第20話 眷属達の密会 二
第七位階上位
黒霧殿に促され、最初に話を始めたのは、レーベ殿。
「そうさな……俺が神気と呼ばれる力と出会ったのは、長き時の中で一度のみ。冥域より現れた濁冥獣が放った一撃から、その様な気配を感じた」
「因みに濁冥獣の想定レベルは最低でも600です。レーベ様が遭遇した濁冥獣の想定レベルはおよそ800になります」
場が騒めく。
誰かが声を上げた訳では無い。
ある者は驚きに魔力を揺らがせ、またある者は悦びに闘志を燃やす。
主様の配下の多くは、天界よりも魔界に行きたがっている。そこに多くの獲物がある事を知っているが為に。
「それでは最後に、レーベ様、その神気とマイロードの神気を見て、どう思われましたか?」
「うむ……当時はとても敵わぬと思った物だが、今はその力を扱えてこそ強者であると考える」
レーベ殿の言葉は重い。それだけ長くに渡り、研鑽を積み重ねて来たのだから。
今は分からないが、幾日前は我等眷属全員と対等に渡り合った強者。
その言を疑う者はいない。
次に指名されたのも、レーベ殿同様に強大な力を持ち、多彩な技を持つセバスチャン殿。
繊細且つ緻密な操魔力には現状特に優れている者達の中でも頭一つ抜きん出ている。
あのシャルロッテ殿が師事するのだから、それだけ正道であり早道なのだろう。
「私が神気と呼ぶべき力を感じたのは二度。一度目は旧ベルツ大陸に存在した神門から。二度目はヴァンディワル様と初めてお会いした時です」
「神門については秘匿情報ですので、マイロードには決して感づかれない様注意してください」
神門。
セバスチャン殿によると、かつてのマレビト達が試練を超えた暁に開かれる筈だったらしい。
それが如何なる物なのかは分からぬが、主様に曰く、試練とは神を産む為の物。それ故、神門は神代への入り口であると考えられる。
黒霧殿が主様へそれを伝える事を良しとせぬのは、主様がただ御一人で決して届かぬ彼方へと行ってしまわれるのを恐れての事だろう。
この場にいる者は皆、それぞれの理由に違いはあれど、それを恐れている。
故にこそ、我等は神気を操れる様にならねばならない。
最後に指名されたのは、アルネア殿。
「……正直良く分からないの。意味不明なのよ。でも……何となく分かるの。それっぽいのなの。グリエルが多分使ってた……かも」
「結構です……皆様お気付きだと思われますが、神気を扱うと目される者達は、想定レベル800を超えています。この意味がお分かりですね?」
黒霧殿は眉根を寄せ、我々を見回した。
勿論、此処にいる者達は十分に理解しているだろう。
「これより我々が相対する敵、吸血鬼にはヴァンディワル。天使に熾天使。悪魔、ディアリード。その他試練に携わる者達に神霊の試練……敵は皆神気を操って来る事でしょう」
誰もが深く頷く。
誰しもが、最後の時まで主様のお側にありたいと願っている。
「我等は矛であり盾。決して折れず敵を貫き、決して砕けず主人を守る。それが為に、我々は群を持って、我等が主人を遥かに超越しなければなりません」
主様を越える。おそらく不可能では無いのだろう。
それは星を掴む程に困難な諸行だ。
しかし、群でなら、その偉業を達する事が出来るやもしれぬ。
例え燦然と輝く太陽になれずとも、静かに見守る月になれずとも、それらを彩る微細な星々には必ずなって見せよう。
黒霧殿は我々を見て一つ頷くと、いよいよ集会の本題に入った。
「それでは神気の操作について、一例を提示しましょう。ヴェルガノン様……マイロードよりみだりに加護を与えない様言付けられておりますので、実際に自力且つ単独で加護を与えたのはヴェルガノン様だけです。ちゃんと。詳しく。言語化して。話してください」
「お、おぅむ……」
事前に聞いた話だと……ググッとやって、ギュッとしてからフワリとするのだとか。それぞれが何を指しているのだろうか?
「そうだな……先ずはこう……内に秘める巨大な力を掬い上げる様にググッとやってだな……取り出した力を丸く固める様にして、出来たそれを対象に軽く押し込むのだ。そうすれば加護とやらになる」
「と、この様にイマイチ要領を得ませんので、私が解説致します」
「……じゃあなんで話させたのだ……」
ボソリと呟いて項垂れるヴェルガノン殿を横に置いて、黒霧殿は説明を始める。
「先ず前提として、魂だけでの自力活動が可能にならなければなりません。それが出来る様になった事で、ようやく神気を感じ取れる様になります。その後、魂の深奥に秘められた神気を表層まで持ち上げ、最も対象の負担が少ない球形に纏めます。纏めたそれを、相性の良い眷属に投入して完了です」
言葉で言うのは簡単だ。
しかし、実践するのは難しい物で、我とて意識的に行使するのであれば僅かに動かすのが限度だ。
「最後に、現状最も早く神気操作の域に達するであろうと思われる白羅様に、神気を操作した時の感覚を教えて頂きましょう」
「うむ……ズバッとやる時にググッと力を込めて——」
斯くして密会は続く。
願わくば皆、最後の時まで主様のお側に。




