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ただの友だち。
それは、自分で言っていて悲しくなるような言葉。
だけれどそれが事実でもあるのだから、それ以外を言うわけにもいかないだろう。
俺と堂本さんは、まだ友だちでしかないんだ。
もしかしたら、これからもずっと、友だちのままかもしれないけれど。
それがいけないわけではない。
俺にとっての友だちが、どれほど大きな存在なのか、わかっているのに……。
友だちがいるということ。
俺はそれを喜んでいたはずなのに。
堂本さんと友だちでなくなってしまったら、俺の友だちはいなくなってしまう。
彼女と離れ離れになるにしても、彼女とその先の関係になれるとしても、どちらにしても、友だちを失ってしまう。
ただの友だち、それのどこがいけないっていうんだ。どうしよう。
①泣く ②笑う ③微笑む
ーここは③でしょうー
ただの、という言い方がいけないのだろう。
彼女と俺は、友だちだ。
大切な大切な、かけがえのない友だちだ。
疑うこともない友だちなんて、一生できやしないものだろう。
それくらい大切なものなのだから、それが大切なものなんだ。
そう思って俺は、得意の微笑みを浮かべるのであった。
「でもコノは、それでも構いませんけど?」
得意なのに、微笑みが揺れていることが、バレてしまったとでも言うのだろうか。
微笑みで誤魔化すことすら出来ないほど、俺は動揺してしまっていたの? 微笑みを見破ってくれるほど、堂本さんは俺のことを見てくれているの?
考えれば考えるほど、顔が熱くなってきて、誤魔化しの利かないようになっていくのを感じた。
それでもって、どういうことなのだろう。
堂本さんは、何を考えて、そんなことを口にしているの?
そもそも、彼女はどんなことを口にしていた?
混乱してしまい、わからなくなっていった。どうしよう。
①恋人でもってこと? ②友だちでもってこと? ③どういうこと?
ーここで遂に①を選ぶのですよー
それでも構わないって、恋人になっても構わないってことだよね。
つまり……、俺と堂本さんの関係は進化を遂げるというわけだ。
「ニヤニヤしないで下さい。コノまで、恥ずかしくなってきます……」
その言葉は嘘じゃないようで、彼女は顔を赤くして俯いている。
鏡で自分の姿を見てみたら、俺だって人のことを言えないような感じなのだろうけれど。
「どっ堂本さん、俺と、付き合ってくれるんですか?」
「はい。コノの唯一の友だち、そして、生まれて初めての、彼氏です」
恋って案外簡単じゃないか? はっはっはー。
なんて、調子に乗ったことを思ってしまうほど、俺は浮かれてしまっていた。
これってだって、堂本さんも俺と同じように、好意を寄せてくれていたということなんだろう?
そんなことがあったら、もう、恋って両想いなものなんだと思っちゃうじゃないか。
あぁ、嬉しい、こんなに、嬉しいものなんだ……。
パッケージを見た時点で一目惚れして、説明書でキャラ説明を見ることにより、性格にまで恋に落ちる。完全に好みを貫くようなキャラクターの攻略を自力で完了し、やっとエンディングを見るとき以上の喜びだ。
現実の恋の喜びって、ゲームとは比べようもないほどのものなんだ。
今まで、知らなかった。
恋を叶えた喜びがここまでなんて、知らなかった。
「そんなところで幸せ満開リア充化宣言していないで下さい。今は、授業中ですよ」
どうやら恋バナ大好きクズ勢は、俺たちみたいな奴には興味も示さないから、気付かないでいてくれたらしい。変わらずに騒いでいる。
しかし同じ班にいる山内さんは、そうもいかないだろう。
少し不機嫌そうに彼は言ってくる。どうしよう。
①謝る ②微笑む ③叫ぶ
ーここも①を選ぶとしましょうー
不機嫌そうな言い方。不機嫌そうな表情。
だけれど、彼は決して不機嫌ではないのだろう。
祝福してくれていると思うのは、自意識過剰かもしれない。
彼なら、そう思えるほど、俺は彼のことを知らない。
でも、それでもきっと、彼の表情は不機嫌なわけではない。
”不機嫌そう”なのだ。
「安心して下さい。山内さんを一人にはしません」
どうしたら彼の不機嫌そうな表情を変えられるかと思い、俺はそんなことを言ってみる。
元から俺と山内さんは、そこまで仲が良かったというわけでもない。
しかし修学旅行から帰ってきた頃には仲良しになっている予定だ。
親友になっているはずだから、最初にそう言ってみたのだ。
彼女ができたからって、友だちを蔑ろにはしないよ、みたいな意味を込めてね。
つまり、特に意味がある言葉ではないってこと。
「まあ。アナタったら、わたしじゃなくて、山内さんを選ぶっていうの? そんなの、……あんまりじゃないの」
真面目な雰囲気で、告白なんかしているのが、照れ臭かっただけなのかもしれない。
いつものように、ふざけたかっただけなのかもしれない。
俺があんなことを言ったのも。堂本さんがこんなことを言うのも。
いちゃらぶなんて、俺たちには合っていないってことだね。どうしよう。
①寸劇 ②いちゃらぶ ③授業中
ー真面目にここは③でしょうよー
だけど、こんな俺たちらしいのが、幸せなんだなって。
まさか現実でこんなことを思うときがくるなんて、……思わなかった。
「山内さんも、堂本さんも、俺を見捨てないで下さいね? では、授業中ですから、先生に言われたことを進めるとしましょうか」
「「はい」」
なんでだろう。
去年までは会話を交わしたこともなかったのに、ずっと前から一緒にいたように思える。
それほどまでに、二人の存在は俺の中で大きく膨らんでいたのだろう。




