第3話 ユキに迫る黒い影
第四位階上位
南門から出発し、魔物の数が大分少なくなった草原を抜ける。
と、言っても、魔物の襲撃が無い訳では無いし、全員を乗せて移動出来る配下を連れている訳でも無い。
このまま行けば、移動には徒歩五時間程かかる距離なのだ。
意気揚々と出ても疲れるだけである。
現在は、タクがレギオンを作れる様になったので、僕とその配下のレギオンと、タク達メンバーのレギオンの二つで行動している。
タクによると、レギオンを作れる様になる為には、指揮、統率、連携、何か又は全てを取得する事が条件になっているのではなかろうかとの事だ。
この三つのスキルは、スキル取得欄にある人と無い人がいる様なので、取得出来る様になるには何らかの条件をクリアする必要があるのだろう。
それを考えると、インベントリや鑑定も、何かしらの条件を突破すれば取得出来る様になる可能性もなきにしもあらず。
例えば、インベントリは空間魔法が関連している様なので、空間魔法のレベルを上げれば取得出来る様になる、とか。
まぁ、空間魔法はスキル欄に無かったので、空間魔法を取得出来る様に何かしらの条件を満たす必要があるだろうが……。
それもまた、1万ものプレイヤーがいればいずれ明らかになって行く事だろう。
そんな訳で、現在僕と白雪はウルルに騎乗して、皆が戦うのを見ているところだ。
今更ワイルドドックに苦戦する程柔な連中では無いので、僕も安心して見ていられると言う物。
白雪は何故か、遠い所を見詰めているが、此方に襲い掛かってくる犬はいないので問題ない。
さて、皆の戦いの様子だが、単純に無双である。
正面から突っ込んでくる事しかしない犬達は、武器が強くレベルも上がったタク達の敵では無く、大体は一刀の元斬り捨てられている。
面白味も何もない一方的な命のやり取り、何故犬達はそうまでして人に襲い掛かってくるのか。
ふと疑問に思ったのだが、もしかすると、ワイルドドックの森にはワイルドドックを発生させるミニ迷宮があるのかも知れない。
迷宮の魔物は名前にメイズとつけられて、地上の物と分けられるが、地上に出た時点でメイズかどうかの判断は出来ない。
それでも迷宮の支配力は残るので、しばらくの期間は迷宮に設定された命令に従う様になっているのだ。
もしそのミニ迷宮を発見し、迷宮核を持ち帰れれば、拠点に安価でワイルドドックのミニ迷宮を設置出来るかも知れない。
もちろんそんな事をすれば、南の草原から森に掛けてを狩場にしているプレイヤー達から経験値兼収入源を奪う事になるだろうが。
まぁ、複数あった場合は一つくらい頂いても問題なかろう。
暇があれば狼耳を生やして探ってみよう。
◇
皆の戦いを見つつ、のしのしと進む。
かなり余裕があり暇だ、せっかくなので新しく手に入れた装備の確認をしておこう。
入手した装備は三つ。
まずは雪狼の毛皮鎧。
全体的にモフモフな鎧、と言うか服である。帽子も付いているのでしっかり頭も暖かい。
次に氷雪の宝珠。
見た目は、丸くて白と水色が混ざった透き通る水晶玉。
少しずつ周囲の魔力を取り込んで、氷属性と雪属性の魔力を吐き出している。
冷たくて気持ちいい上に、手を離せば浮遊して付いて来た。
謎物体だが、鈍器に使うのかな? ……使い方を考えるなら間違いなく氷、または雪属性の魔法を使う時に何か起きるのだろう。
試しに氷属性魔法を使ってみる。
メニューを開き、スキル欄から氷属性魔法を選択してみると、技名と詠唱だけ出てきた。
レベル1で使えるのは一つだけの様だ。
技名は『アイス』。氷だ。氷である。
詠唱は、『氷よ、現れ出でて、敵を撃て』。
まぁ、詠唱には言霊くらいの意味合いしか無く、発動のトリガーと言う訳でも無いので、技を鑑定する。
出てきたのは、その効果。小さな氷の玉を作り出し、標的へ真っ直ぐ飛ばす。とある。
