第96話 西の国境へ
屋敷に戻ると、すぐに準備を始める。
魔獣の大群が侵攻しているなら、早く行動するに越したことは無い。
「明日、出発でも大丈夫か?」
ハナとミサに尋ねる。
「私は、大丈夫です」
「私もです」
二人とも了承してくれる。
「分かった、二人とも準備を進めてくれ。ディアナ、明日はお前の力を頼ることになるかもしれない。よろしく頼む」「もちろんじゃ。我がマスター」
ディアナがヴィムにピースサインを送りながら言う。
なんだか、こういうギャップも悪くないんじゃないかと思う。
「明日から西の国境ラインの防衛に行ってくる。またしばらく家のことを任せる形になる」
「かしこまりました。お屋敷の事は我々にお任せください。どうぞ、ご存分に」
「いつもありがとう」
ジェームズに伝えると、ヴィムは自室に戻る。
手早く明日の出発の準備を済ませる。
マジックバッグに必要なものを詰め込んだ。
「今日はもうそろそろ寝るか」
明日は朝からの出発を予定している。
ここ一週間はずっと休んでいたとはいえ、体力を温存しておくべきだろう。
何せ、相手は万単位の大群なのだ。
ヴィムはベッドに横になり、意識を手放した。
♢
翌朝、目覚めるとすぐに行動を開始する。
「おはよう」
「おはようございます」
リビングに降りると、ハナとミサの姿があった。
「二人とも、準備は大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
「私もです!」
二人とも真剣な表情を浮かべている。
「ディアナ、調子はどうだ?」
「マスターの魔力は居心地がいいから最高潮だ!」
精霊というのは主人の魔力をもらっているらしい。
ヴィムの場合、元々持っている魔力量が桁違いのため、魔力を使われていても大した問題にはならない。
「それは、よかった。じゃあ行くか。確か、西の国境ラインには行ったことがあるな」
ヴィムがレオリアに来てすぐの頃、西の国境の方に仕事で赴いたことがある。
「じゃあ、あれを使うんですね!」
「ああ、使ってみるか」
そう言うと、ヴィムは空間魔法を展開する。
何度か実験しているうちにかなりコツを掴んだ気がする。
魔力の消費もそれほど気にならなくなって来ていた。
ヴィムの展開した空間魔法はすぐにその効果を発揮する。
「さてと、行きますか」
「「はい!!」」
ヴィムが先頭になり、それに続くようにしてディアナ、ハナ、ミサが空間魔法の中をくぐる。
「久しぶりに来たなぁ……」
到着すると、そこは後ろは森であり、正面は荒野が広がっている。
ヴィムたちは今、崖の上に立っている。
正面から来る風がヴィムの前髪を持ち上げる。
「魔獣の姿は見えませんね」
ミサが目を細めて言った。
「まあ、肉眼じゃまだ見えないみたいだな」
《千里眼》
ヴィムの左目が青く光を帯びる。
そして、数十キロ離れた地までを見通した。
「おいおい、こりゃ、やばいぞ……」
「どうしたんですか?」
ハナがヴィムの顔を覗き込むようにして尋ねる。
「敵の数が多すぎる。一万どころじゃない。三万はいる」
ヴィムの千里眼に映ったのは一万などは有に超えている魔獣の大群であった。




