第30話 順調
第八位階下位
微睡みの中、ふいに目を開くと、ニコラが簀巻にされていた。
犯人は——
◇
「——うーた……ん?」
「むにゅ?」
はっと目を覚ますと、うーたんの顔が直ぐ目の前にあった。
若干寝惚けた思考を覚醒させつつ、上体を起こす。
視界に入ったのは……大きなソーセージをもぐもぐしつつ簀巻にされているエヴァと、それを取り押さえているニコラの姿だった。
「ママ起きたの〜」
「おはよう☆」
「もぐもぐ?」
時刻は昼をとうに過ぎたおやつ時。
「……ニコラ、お疲れ様」
起きて桃でも食べよう。
◇
砦を4つ全て攻略し、折り返しを超えてまもなく終盤。
中ボスや隠しボスとの戦いも経て、皆は疲弊している。
特に魔力は、大気中のマナを吸収しているとは言え焼け石に水。温存は全く出来ていない。
マナの分解にも精神力を消耗する為、城攻めは困難を極める。
常人ならば最早リタイアしても仕方ない状況であり、事実今は限界が近い者達とまだ戦える者達で2手に分かれ、方や敵を引き寄せて狩る。方や敵の群れに殴り込む形で殲滅を進めていた。
その後、気配を殺して襲い掛かる暗殺型の隠しボスにセンリが強襲されて肩をやられて撤退したり、それをアマネが射抜いたり、ミサキと騎士型の隠しボスが衝突したり、皆が次々に撤退を余儀なくされるのを、うーたんに桃を差し出されながら見た。
やはり過酷な状況に追い詰められるとその者の本質が見えたり、または更なる飛躍に繋がる物で、クンはバーサーカーモードから打って変わってキリサメと同じ様に酷薄な笑みを浮かべる様になったし、戦線を支える戦士達は自己治癒や練気、気配察知をより正確に行える様に成長している。
後衛も、なんとか魔力を捻出しようと試行錯誤しているし、ユウミに至っては治療のみにだが魂魄の貯蓄魔力を使える様になった。
魂魄の力を用いた気の練成。それは言わば仙気法の領域、『霊験門』を見据える一歩である。
まさか最初にそこへ踏み込むのがユウミだとは思わなかったが……いよいよ皆もこの世界に本気になって来たと言う事だろう。
この分なら夕飯までには終わるだろうし、食べなくても良いとは言え皆お腹を空かせて帰ってくるだろうから、しっかり休める様に準備しておこう。
理法典にアクセスして巻物を取り出し、畳の上に広げて今夜や明日以降のステージの設定を行う。
ついでに構って欲しそうなうーたんを膝の上に乗せ、桃色の頭を撫でておく。
立体映像をあれこれ弄っていると、シャルロッテがやって来た。
「神様、失礼します」
楚々とした姿勢で僕の横に正座した彼女は、祈る様に手を合わせ、目を瞑った。
気にせず設定を行う。
チラリとシャルロッテの意識が下の方を向いた気がした。
気にせず設定を行う。
またチラリとシャルロッテの意識が下を向いた。気がした。
気にせず設定を——
「……ママ、しゃーねーたんがね、ママの足が欲しいって言ってるの」
——子供に何言わせてんだコイツは。
パッと目を開いたシャルロッテは照れる様にはにかんだ。
「そんなっ……欲しいなんて恐れ多い事ですウレミラ様。ただシャルロッテは神様のおみあしから本日の俗世の穢れを落とす為に必要な措置として——」
子供の前で言い訳をこね始めたシャルロッテを遮る様に、うーたんを抱えて立ち上がる。
そしてシャルロッテの膝の上に腰掛けた。
「……」
「……」
「……しゃーねーたんはなぢ——」
「——しっ、見ちゃダメっていっつも言ってるでしょ?」
「にゅ……ごめんなさい」
まったく。エヴァと言いシャルロッテと言い、所構わず求めてくるのはどうにかならないものかね?
せめて子供の前ではやめて欲しいね。
◇
オーバーヒートしたシャルロッテを寝床に放り込み、設定を続けていると、今度は珍しくメロットがやって来た。
その手にはピンク色の兎飴が握られている。
「めろねーたんなの〜」
「……ん」
姿形が似通っているからか、うーたんとめーたんはメロットに良く懐いている。
メロットは兎飴をうーたんに手渡した。
「……あげる」
「ありがとうございますなの〜♪」
本当に珍しいのか、それとも僕がいない所では普段からこうなのだろうか? メロットも満更では……ん?
チラッと確認したメロットは部屋の外を指差していた。
なんだと思ったのも束の間、突然うーたんが何かを閃いたとばかりに捲し立てる。
「ママ、あのね、うーたんね……用事を思い出したの」
「うーたんの用事とは」
「えっとね……う〜ん……めーたんと遊ぶ用事なの!」
「そっか、それは大事な用事だね?」
「そうなの、とっても大事なの」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「うにゅ! ……ごゆっくりなの〜」
…………さっきのは賄賂的な何かだったのか。思ってた以上に仲良いね君達。
うーたんはそそくさと立ち去り、それを確認したメロットは、僕の隣に腰掛けた。




