第31話 メロメロメロット
第八位階下位
※甘党注意報
隣に腰掛けたメロットは、じーっと此方を見詰めて来る。
「…………ユキ」
「なにかな?」
首を傾げて見せる僕を、メロットはじとーっと半目で睨む。
「……昨日は、楽しかった?」
「……何の事かな?」
「……黒髪の子とイチャイチャして」
………………いや、ふむ、成る程。
「確かに、チサトに配慮してメロットに配慮しない理由はない」
「……そう」
明後日の方を向きながらも、メロットは不機嫌から一転、どこか嬉しそうにしている。
……付き合いの差を考慮しての事だろう。
「……今?」
ぐいぐいと頭を押し付け、甘えて来るメロット。
いつになく積極的だが……ダイヤの王との交流で何か思う所でもあったのだろうか?
「今はちょっと難しいかな」
「……明日?」
「明日は攻城戦の特殊演習を丸一日掛けてやるから……」
「……じゃあ、いつ」
僕の回答にメロットは少しずつ不機嫌を取り戻し、平坦な声でグリグリ頭突きをしてくる。
いや、折角魂合するなら消耗も大きいし、何かしら有意義な事をしたいじゃない?
そんな風に弁明すると、メロットは一際強く頭を押し付け、グイッと僕を押し倒した。そのままのし掛かって来る。
「……言質をとる」
「……ふむ」
自前のクッションを枕に僕の上で目を瞑ったメロットは、何時間でも待つ態勢である。
……タク達も十分な教育が完了しているし、明日以降はもう放っておいて問題ない。
ヴァルハラと交流して貰っているし、技術的にも魂魄的にもレベルが近い彼等と一緒に自主鍛錬に励んで貰えば良いからね。
それ用の施設も準備は完了している。黒霧に申請すればイベントステージの利用も可能だし、食事も各自食堂で取ってもらう形とする。
折り返しとなる明日からは、配下の子達を徹底的に鍛える予定なのだ。
明日は、操気法から仙気法までの基本を復習し、更に王威や魂喰い等の特殊スキルやスタイルを磨き、特別に用意したフィールドで実践する。
明後日も明々後日もその次も同じ修行。違うのはフィールドのみと言った所の実践を予定している。
となると、メロットに構ってやれるのは……。
「……5日後なら出来るよ」
「……予定は未定?」
「……5日後にやろう。決定」
「……なら良い」
疑り深い……いやまぁ、チサト以上に焦らされた形だし仕方ないか。
メロットは言質を取れてご満悦である。
どいてくれなくとも作業は出来るので、メロットが満足するまで待ちつつ、フィールドのメイキングをする。
「……やっぱりユキは押しに弱い」
真っ直ぐ僕の瞳を覗き込みながら、唐突にメロットがそんな事を言い出した。
「……別にそんな事無いよ、メロットだからさ」
「…………そう言う事、誰にでも言ってる」
「そんな事無いけど」
「……信用に値しない」
視線こそ真っ直ぐ向き合っているものの……いや、それ故に、メロットの言が先と違ってまったく本気じゃないのが分かる。
口先だけのほんの戯れだ。
案の定、メロットは眠たげな瞳のまま、ぺろっと舌を出して見せた。
「……冗談。信じてる」
「まぁ、当然だね」
「……そう、例えチョロユキだったとしても」
「む……」
唐突な罵倒に、唇を尖らせる。
やっぱりダイヤの王の差し金か。
僕は指を伸ばし、メロットの下唇をツンと押し上げた。
「……そう言う事、言っちゃダメだからね?」
と言うかちょろく無いし。誰だ最初に言い始めた奴は。
密かに憤慨していると、メロットが僕の手を払った。
そうと思ったの束の間、メロットは僕の両腕を掴んで畳に押し付ける。
そして瞳から魂まで見透さんとする様に、顔を近付けて来た。
「……ダメなら、悪い口、塞いでみたら?」
珍しくも表情筋が動いている。メロットはまるで挑発する様に微笑んでいた。
鼻先が触れ合う程に近い距離。
少し首を傾げただけで、お互いの吐息は深く交じり合うだろう。
「……離してくれたら塞げるけど?」
「……離さなくても、塞げるけど?」
……凄く強引な所がダイヤの王のやり口に似ている。雰囲気は狂戦士化状態のメロットを薄めた様な感じだし……抑えてた感情の使い方を覚えたんだろう。
コレもまた成長だ。
「……まぁ、良いけどね」
言うやクイっと軽く首を上向ける。
甘い香りが鼻腔を満たす。
「ん……やっぱりチョロユ——ん」
心にもない事を言おうとしたメロットを遮る。
口を通じて肺に満ちる、どこか桃に似たメロットの匂い。
少しの間を置いてからゆっくり離れ、不敵に笑ってみせた。
「……どっちがちょろいか、知りたくない?」
メロットはふっと今までで1番の笑みを浮かべた。
「……教えてみせて」




