第58話 不老不死の研究
ヴィムは領主邸に入ると、応接間に通された。
それなりの広さがある部屋の中央にはソファーと机が置かれている。
壁側には高価そうな調度品が並べてある。
その価値がいかほどのものかは分からないが高いということは何となくで分かった。
「こちらで、しばらくお待ちください」
従者はそう言うと、粛々と一礼した。
ヴィムはソファーに腰を下ろした。
そのまま、数分待っていると再び応接間の扉が開かれた。
「お待たせしちゃったね。また、訪ねてきてくれるとは嬉しいよ」
伯爵は優しい口調で言った。
「こちらこそ、突然押しかけてしまってすみません」
「構わんよ。伯爵と言っても隠居老人みたいなものだからね」
伯爵が自嘲するように笑みを浮かべた。
「ハナさんは元気にやってるかい?」
「ええ。おかげさまでハナも元気ですよ」
「それは良かった。それで、今日はどんな用件かね?」
「ちょっと伯爵様にご相談したいことがありまして」
ヴィムは本題へと切り出した。
「不老不死の呪いなどを聞いたことはありませんか?」
「ほほう。不老不死と来たか……」
ディオン伯爵は顎に手を置いて考え始めた。
「昔の文献では読んだことがあるが、今はそれが出来る人間が残っているとは思えんなぁ」
遡ること数百年前、そこでは不老不死の研究が行われていた。
高位な魔術師が不死の体を求めていたという。
結果的には失敗してしまったらしいが、それが不老不死の体を手に入れる所に1番近づいた研究だったらしい。
「それにしても、不老不死とは面白いテーマを持ってきてくれたな。私の方でも少し調べてみるとしよう」
「ありがとうございます。助かります」
「それにしても、なんで不老不死なんて調べているんだい?」
伯爵がヴィムに尋ねてきた。
「ちょっと、色々とありまして……」
ディオン伯爵を信用していないわけでは無いが、ここで自分が不老不死の呪いにかかっていることは明かさない方がいいだろう。
時がくれば明かすつもりではいる。
「まあ、君も色々抱えているのだろう。深くは聞かんことにするよ」
「ありがとうございます」
伯爵は全てを察してくれた。
亀の甲より年の功というやつだろうか。
「そう言えば、この前分けた茶葉はどうだったかね?」
「大変おいしく頂いております」
「それは良かった。実は、またいい茶葉が入ったんだが一人じゃ飲みきれないんでね。持っていってくれ」
伯爵は茶色の紙袋に入った紅茶の茶葉をヴィムに持たせてくれた。
「いつもすみません」
「いいんじゃよ。一人では多いと思うからな。もらってくれるのは助かるわ」
「では、頂いて帰ります」
ヴィムは紙袋を受け取った。
「なんかこの辺りに国際指名手配されてるヤツが目撃されたらしいですね」
「そうなんだよ。警備は強化させたが油断はできないな」
「何かあれば私も協力しますので」
「それは心強いな」
伯爵は微笑みを浮かべて言った。
「では、私はこの辺で失礼します。王都でやることもありますので」
「そうかい。気をつけてな」
「はい。また近いうちに顔を出しますので」
「楽しみにしておるよ」
ヴィムは伯爵の屋敷を後にすると、王都へ向かって飛び立つのであった。
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