第32話 ユキ、経験を積む
第八位階下位
※甘党注意報
僕の上に乗っているメロットは一見すると満足そうに見える。
ただし、実際の所はどうだろうか?
種族が種族だけに、その欲求の根源は僕には分からない。
知ろうとするにはそれこそ下世話に調べるか非人道的に調べるかだ。
しかし、心を覗き込まれる事を良しとしても、肉体に根差す獣の本能を見られて嬉しい者などいないだろう。
だから僕は彼等の欲求の根源を本当の意味で理解する事は出来ない。
心が全てではないし、体が全てでもない。両者は並び立つ物だから。
僕はそれらを推測する事しか出来ない。
「……満足、した?」
「……ごくっ」
………………なに味わってるの。
「ちょっと」
「……仕方ない。ユキがいっぱいだすから」
「それは体質のせい」
と言うか、こっちに来てまでこうとなると、肉体を完璧に再現しているのか、或いはそれが魂のレベルでの遺伝なのか。
近々定期検診もあるし、その時に良く体を調べてみよう。
メロットは頬擦りした後、僕の髪に顔を埋めた。
「……不満足。そう言う人、嫌い?」
「……別に。ただ時間は有限だから」
「……軟派、やめたら?」
「……してないし」
……してないし……金の神様もこんな気持ちなのかな?
「……むぅ……その顔、嫌。ちゃんと、見て」
「…………どんな顔だし」
「……女の子みたいな顔」
「…………ど、どんな顔だし」
「……むぅ」
……してないし。
「……塞ぐ」
「ん」
滲み出る唾液を舐めとる様に、奥までしっかり塞がれた。
もうコレがご褒美で良いんじゃないかと思わない事もないが、対価と日々の交流は区別しなければならない。
僕は諭す様に口を開く。
「……あんまり1人に構うとさ、時間がなくなっちゃうから——ん」
「……から?」
「……こう言う事はご褒美以外では控えて——ん」
「……それは仕方ない。ん」
「……そう思うなら、ん……もう、言ったそばから……」
繋がる銀糸を拭う暇も無いラッシュを止めて、メロットは呟いた。
「……コレでも我慢してる方」
「どこが」
「……知らない? もっと深く繋がれる方法」
「……魂合かな?」
「…………それもある。懸念は分かる。問題ない。許可は貰った」
捲し立てる様にそう言うメロット。
誰が僕の貞操の許可を出したよ。
「……ダイヤの王が、金の神は夢中にならないくらいなら大体許すって」
「……くそぅ、軟派連中め」
図らずも金の神のボーダーラインが分かってしまった。
「……それ言いふらさないでね?」
口実がなくなるから。
「……口止めり——」
メロットが何か言いだす前に口を止めた。
「……嫉妬も、色欲も、強欲も、傲慢も、嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
……もしかして、メロットは己の感情を恥じていたのかな?
怠惰なふりをして、他の強い感情を隠していた。
だとすると変わった原因はやはり、狂戦士化とダイヤの王か。
「……ふむ」
やっぱり好ましい成長なので、僕は望み通り、メロット押し倒した。
「……ユキ?」
「満足させてあげる」
「……交尾?」
「それはなし」
なしったらなし。
◇
帰還した皆を労い、食事と温泉で疲れを癒して貰ってから、報酬選択の時間を取り、その後明日以降の話をして解散とした。
さぁ、明日に備えて今日は早く休もう。そう考えつつ僕の部屋に戻ると、ウルルが人形態で正座していた。
僕が入るなり、ウルルは即座に立ち上がり、僕を抱き抱える。
「ウルル?」
「くんくん……やっぱり、ユキの身体中からメロットの匂いがします」
僕をぽんと布団に転がして、押しつぶす様にしてのしかかり、全身を擦り付けて来る。
それだけでは飽き足らず、べろべろと顔中を舐め回して来た。
さり気なくキスもして来ている。
「わぷ……ちょっと……ウルル、もう」
「ユキ、ぺろっ……ユキ、ちゅ」
まったく。舐めるんだかキスするんだか、身体を弄るんだか匂い付けをするだかはっきりして欲しい物である。
僕を舐め回すウルルの感情からは清々しく迸る熱量を感じる。メロットのは煮詰めたみたいにドロっとした感じだった。
おそらく、この愛属性の一種は、より沢山の感情を含む程、心を絡めとる様に粘度を増すのだろう。
まぁ、取り敢えず、こう言う事は相手に任せっきりではいけない。
求められるままに差し出すのではなく、求められる前に与える。そうする事で、相手はより早く満足する。
勿論与えるだけでもダメだ。
時に嫌と言う程与え、時に焦らし、時に好きに貪らせ、時に会話する様に、或いはダンスを踊る様に動きを合わせる。
人によって変わるニーズに合わせて相手を満足させつつ、さり気なく調きょ……教育して、僕の望みが相手の望みになる様にするのである。
と言う訳で……。
「ウルル」
「……ユキ」
その真っ直ぐな所……嫌いじゃないよ。
……勿論メロットみたいにドロっとしたのも嫌じゃないけどね。




