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第54話 誰が為の力か

 翌日、俺は昼くらいに起き出した。

昼過ぎくらいに王宮に行く予定である。


 食事を済ませてハナと共に屋敷を出た。


「行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」


 ジェームズに見送られて二人で王宮へと向かう。

歩いて数分の距離なのが便利すぎる。


「陛下がハナを指名してくるのは珍しいな」

「はい、何か緊張してしまいます」


 普段は王宮に来て欲しいとしか書いていない。

なので、ハナを連れて行く時もあれば一人で行くときもある。


「まあ、あの陛下のことだから悪い話じゃ無いんじゃないかな」

「だといいですが」


 そんなことを話しているうちに王宮へと到着した。


「お疲れさまです!」


 門番を務める騎士には顔を覚えられている。

それによって、顔パスで王宮に入ることができるようになってしまった。


 王宮に入ると、従者によって応接間に通される。

相変わらず広い部屋には豪華な調度品が並べられており、真ん中にはソファーと机が配置されている。

素人目でも高そうということは分かるが、実際の価値はよくわからない。


「待たせてしまったね。いつも急で悪いな」


 しばらく待っていると、応接間の扉が開いて陛下が入ってきた。


「いえ、お気になさらず。こちらからも陛下にはお話したいことがありましたから」

「ほう、なんだね? 遠慮なく言ってくれて構わんぞ」

「ありがとうございます。まずは、陛下のお話からお伺いします」

「分かった」


 陛下はソファーに座り直す。


「例の物を」


 控えていた従者にそう言った。


「承知しました」


 高級そうな木箱には銀色のカードが入っていた。


「ハナ・シャロン。貴殿をBランク冒険者に任命する。これはレオリア王国国王としての宣言である」


 そう言うと、陛下はハナに銀色の冒険者カードを手渡した。


「遅くなってすまん。これからの活躍に期待しているぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 ハナは少し涙ぐんで冒険者カードを受け取った。

そこにはBランクの称号と所属国家、ハナの名前が刻み込まれていた。


「僕からもお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 ヴィムは陛下に頭を下げた。

きっとこれを通すために陛下も苦労したことであろう。


「何、気にするでない。これが、我が国のためになると思ったまでだ。反対する貴族もいたが、その辺は黙らせておいたから問題無いだろう」


 レオリア王国では奴隷の身分では冒険者資格を取得できない。

しかし、レオリアは実力主義国家である。

誰にでも平等にチャンスがある国なのだ。

 

 これは確実に大きな一歩となったであろう。


 ハナは大切そうにその冒険者カードを懐に仕舞い込んだ。


「それで、ヴィムからの話というのは何だね?」

「はい。この国の孤児についてです」


 ヴィムは真剣な表情を浮かべた。


「この国に来てからずっと気になっていたんです。孤児が少し多くないかと。レオリアの孤児院は国営ですよね?」

「そうだな。民間の孤児院もあるが、支援金をきちんと出している」


 そうなると、やはりおかしい。

この国は孤児が目立ち過ぎている。


「私は一人の孤独な少女に約束しました。この家紋に誓っても君を守ると」


 ヴィムは王家の家紋が描かれているカードを取り出した。


「お金の流れを一度調べ直した方がいいと思います」

「分かった。おい、宰相を呼んでくれ」


 陛下が控えていた従者に向かって言った。

そして、しばらくして応接間の扉が開いて宰相が入ってきた。


「お呼びと伺いましたが、ヴィムさまたちがいらっしゃるのでしたら出直したほうがよろしいでしょうか?」

「いや、構わん。座ってくれ」


 陛下はソファーに座るように促した。


「失礼いたします」


 宰相も浅くソファーに腰を下ろした。


「孤児院の支援金だが、責任者は誰だ?」

「確か、マルク男爵だったと思います」

「ヴィムからそいつが横領しているのではないかという話があった。調べてくれるか?」


 陛下が宰相に低い声で言った。


「分かりました。財務官と共に帳簿を調べ直します」

「どのくらいかかりそうだ?」

「一週間……いや、3日もあれば」

「頼むぞ」


 財務官はこの国の財務を取り仕切る人間だ。

数字にもめっぽう強い。


「ヴィム、迷惑をかけたな。すまない」

「いえ、私は調べてもらって事実ならそれに応じた対処をしてほしいだけですので」


 レオリアは実力主義国家だ。

それは諸刃の剣のような側面を持ち合わせる。

帝国よりはマシだが、不正はまだまだレオリアにも存在する。


 ヴィムは間違っていることは間違っていると言わなければ気が済まない。


「やはり、ヴィムは誰かのために立ち上がれる男だな。私が見込んだだけのことはある」

「茶化さないでください」

「茶化してなどいないさ。我が国のためにありがとう」


 そんな話をしてから、ヴィムたちは王宮を出た。


「ヴィム・アーベル、面白い男ですね」

「お前もそう思うか」


 ヴィムたちが居なくなった部屋で宰相と陛下が話していた。


「はい。彼は誰よりも力の使い方が分かっているようです」

「その通りだ。あいつはいつだって誰かのために戦う。利益なんて度外視で、あそこまで熱くなれる男は他に知らない」


 陛下はヴィムという男を高く評価していた。


「ハナも誇らしげだった。私にはその気持ちがわかる気がするよ」

「私もです」

「彼なら、この国を変えてくれるかもしれないな」


 陛下は本気でそう思うようになった。

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