氷の大きさも飛ぶ速度も必要魔力量も書かれていないが、スキルに魔法陣学があるおかげか魔法陣も表記されているのでそれを参考にする。
何やら、大きさ制限と速度制限がかけられていたのでそれを取っ払い。
吸い取られる魔力量が決まっていたので量を変更し。
後は、あえて作られたと思わしき、吸い取る際や魔法を成形する際、他、の無駄な部分を削ぎ落としたり付け足したりして効率化を図る。
早速、頭の中で作り上げた魔法陣を展開、発動させる。
詠唱は不要だが、無意味では無いので、少し加えておく。
標的は耳を生やして確認済み。ちょうど森から飛び出してくる犬である。
「『氷よ』」
そう唱えつつ、魔力で魔法陣を作り其処に十分な量の魔力を込める。
すると、近くで浮遊していた氷雪の宝珠がキラリと光り——
——巨大な氷塊が現れた。
想定よりもずっと大きく、僕の身長程もあるその氷塊は、想定よりもずっと早く飛び、森から飛び出してきた犬を潰し幾らかの木々を粉砕して砕けた。
やり過ぎである。
これなら詠唱は要らないし、無駄を省いて損は無いが制限を取っ払う必要は無さそうだ。
惨状を解体して次に移る。
最後に雪精姫の精霊装を確認。
インベントリから取り出した服は、白雪の着ている物とお揃いと言える物だった。
白雪のそれと違って露出が多く、所々透けている。
まぁ、着られない程でも無いので、羞恥心とか其処のところを気にしない僕が着るべきだろう。
それに、着たら白雪が喜びそうである。
一応は戦闘用なので、場合によってはこれでパーティーに参加しても良い。
着替えてみないとその性能はわからないが、メイド服同様上から下まで揃えられたこの服を着替えるには少々面倒臭い。
……そう言えば、クランショップにスキル『換装』と言うスキルがあった。今ある魔石を殆ど変換すればギリギリ買える値段だったので、早速購入してみよう。
手に入れた換装スキルは期待通りの代物だった。
言うなれば、早着替えスキルである。
登録された装備に直ぐにチェンジする能力、レベル1では登録できるセット数は5つで、その内1つは今の装備で埋まっていた。
雪精姫の精霊装を登録、指輪と腕輪、宝珠も登録して一セットにし、選択する。
すると、一瞬僕が光に包まれ、次の瞬間には雪精姫の精霊装を着込んだ状態になっていた。
髪型もツーテールになっているし、白くて透けている靴も装着されている。便利だ。
後、インナーの形状が少し変化している様で、透けている所からは黒のインナーが見えない様になっている。
その透けていた部分も、装着後、氷雪の宝珠が放つ氷と雪の属性魔力を吸って白く変化した。そう言う仕様だったらしい。
「おねぇちゃん」
「ん? アヤ、どうしたの?」
装備の確認を終え、周りの警戒に戻ろうとしたら、アヤに話しかけられた。それも、おにぇちゃんでは無くおねぇちゃん呼びだ……何事?
「遺跡についたらお昼ご飯だよね」
「うん、大体そんな時間に着く予定だけど……それがどうしたんだい?」
「ううん、ちょっとやる事が出来たから、おねぇちゃんは先にログアウトして食べててね。あぁ、そのケモミミ状態はそのままで」
「? 一緒に食べないの?」
「ぐっ」
何やら変な事を言い出したアヤ。せっかくの機会なのに一緒に食べようと言わないと言う事は、アヤにとってそれくらい重要な事と言う訳だ。
となると愚問だったかもしれない。
アヤは何やら暫く葛藤し、しかし決断した様に頷いた。
「……う、うん、やる事があって……おねぇちゃんは先に食べてて欲しいな……」
「そう、大事な用事なら仕方ないね……手早く終わらして直ぐにログアウトするんだよ?」
「う、うん! て、手早くやるよ、大丈夫! …………お、おねぇちゃんがやって良いって言ったんだからね」
アヤは最後の方を小声で呟いた。
何をやって良いと言ったのかわからないが、アヤもアナザーを順調に楽しんでいる様で、何よりである。




