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第84話 魔獣の大群

 翌朝、メールの街を出発する。


「昨日は災難でしたね」


 対面に座るカミル団長が言った。


「アイツら、吐きましたか?」

「いや、意外と口が硬くてまだ詳細は聞けてません」

「そうですか。では、そちらはお任せしますのでよろしくお願いします」

「かしこまりました」


 ここからは徐々に外の風景が他国を思わせる。

随分と自然が増え、何というか空気も違うように感じる。


「今日はこの街までは進みたいと考えています」


 カミル団長が地図を広げて言った。


「セレンの街ですか」

「はい、順当に行けばここまでは進めるかと思います」

「そうですね。今日の目標はセレンの街にしましょう」


 昨日、あんなことがあったばかりである。

今日は何も問題が起きないことを願うばかりである。


 しかし、そういう時ほど何か問題が舞い込んでくるのがこの世界の定石とも言える。

そんな事を思いながら馬車は規則正しい蹄鉄の音を鳴らしている。


 街を二つほど通り過ぎた。

日は徐々にくれていき、辺りは茜色に染まり始めていた。


 ここまでは順調に進み暗くなる前にはセレンの街に着きそうである。


「ん? これは……まずいかもしれないな」

「ヴィムさん、どうされました?」


 隣に座っているミサが尋ねて来た。


「魔獣の大群がこっちに向かって来ている。数は、100から200くらいだな」


 ヴィムの索敵魔法にはとんでもない数の魔力生命体の反応があった。

数が多過ぎて正確な数字までが判断出来ない。


「本当ですか!?」


 カミル騎士団長が驚きの表情を浮かべた。


「間違いないと思います。なぜこんなに大群がこちらに向かって来ているかは分かりませんが」


 本来、魔獣は群れる事はあってもせいぜい数十体である。

それが桁が一つ増えるというのには何かしらの理由があるはずである。


「ヴィムさんが言うのなら間違いないですね。どうします?」

「倒すしか無いでしょうね。もうここまで来るのも時間の問題です」


 幸い、この周りには何も無い。

ひたすらに開けた草原があるだけである。


「馬車を止めてください」

「わかりました」


 ヴィムの言葉で馬車が完全に停止した。

馬車から降りたヴィムは騎士団の先頭に立つ。


「どうするおつもりですか?」

「もちろん、ぶっ飛ばすんですよ。全部ね」


 ヴィムはニヤリと笑った。


「全部って二百はいるんでしょう?」

「ええ、でも大丈夫です。一発でかいのを撃ちます」

「わかりました」


 ヴィムの言葉にカミルさんは諦めたような表情を浮かべた。


「全員下がれー!! ヴィムさんの前には絶対に立つな! 邪魔になるし、ぶっ飛ばされるぞー!」


 カミルさんの指示により騎士団は全員ヴィムの後方に下がった。


「大丈夫ですよね?」


 ハナが不安げに見上げてくる。


「大丈夫だ。ハナも危ないから下がっていろ」


 そう言ってヴィムはハナの頭をポンポンする。


「よっしゃ、久しぶりにやりますか」


 魔獣の大群がギリギリ目視できるくらいまでに迫って来た。

そして、ヴィムは魔法の展開を始めるのであった。

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