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まず雪乃さんは俺の彼女になろうと提案している。理解の出来るポイントではないけれど、彼女がはっきりと言っていることがわかるのはそれくらいなのだから、否定することは出来ない。
「それで、わざわざ呼び出されて告白に利用されたわけですけれど、この男が好きな女はもうわかっているわけですよ。友人という名で、その女と同居を続けさせることは構わないのですか? そんなことを許してしまうのですか?」
意地悪く言うのに笑顔だけは人の好さそうな素敵な微笑みなものだから、気を抜いたら天沢さんに黙れと言ってしまいそうだった。
彼女の言っていることは当然のことであり、彼女の発想は当然のものである。けれど俺は雪乃さんが当然の発想をしてくれるとは思えないものだから、それよりも雪乃さんの説明を聞きたかった。
本人から聞かなければ、どんな解釈をお届けしたって正解とは程遠い。それが雪乃さんだ。どうしよう。
①雪乃さんを催促する ②天沢さんを黙らせる ③待つ
ーくれぐれも③以外を選びはしないようにー
天沢さんの質問に雪乃さんがどう答えるかというところにも興味があったものだから、俺は黙って待っていた。
「許すって、どうして駄目なの?」
「は?」
「私が禁止する理由がわからないわ。それに今までならともかく、彼女になるんだったら私が彼の行動を縛る権利だってないでしょうし」
「……は?」
二度目の天沢さんの「は?」は、雪乃さんの言葉を必死に噛み砕いて理解しようとしたのか、間があってからの溢れ出たような「は?」だった。
全くもって、意味がわからないといった様子で天沢さんは俺の方に視線を向けてくる。
「とにかく、ひどいことばかり言わないであげてちょうだい。こんな地味な男だけど、悪い人ではないわ。それは知っているんじゃないかしら?」
雪乃さんだけは全て解決したつもりでいるようで、満足そうな表情で決め台詞のように語る。
「悪い人ではないって、そんなのはわかっていますよ。そもそもそんな話はしていないじゃありませんか。え、彼のことが好きだから、彼が振られたと聞いて、彼に詳細を聞いてこの方法を思い付いたのでしょ? 何を言っているのですか?」
混乱する天沢さんのことを、少しも動じることなく雪乃さんは笑う。
「馬鹿ね、何を言っているの? 彼氏が一人いたら彼女は一人でしょ、つまりその彼女に私がなってしまえば、二人は友人のままってことじゃないの。お母さんが許してくれているんなら、仲良く一緒に住むことの何がいけないっていうの」
もしかしたら、雪乃さんはとんでもなくピュアなだけなのかもしれない。彼女が独特であるように思えるのは、彼女が幼稚園生の世界観を持ち続けているからなのかもしれない。
雪乃さんならそれもありえる気がした。
「ぷっ、ふふ、ふふふっ、本気で言っているの? なんて素敵な人なんでしょう。どうしてこれほどの美女が身近にいながら、これほど最高の美女が身近にいながら、他の女を見ることが出来たのです?」
これに関しては嫌味なのか本心なのかわからない。
これは最終的に俺と雪乃さんが恋人同士にされて、俺と天沢さんはこのまま同居し続けるということなのだろうか。どうしよう。
①天沢さん、これで良いんですか? ②雪乃さん、これで良いんですか?
ー迷いますがここは①を選びますー
「天沢さん、これで良いんですか?」
明らかに俺が言うことではないということはわかっている。
「そんなことを言われても、仕方がないではありませんか。勝手に話を進められているんですもの。それに、お二人が交際を始めたところで私には何も関係ありません。私は私で今までどおりの楽しい生活を続けられるのなら、それで構いません」
「だから、俺と一緒に住むことに、不安はないんですか」
「ありません」
恐る恐る口にした俺に天沢さんはきっぱりと言ってくれた。
「だって彼氏が一人いたら彼女は一人でしょ? それなら一緒に住んでいても何が起こることもないではありませんか。チキンクソ野郎にはどうせ何も起こせませんし」
雪乃さんの言葉を拾って悪意に変える天沢さんのことが改めて好きだと感じられた。
改めて俺は天沢さんが好きだって思うから、ここでは絶対に溢れさせてはいけないと思う。
「あ、そういえば言わせてもらうけど、あんたのこと好きだから。彼女って時点でわかってると思うけどね。じゃあね」
アイスの溶けたメロンソーダを飲み干して、捨て台詞を残して雪乃さんは去っていった。
「なんだかすごい人ですね。私が偽物だなって思い知らされましたよ。全部なんでもないことだって思わされてしまいます。それじゃ、私たちも帰りましょうか。二人きりでこんなところにいるなんて、目撃されたら大迷惑ですからね」
支払いは雪乃さんが済ませてくれていたらしかった。
相談に乗ってくれて、話し合いを進めてくれて、最後に奢っていなくなるだなんて、この恩をどうやって返せというのだろうか。雪乃さんはそういうところがある、ズルい。
ズルいよ。




