第21話 それは信仰の様なモノ
第八位階下位
翌朝。
未だ日も上がらぬ内に待ちきれずに起き始めた何人かは放っておいて、朝ごはんを作った。
あくまで仮想であり、本来食事は不要な上に食材も偽物だが……その偽物でも内部構造や偽装魂魄が完全に再現されていれば、捕食者に何らかの影響があるのではと考えた。
用意したのは、主に植物系魔物等が保有する、生命力限界増加のスキル因子を持たせたサンドイッチ。
再生系スキルの補助スキルとして使えるし、生命力自体が使いやすいエネルギーなので、取得しておいて損はない。
……ただ、魂魄で活動出来る様になると、その分操魔力も上がっているので、生命力も普通の魔力も使い勝手は同じくらいになる。
まぁ、ちょっと使いやすい魔力を保存しておくスペースを増設する。くらいの気持ちで取っておいても良いかもね。
◇
ちょっとした規模の公園で、午前の授業を開始する。
野原に敷かれた茣蓙の上で、皆が座禅を組み、僕の言葉に耳を傾ける。
「昨日色々説明したけど、取り敢えずは普段やるのと同じ事をすれば良いよ」
やってない人はこの後説明しよう。
僕の指示を聞いて、目を瞑り集中し始めた皆。
気候は程よい暖かさ。
吹き抜ける青風が熱を冷まし、さわさわと揺れる葉擦れの音が耳に心地良い。
集中を途切れさせ無い様に声音を調整し、より集中できる様にリズムを整えて呼び掛ける。
「……疲れたら各々楽な姿勢で休む様に、必要な物があれば僕に声を掛けてね」
「……おにぇちゃん、ふざけるのはありですか?」
「なしです」
「ではユキミンを、アヤにユキミンCを恵んでください……!」
「なしだって」
「……」
……目が本気なんだけど。
と言うか……ユキミンCってなにっ? Cってっ…………ユキミンには種類がある……?
ふと周りを見ると、数十の本気の視線が僕を貫いている事に気付いた。
「…………各自集中して取り組むように」
取り敢えず気付いてないふりしておいた。
「……僕は皆よりずっと集中力を要するダイジナサギョウをするから、用がないなら話しかけないでね」
ニコリと微笑み目を瞑ると、視線の主達も諦めた様子で、修行を再開した。
……折角集中しやすい様に声を掛けたのに、それが裏目に出てしまった。
結果的に皆リラックスでき……たかどうかは分からないが、ともあれ、大事な作業を行わねば。
大事な作業と言っても大した事は無い。ただ皆を魔力で包んで、マッサージする様にして生命力の操作を補助するだけだ。
一部クリアとかクリアとかが遅れるかもしれないが、午前中までに操気法をマスター出来る筈である。
◇◆◇
集中する。
緩やかな風。麗かな日差し。小さく鼓動する私の心臓。
己の深くを覗き込む。
少しの汗。巡る血流。そこに感じる微かな違和。
ユキさんは言っていた。魔力は意志によって変ずると。
集中し、血の巡りを意識して、そこから丹田へ薄らとした何かを集める様にイメージする。
素早い血の巡りから何かが外れ、それを微かな違和感として認識する。
何かがある。
巡っている。
否——満ちている。
外から暖かい何かが入って来て、私の意思とは別に動いて回っている事に気付く。
これはきっとユキさんだ。
ユキさんがそれを動かす事で、私は私の中に大きな力が眠っている事を理解した。
まるで固まった大地の様に動かないそれを、耕す様に削り取り、意思を込めて操作する。
それは宛ら道が拓けるかの様に、もしくは水が染み渡る様に……私が、ゆっくりと目醒めて行くのを感じた。
ユキさんが、本気を出さなければならない、未知なる力。
ユキさんが、本気で嗤った、未知なる力。
ゆっくりと力が目醒め、丹田に集まる。
それと同時に感じるのは高揚感。
力が湧き上がるかの様な……実際に湧き上がっているのだからそのものズバリなのだろう。
オドの感知は出来た。
次は操作。
丹田に集めたオドを、腕に移動させる。
多少動きが遅い様に思うが、難なくクリア。
幾らかあった引っ掛かりを解かす様に、ユキさんが動いて回り、くすぐったい。
私のそれはユキさんの魔力と比べて明らかに動きが遅いけど、訓練を積めばどうにかなるのかな?
しばらく右手に左手、右足左足とオドを操作して、操作訓練を続けていると、ユキさんから声が掛かった。
「……クンは初期段階終了ね。次のステップに進んで良いよ」
「あ、はい! ……え、次?」
言った所で気付く。既にタクさんやシロ姉さん、お姉ちゃん達は瞑想を終え、それぞれの武器を持っている事に。
よーく見ると、その武器が微かに発光しているみたい?
「はい、クン用の武器」
渡されたのは……木製の銃の様な物。
精巧に作られているけど、重心的に本物では無いですね。
「わー、凄いですねコレ」
あちこち見たりした後、セーフティーを外し、引き金を引いてみた。
——なんか出た。
はっきりとは分からなかったけど……なんかポップコーンみたいなのが飛び出て、地面に着弾する前にユキさんの手が閃き、それをキャッチした様に見えたが気のせいかもしれない。
私の視線を受けたからか、ユキさんは手を差し出し、ニコリと微笑んで開いた。
——なんか持ってる。
「…………あぁ、まぁ、ユキさんだもんね」
「何に納得しているのか」
ユキさんなら何が出来ても不思議じゃ無いよね。
それはそうと……ユキさんの手のひらの中にあるそれを見る。
それはなんと形容したら良いかよく分からない謎の物質だ。
半透明で素材は不明。形状は波打つ様な激しい起伏を持つ球形。
「これは……?」
「強いて言うならクンの殺意」
……こんな波打つ殺意がある物かと。いやでもユキさんが言うならそうなのかも?
イマイチ納得の行かない私を見兼ねてか、ユキさんが助言してくれた。
「正確には、銃で撃つと言う気持ちの具現化。ちゃんと意識すればちゃんとした弾が出ると思うよ?」
「成る程……確かに意識が散漫でした」
どんな技術かは皆目見当もつきませんけどね? でもユキさんが言うならそうなんでしょうね。
少し遠い地面に向けて、意識を集中させて撃ってみると、今度は多分ちゃんとした円錐形の弾が出た。
そしてユキさんがキャッチした。様な気がしたけど気のせいかもしれない。
「うん、今度はちゃんとした形状のが出たね」
「デスヨネー」
「?」
……うーん。明らかに人の限界を越えてるし、コレがレベル差って奴なのかなぁ? ……その理屈で言うとレベルをユキさんより上にすればユキさんより強くなれるって事? うーん……想像つかない。
取り敢えず、ユキさんの修行プログラムに従って、武器に生命力とか言うのを流し込むトレーニングをしよう。




