そ
「今日の午後は、ずっと上の空でしたね。もしかして、昼食時のこと怒っていらっしゃいますか? それとも、気付かないうちにコノ、悪いことをしていましたか?」
午後の授業が終了すると、心配そうに堂本さんが問い掛けてきた。どうしよう。
①怒っている ②悪いことしていた ③なんでもない
ーここは③に致しましょうー
堂本さんのせい、それは本当かもしれない。
怒っているとか、彼女が悪いことをしたとか、そんなはずはない。
ただ、彼女のせいで……、俺はあんなに嬉しかったし、喜んでいたから授業は上の空になってしまっていたわけだし。
そのことを全て考えたら、やはり堂本さんのせいといえるのだろう。
っていやいや、んなわけあるかい。
自分でツッコミを入れて、俺は首を横に振った。
「ううん。なんでもないんです。ちょっと、食後で眠くなっちゃいましたかね」
いつも以上に眠気さっぱりな今日午後だったが、そう言うとわざとらしく欠伸までしてみせた。
ごめん、堂本さん。
「そうですか。なら、良かったです」
微笑んで、堂本さんは荷物の支度を始めた。
その微笑みは儚げで美しく、それが普段の堂本さんが浮かべている笑みと、同じものとはとても思えなかった。
だって俺は、堂本さんのことを友と思っているはずだから。
お互いに同志と思っているはずだから。
悪戯っぽさと遠慮の混ざった、彼女の笑みとは全く別の微笑みに感じられた。どうしよう。
①この気持ちを知りたくて ②答えを知りたくて ③何も知りたくない
ーここでも③になるのだそうですー
堂本さんの微笑みが、頭から離れない。
女の子と隣の席とか、ラッキー。女の子に話し掛けて貰えるなんて、ラッキー。
そう思っていたけれど、堂本さんとは普通に友だちとして接したいとも思うんだ。
友だちとして、隣で一緒に、リア充への道を歩んで欲しいと、そう考えているんだ。
だからこの気持ちがなんなのか、その答えなんて……、何も何も、知りたくなかった。今はまだ、何も知りたくなかった。
その意味では、美少女のストーカーをするのも悪くないのかもしれないね。
そんなのは、俺の勝手な事情だし、俺の勝手な気持ちだけど。
「あんまり、無理はしないで下さいね?」
また妄想をしていた俺を見て、心配でもしてくれているのか、堂本さんは笑い掛けてくれる。
彼女はこんなにも優しいのだから、俺のせいで変化を起こしたくはない。やっぱり、彼女とは友だちのままでいたい。
帰宅してからも、彼女の微笑みを忘れられなかった。堂本さんの微笑みの虜になったままで、俺は自分の家に倒れ込む。
どうしてだろう。
女の子とそれなりに会話も出来ているし、去年までの俺からしたら完全なるリア充状態じゃないか。
まだリア充になりきれているとは言えないけれど、このままいけば恋人だって出来るのかもしれない。
そんな夢さえ見られるほどに、今年は綺麗な女性との出会いに満ちている。
それだったらどうして、俺はこんなに悲しいしこんなに苦しいのだろうか。俺は、リア充になってはいけない存在なのか。
いやいや、それはいくらなんでもあんまりだ。
いつまでも家の中に籠もって、転がっているような男だからなのかな。どうしよう。
①買い物 ②勉強 ③運動 ④ゲーム ⑤風呂 ⑥食事 ⑦寝る
ーここは①にしますー
荷物を置いて、怠い体を起こす。
夕食に使うための食料が、もう残っていない。
仕方がない。買い物に、行かないといけないな……。
とりあえず弁当の中身は完食して、洗って拭いて片付けまですると、冷蔵庫の中に足りないものを確認する。
うん、何もかもが足りていないね。
元気を出して、買い物に行くしかない! どうしよう。
①コンビニ ②商店街 ③その他
ーここは②でしょうねー
この乏しい財布。コンビニで買い物なんてする気にはなれない。
しかし、体は怠いし動きたくないし、遠くになんか行きたくないし。
人見知りのくせして、知らない人との会話をし過ぎちゃったかな? それで疲れちゃっただけだよね、きっと。
体を奮い起こして自転車に跨ると、商店街を目指して漕ぎ始めた。
「あらま。今日もまた商店街にいるのね。ってことは、どうせ金欠なんでしょ? ほら、これあげるわよ」
少ないお金で何を買おうかと、迷いながら彷徨っていると、そう声を掛けられた。
肉屋のおばちゃんである。どうしよう。
①貰う ②貰わない ③逃げる
ーここは①でいいでしょうー
何をくれるのだろうか。何をくれるのだとしても、貰えるのならばありがたい。
糸で引かれているかのように俺の足はそちらへと向かい、いつの間にか目の前にまで歩いて行っていた。
いやぁ、飢えって本当に怖いね。
「お食べなさいよ」
「あっ、ありがとうございます」
コロッケ、だろうか。
俺はコロッケ屋に来た覚えはないのだが、なぜか熱々のコロッケをくれるというので、ありがたく貰う他ない。
肉屋だから、肉をくれるのかと思った。
八百屋がくれるのはいつも野菜だけだからね。
でも確かに、いつも飴をくれるおばちゃんは別に飴屋じゃないもんね。
そんなことを思いながらも、絶品コロッケを頬張る。
食べている姿を隣りで眺めている、この視線はちょっと……辛いけど。どうしよう。
①気にしない ②罵倒 ③逃げる
ーここは③を選びますー
見られながら食べるのは嫌だから、俺は軽く逃げ出そうとした。
走ればさすがにバレるから、自然と歩いて立ち去れば大丈夫かと思ったんだ。
「あら、どこに行くの? ここで食べて行きなさいよ。なんなら、お夕飯もうちで食べていっていいわよ」
笑顔で俺の首根っこを捕らえると、迫力のある声でそう言った。




