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「名前で呼び合うことより、アダ名で呼び合ってた方が、関係を疑われるんじゃないかしら。試しに、ゆきたん、とでも呼んでみる?」
ゆきたんっ?! ない! 絶対に無理だからぁ!
俺が提案しようとしていたアダ名は、そういうのじゃなくて。その、なんと彼女に説明したら良いのか、適切な言葉なんて浮かばなかった。
そんな呼び方をしていたら、雪乃さんと呼ぶよりも怪しい。
しかし……、この世のものではないようなほどに美しい彼女を、本当に気安く雪乃さんなどと呼んでしまっても良いのだろうか。どうしよう。
①別のアダ名 ②ゆきたん確定 ③雪乃さん ④鬼山さん
ー諦めてここは③を選びますよー
このように言われてしまっては、雪乃さんと呼ぶしかなくなってしまう。
もしかして彼女、アダ名で呼ばれるのとか、嫌いだったのかな。
それなのに気を遣ってくれて、こういう風に断ってくれたんだとか? 優しいんだなぁ。
明らかにそんな様子ではないが、なんとかそう解釈をして、俺は彼女のことを大人しく雪乃さんと呼ぶことに決める。
ゆきたん、か。
でもそれはそれで、呼べたら周りが驚くかな。
それとも不釣り合いすぎて、だれも驚いてすらくれないかな。
「あっ、おじさん、ここがはるちゃんのおうちだよ。早くきてきて、一緒に遊ぼうよ」
場の空気が重くなり始めてきた頃、無邪気な春香ちゃんが元気良くそう言った。
しばらく歩いていたような気がするが、ここから毎日彼女は通っているのだろうか。何時に家を出ることになるんだろう。
それか、大して長い時間ではなかったけれど、異様に長く感じてしまっただけなのか。どうしよう。
①時計を確認 ②交通手段を確認 ③お邪魔します
ーここも③を選びましょうー
家はそれなりに広いけれど、なんと言ったら良いのだろう、田舎風――この言い方だと、田舎に失礼になるのだろうか――だった。
つまり、そういうことなのだ。
これもかなり失礼なことだが、田舎と呼ぶには田舎に失礼になるような家。
あくまでも外観だが、お世辞にも綺麗な家とは言えないな。
「お邪魔します」
春香ちゃんが俺の手を引いて入っていくので、俺も挨拶をして、家の中に足を踏み入れる。
家の中もどうやらイメージ通りな感じで、ギャップとかを生じさせてくれる気配はない。
「春香お姉ちゃんと、雪乃お姉ちゃんと、このお兄ちゃんはだぁれ?」
靴を脱いで廊下を歩く。どこへ向かっているのかわからないが、春香ちゃんが連れて行くままに歩く。そうしていると、新たな幼女が登場した。
幼稚園生だろうと思われる。
春香お姉ちゃんと呼んだし、春香ちゃんより年下で間違いないのだろう。どうしよう。
①自己紹介 ②紹介を求める ③初めまして
ーここも③としましょうかー
雪乃さんの方に救いを求めてしまいそうになったが、これはコミュ力を養うチャンスである。
「初めまして」
「はじめまして」
まず挨拶は返してもらえた。
良しっ! このままの流れで、幼女との距離を縮めていこう。それにこの子、春香ちゃんとは違って、お兄ちゃんって呼んでくれたからね。
おじさんとか、口には出さなくても、傷付いているんだからね?
「俺は◯◯、あなたのお名前はなんというんですか?」
春香ちゃんの手は握ったまま、その場でしゃがんで目線を合わせる。
どうやら雪乃さんも、警戒というよりは温かい眼差しを向けてくれているようなので、容赦なく……じゃなくて遠慮なく行かせてもらう。
同年代は無理だけど、子どもやお年寄りには意外と人気なんだからな。
「鬼山冬華です。四歳です」
次にしようとしていた質問を、先回りして答えられてしまった。
まさか俺の思考回路を読まれていたというのだろうか。
何にしても、冬華ちゃんは四歳とのことらしい。俺には妹も弟もいないからわからないけれど、四歳ってこんなにしっかりしているものなんだね。
アニメとかでみるロリキャラって、案外九歳くらいだったりするんだよね。どうしよう。
①驚く ②褒める ③戸惑う
ーここは②を選べますよー
四歳なんていったら、ハイハイをしているもんだと思っていた。
彼女はもちろんきちんと歩けているし、もう既に雪乃さんと同じ美しさを漂わせている。
「随分とおりこうさんなんですね」
可愛らしさに綻ぶ顔を抑えながらも、そう言って開いている方の手で頭を撫でた。すると気持ち良さそうに、少し擽ったそうに笑うもんだから、この可愛さは凶器である。
って俺も、さりげなく女の子の頭を撫でているじゃないか。
落ち着け。落ち着け、俺。四歳を恋愛の対象内にしてしまっては、それはもう犯罪だ。だから、自然に頭を撫でられたんだよ。
そう、そういうことだよね。
「えへへ。だってふゆかも、もうお姉ちゃんだもん。えっと、です!」
また新情報が入ってきた。
お姉ちゃんだもん。ということは、更に下がいるということだろうか。
一体、何人出てくるんだろう。
なぜか突然同居することになっちゃって、十人くらい兄姉弟妹が出てきて、あなたはだれと恋をする? なんて事態に発展したりしないだろうね。
ああでもそうしたら、俺は何歳の少女を選ぶんだろう。
年上というのもそれはそれで悪くない。
……何を考えているんだろうか、俺は。
妄想を振り払い、冬華ちゃんに微笑み掛けると立ち上がり、雪乃さんに続いて歩き出した。




