第99話 魔獣の一掃
統率者を失った魔獣の大群は逃げるように走って遠ざかっていく。
後ろにはまだミサとハナが戦っている。
空にも魔獣がまだ飛んでいるがそちらはディアナに任せておけば大丈夫だろう。
「逃がさないよ」
ヴィムは右の口角を僅かに上げて、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「全部まとめて始末してやるよ」
《テンペスト》
先ほどよりさらに大きな竜巻が稲妻を巻いて6本現れる。
「行け」
出現した竜巻が魔獣を次々と飲み込んで行く。
数万にも及ぶ魔獣の大群が断末魔のような咆哮をあげる。
10分ほどで竜巻は収まった。
そこには魔獣は一体も残されて居なかった。
ハナとミサが最後の魔獣の首を落とす。
空を見上げても、魔獣は残って居なかった。
「おっと!」
その時、空から小型のワイバーンが落ちて来た。
ヴィムはそれを後ろに跳躍してそれを躱す。
「おい、ディアナ! 危ないだろ!」
「すまない、マスター! でも、今のが最後だ」
「それじゃあ、帰りますか」
ヴィムはミサとハナを両脇に抱えると、足元に強化魔法を展開する。
そのまま跳躍して崖を一気に登った。
「ありがとうございます」
「ヴィムさんって、見た目より力ありますよね? 鍛えてるんですか?」
ミサがヴィムに尋ねる。
「まあね。でも、俺の場合は魔法で身体強化しているからね」
身体強化の魔法というのは便利なものだ。
その気になれば鉄製の剣やナイフくらいは弾き返せてしまう。
「なるほど。ちょっと、羨ましいです。私は魔法は使えないので」
ミサは少し目を伏せて言った。
魔法というのは適正が無いと使えない。
ヴィムの場合は全属性魔法が使えるが、そんな人間は滅多に居ない。
人はヴィムのような人間を女神に愛された人間という。
「俺からしたらミサはめっちゃすごいと思うけどな」
女性でありながら、帝国の近衛騎士にまでなった彼女の剣撃は見事なものだ。
決して軽くは無い剣を軽々振り回し、敵の攻撃を受け流す身のこなし。
鍛錬を重ねた達人に匹敵するレベルだと思う。
「あ、ありがとうございます」
「まあ、隣の芝は青く見えるって言うし、無いものねだりするのが人間なのかもね」
そう言って、ヴィムたちは歩き始める。
「ベイルの街に行くか」
「はい、そうですね」
陛下から全てが片付いたら、ここから一番近い街であるベイルの街へ寄ってほしいと言われて居た。
ベイルの街の領主は国王陛下の元側近を務めた方だと聞いている。
今はその職を辞して領地の運営に専念しているとか。
歩いてもそれほどかかならい距離にあるので、のんびりと歩く。
数十分で目的地であるベイルの街に到着した。




