第60話 何が為の正義か
ミサと交わした握手を離すと、ヴィムはソファーに座り直した。
「とは言っても、一緒に冒険の旅に出てもらうことになると思うけど冒険者資格は持っている?」
ここでは騎士としての仕事よりも冒険者としての仕事が求められる。
「はい。Aランクの冒険者資格を取得しております」
「そりゃすごいな」
Aランクとなると十分に賞賛に値するランクだ。
ヴィムよりはひとつ下のランクにはなる。
「騎士になる前は冒険者をしておりましたので」
「なるほどな」
冒険者としての腕が認められて騎士として推薦されることも多いと聞く。
「ヴィム様のお役に立てますでしょうか?」
「もちろん。心強い仲間ができたよ。改めてよろしくな」
ハナと二人より3人の方が依頼は確実にやりやすくなる。
ヴィムたちに普通について来れる人間の方が少なかったので、今までパーティ募集はしていなかった。
しかし、ミサの実力なら問題ないだろう。
「今日からここに住むといいよ」
「え、よろしいんですか?」
「うん。どうせ部屋は余っているしね」
ヴィムやハナ、使用人の部屋を各自あてがってもまだ部屋は余っていた。
ヴィムはジェームズのことを呼んだ。
「彼女、今日からここに住むことになった。部屋を準備してくれないか?」
「かしこまりました。ご準備させて頂きます」
ジェームズは粛々と一礼した。
「私、アーベル家の家令を務めておりますジェームズでございます。不自由がありましたら私にお申し付けください」
「ミサと申します。よろしくお願いします」
再びジェームズはミサの前で綺麗に一礼する。
「部屋まで案内してやってくれないか?」
「承知致しました。ミサ様、ご案内致します」
ミサはジェームズについて行くようにして応接間を後にした。
「面白いことになっちまったなぁ」
ヴィムはソファーに深く座った。
おおよその見当はついている。
おそらく、サイラス帝国の公爵辺りの差金だろう。
公爵は最後までヴィムの味方でいようとしてくれた。
少し天井を見上げて公爵のことを思い出した。
最後はあんな形だったが、ヴィムには分かっている。
ああするしか無かったのだ。
多くの民や帝国を守るには公爵の判断は間違っていたと思えなかった。
それに、最後にヴィムが見た公爵は涙を流していた。
長年公爵と一緒に仕事をしてきたが、公爵の涙を見たのはあれが初めてだった。
公爵も断腸の思いだったのだろう。
ヴィムがこっちで暴れたらそれは公爵の耳にも届いているはずだ。
当然、目立ち過ぎたら皇帝の耳にも入ってしまう。
しかし、もうSランクになってしまったことで目立ち過ぎだとは思うが。
「ありがとうございます」
ヴィムは宙に向かって呟いた。
その返答は当然無いが、公爵が笑っている気がした。
公爵は善人で部下からの信頼も厚く頼りになる人だった。
ヴィムは働くならああいう人の元で働きたいと常々思っている。
カップに入った紅茶を飲み干すと、応接間を出た。
その時、ジェームズが戻ってきた。
「旦那様、お二階のお部屋にミサ様をご案内して参りました」
「ありがとう。今日の夕食の時にでも他の皆んなに紹介するよ。時間になったら呼んでくれ」
「左様でございますか。かしこまりました」
ジェームズは粛々と一礼すると、その場を離れて行った。
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