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「遠足へ行くぞ! みんな、揃っているよな?!」
不信感を抱き先生の言動に警戒を強めていると、突然の大声。
その声の大きさにもかなり驚いたのだが、もっと驚くべきなのはその内容である。
遠足だ? 何を言っているんだこの人は。そもそも、当日にそのようなことを伝える先生がどこにいる。
用意も何もないし、こんな早い時間だったら揃っているはずもないだろう?
そう思ったのだが、周りは「遠足」という言葉に素直に食い付き喜んでいる様子だ。
小学生じゃないんだから、少しはおかしいと思わないのだろうか。
その前に、どうしてこんなに生徒が揃っているのだろう。揃っているはずもないだろう? どうしよう。
①戸惑う ②怪しむ ③逃げ出す
ーここも②で良いようですー
自分が間違えているのではないかと、時計を確認する。やはりいつもと変わらない時間だ。
「どうやら、今日はちゃんと登校時間が変更されていたようですよ。その情報がクラスの中心人物たちの間では、回っておりましたので、伝達は終了されたみたいです。コノやアナタには連絡の一言も一通もなかったようですがね」
不思議に思っていた俺に、堂本さんから真相が告げられた。
俺に連絡がなかったと決め付けられるのは少し不快だが、事実なのだから何も言い返せないし。
ただそういった情報は全員に届けないといけないよね。そんなこともわからないのかな。
「情報が伝わっていなかったとしても、運動部の皆様は、朝練やらなんやらでどうせ早くから来ていますし。そのおかげでこの人数が集まっているのではありませんか?」
つまり今年のように規則正しい生活と、余裕を持った行動、を心掛けていなければ俺は普通に置いて行かれていたわけだ。
ああ、なんと恐ろしい。どうしよう。
①こんな世の中は許さない ②こんな世の中は許せない ③仕方がない
ーここは③を選ぶしかないのですねー
だけどそれが学校だという場所なのだから、仕方がないだろう。
権力を持った人物が作り出す、理不尽なカースト制度の中で生きていかなければならないのだ。そしてそこから逃れる術など、今の日本にはない。
学校という場所から逃げ出したら、人生を捨てるようなことになってしまう。
教育に力を入れられた先進国の日本だからこそ、逃げる場所さえ用意されないのだ。
「クズはクズなりに、努力するしかないのですよ。どうせクズは、リア充になれないし、リア充に着いて行くことなんて出来ませんから。同等の扱いを受けることなんて、望むことさえ許されないようですから」
嘆いていた俺に、堂本さんは絶望に満ちた言葉を放つ。
どうせクズはリア充になれない。その言葉は、俺の努力を否定するもの。堂本さんに悪気はなくとも、俺のこの一ヶ月を否定するようなもの。
しかし今回のことで思い知らされた事実であることも確かだから、これまた言い返すことは出来ない。
堂本さんはそうして、調子に乗り掛けた俺を正気に戻そうとしているのだろうか。
所詮はクズであり、リア充になんかなれない。そんな夢は見る方が無駄だ。
そのことを教えてくれようとしているのだろうか。どうしよう。
①嘆く ②泣く ③俺はリア充になるんだっ!
ーここでも③を選べるようですよー
それでも堂本さん、俺は諦めるわけにいかないんだ。
小学生の頃から友だちなんかいなかったし、学校なんて大嫌いだった。
だけど最後くらいは、最後の学校生活くらいは、友だちに囲まれて楽しく過ごしたいんだ。恋人とイチャイチャとか、してみたいんだ。
大学へ行くつもりはないから、俺が学生として過ごすのは来年が最後となるだろう。
来年にリア充生活を満喫するには、今年に頑張るしかないじゃないか。
だから堂本さん、ごめん。
そう簡単に諦めたりはしないよ。嘆いている場合じゃないよね、泣いている場合じゃないよね。そうだ、俺はリア充になるのだから。
この程度でしょげてしまうメンタルだったら、リア充になんかなれないもの。
「行きましょう。遠足の目的地は知れませんが、それは実際に着いてみればわかることです。楽しもうという気には何をしてもなれませんが、地獄でないことを願うことくらいは出来ましょう?」
ふふっと微笑む堂本さんは、どこか疲れているようで、俺よりもずっと傷付いているようだった。
本当は俺を励ましていられるほど彼女も楽観的に物事を見れないし、今だって笑うことなど出来ないのだろう。
そう考えると、俺の行動の何もかもが堂本さんに悪いような気がした。そんな考えは、自意識過剰と言われても。どうしよう。
①きっぱり諦める ②堂本さんだけを ③諦めたくない
ーここでもまだ③を選び続けますー
堂本さんは優しいから、俺にも気を遣ってくれているだけだって、わかってはいる。
だけど彼女の笑顔は無理したようで、隣に並んで歩くことなんて許してくれなかったから。
今にも倒れてしまいそうなほどに弱々しい猫背の背中が、俺の前を歩んでいく。いつか彼女の隣で、彼女を楽にしてあげたい。そんな欲が俺に芽生えたけれど、彼女はそれさえ許してくれないようだ。
「早く行かないと、コノたちみたいなクズは、忘れて置いて行かれてしまいますよ」
振り向いてこちらに微笑みを向けると、走って行ってしまった。
俺もその後に続くけれど、背中は小さくなってしまう。それならば、まだ良かったのに。
すぐに追い着いてしまい、また彼女の少し後ろを進むような形になってしまうのだ。
追い越していけたなら、隣を走れたなら、そうは思っても俺は彼女の後ろにしかいられなかった。




