、僕が手をふりふりすると諦めた様子。
ベルベルに似た狼そのものの構えを取り、集中し始めた。
研ぎ澄まされた意志が魂を震わせ、吹き上がる闘気が集束する。
より深くまで感知して見ると分かるが……ウルルは星々の神権に働き掛けている様だ。
練り上げられた仙気に神権から生じた強固な星々の属性魔力を練り込み、更にシリウスの力をも混ぜ合わせている。
漏れ出す絶大な力の一端が空間を歪め、大気を震わせる。
それは世界の悲鳴だ。
刹那——閃光が迸る。
その様、然ながら流星の如く。
突進するウルルはアダマンタイトの鎧を粉砕し、そのまま山々を貫通。
未生成領域に入って真反対から再出現し、勢い止まらず三周程した所で、ようやくブレーキを掛けた。
海を両断し大地を捲りあげ、人型だったからかバランスを崩して大地へダイブ。
衝撃波で周囲を吹き飛ばし、巨大なクレーターを作って停止した。
その様、正に隕石。
評価は…………うむ。難しい所だが、威力自体は白羅の一閃と比べて遜色ないレベル。
欲を言えばその速度で軌道を完璧にコントロール出来れば文句なしだが、現時点ではコレが出来ただけで十分凄い。
これなら単独で機神と渡り合えるだろう。
凄まじい力を行使した代償を受け、その強大な反動で血の海に沈むウルルを抱き起こし、愛を込めて癒す。
「……ユキ、どうでしたか……? 私はユキの期待——」
ぼろぼろな体で言葉を紡ぐウルルにご褒美をあげて、治療を再開する。
「……皆には内緒だよ?」
「……ゆきぃ……くぅーん」
「だーめ。特別な事は何度もしないから特別なんだよ? 昨日だって本当はダメだったんだから。そこの所勘違いされると困る」
「くぅーん……くぅーん」
「もう……ちょっとだけだよ?」
ちょっとだけだからね。
◇
ほんのちょっと。ちょこっとだけサービスしつつ、その後どうしたら良いか等の改善点を指導して、ウルルの確認を終えた。
次はリッド。
「よろしくねー」
「……」
うにょんと伸びた触手を握ると、感じたのは何やら独特の深みがあるぷにぷに感。
柔らか過ぎず、硬過ぎず、弾力に富み、握ればぐにゃりと変形する……食感良さそう。
うにょうにょ伸びた触手で全身もちもちされた所で、早速成果確認スタート。
距離を取って見ると、リッドの体内でバランスボールくらいのサイズの光る玉が生成された。
若干の気の揺らぎはあるが、何ぶん体内の事なので、体外にその影響は殆ど漏れていない。
光自体も、コントロールのが良いのか体を通して見ているからか仄かであり、陽光の下では気付き辛いだろう。
次の瞬間、光る玉はリッドから射出された。
びたむっとアダマンタイトの鎧に衝突したそれは、ぐにゃりと体を広げて鎧を包み込み、そうしている間にも瞬く間に鎧が溶解して行っている。
「ふむ……」
多少の神権を行使して練成した強力な酸属性を分体に付与し、投げ飛ばした。
分体だから自力で動くし、軌道修正も出来る。
中々強力な攻撃だ。
物は試しと、様々な神霊金属の同型鎧を出してみる。
リッドは心得たもので、光を宿す触手を伸ばしてみせた。
体表に現れたその力は、ウルルの時と同様に大気を震わせている。
これをしっかりコントロール出来る様になれば、外部に影響なく対象のみに影響を与える事が出来る。
果たして、伸ばされたリッドの触手は、全ての鎧を包み込み、凄まじい速度で溶かしていった。
観測するに……一番時間が掛かったのはイロミツタマの鎧。次点でナイオーネ。僅差でハクムコウ。
逆に早かったのは、シンチンテツ。オリハルコン。アダマンタイトの順。
鎧に使われる金属は全て無霊を想定しているが、それにしても一分野に限って言えばレベルにして600前後に相当する力を持つ。
一番手間取ったのは再生力の高いイロミツタマ。次点は浄化と中和が出来るナイオーネ。ハクムコウに関して言えば、単に強力な斬属性の組成を破壊するのに手間取ったと言った所か。
中々やる。
最後に、アトランティスに迫る巨大なアダマンタイトの鎧を出して見せた。
リッドは全身を光らせ、それに飛び付く。
溶かすのかと思った次の瞬間——
「——むむむ」
リッドは肉体を変質させた。
鈍い金属の輝き。それは纏わり付く鎧と全く同じ物。
同じ特性を持ちながらも、それらはまるで液体の様に動き、鎧に纏わり付いて——
——ミシッ。
響く異音。
ミシミシリと歪む音。
瞬きの後——崩壊。
鎧は無惨に折れ曲がり、捻じ切れる。
「……」
思考を巡らせる。
無霊のアダマンタイトの鎧は、神性を宿す硬属性仙気の鎧。
基礎スペックではレベル550相当。十分なサイズの重鎧である事を考慮すれば、その分野に限れば総合力ではレベル700に届きうるだろう。
それを正面から破壊したと言う事は、先の変質した金属は等級にして最低でも幼霊のアダマンタイト。
リッドはそれを生成し、その上自在に操ってみせた。
僕がハクムコウを作るのにどれだけ苦労したと思っているのか。
……いやまぁ、防勢意志は攻勢意志と比べて金属化させ易いのは間違いないし、アダマンタイトとハクムコウでは生成の難易度が段違いだ。
とは言え、リッドが神霊金属を生み出したのは間違いないし、それを自在にコントロールしてみせたのも間違いない。
これはリッドの魔力操作能力が頭抜けている証左に他ならない。
勿論ウルルの攻撃力はそれを貫いて余りあるが、リッドの汎用性、もとい万能性と巨体を考慮すると……ウルルではリッドを殺しきれない。
……いやでも貫通力を打撃力に変換出来ればいけるな。それこそ最後にクレーターを作ったのと同じ事を最初にやっていれば幾らリッドでもひとたまりもない。
まぁ、どちらも流石と言った所である。
だらーっと大地に広がって休憩しているリッドに、取り敢えず飛び込んでおいた。




