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第39話 ちょっとしたご褒美

謎の男たちの足止めは食らったが、そこから先は順調に進んで行った。

これなら、完全に暗くなる前には帰ることができるだろう。


 若干日が暮れ始めた時、正面に王都が見え始めた。

王都を出た時同様、貴族用の門から中に入る。

そのまま、屋敷に向かって進む。


 貴族街を抜けて屋敷に到着すると、庭に馬車は停車した。


「お疲れ様でございました」

「ありがとう」


 ヴィムは馬車から降りると、ハナに手を差し出した。


「すみません。ありがとうございます」


 ハナはその手を取ると、馬車から降りた。

ヴィムたちが玄関の前まで行くと、扉が開けられた。


「「おかえりなさいませ」」


 ジェームズとアーリアが出迎えてくれる。

二人の顔を見ると帰って来たんだなと実感する。


「お疲れ様でございました」

「ありがとう」


 ヴィムはローブを脱ぐと、アーリアに手渡した。


「俺が居ない間、何もなかった?」

「一つだけ、ご報告することがございます」


 ジェームズは姿勢を正して言った。


「ん? 何かあったの?」

「はい。旦那様たちが出かけた数時間後、旦那様を出せと怒鳴り込んできた人物がいました。この国の人間ではないようでしたので、返り討ち……いえ、丁重にお帰り頂きました」


 え、今、返り討ちにしたとか言ったよね?

そういえば、ジェームズも歳の割にはしっかりと筋肉がついているし、足腰もしっかりしている。

ジェームズの身のこなしを見るに、何かしらの格闘技をやっていたと思う。


「そうか。ありがとう。大体見当はついているから探ってみるよ」


 この国の人間ではないとしたら、可能性が1番高いのはサイラス帝国の人間だろう。

だったら、ヴィムの方で探りを入れるのも難しくはないはずだ。


「左様でございますか。私でお力になれることがあったらお申し付けください」

「うん、ありがとう」


 ジェームズはこの国の色んなところに繋がっている人間だ。

味方に付けたら頼もしいが、敵に回したらこれほどまでに恐ろしい人間は居ないだろう。

まあ、ヴィムも人のことを言えた義理ではないのは分かっているのだが。


「あ、そうだ。明日、陛下のところに報告に行くからその内容を王宮に伝えておいてもらえるかな?」

「かしこまりました。早速書簡を王宮に届けて参ります」

「助かるよ」


 今日はもう日はくれてあたりは暗い。

こんな時間から陛下に謁見を申しこむのも失礼だろう。


「夕食の準備ができておりますので、旦那様方はお食事をお楽しみください」

「そうさせてもらおうかな」


 長旅というほど長旅では無かったが、旅の疲れを食事で癒す。

相変わらず美味い食事を楽しんだら、ヴィムは風呂に入ることにした。


 この屋敷の風呂は一般的なものに比べると大きい。

少し小さめな銭湯くらいの広さはあるのである。

お風呂は夕方から夜の時間であればいつでも入れるようになっている。


「はぁぁぁ」


 体を流して湯船に浸かる。

体が芯から温まっていき、疲れもお湯に流れて行く。


 しばらく浸かって風呂を上がって動きやすいパジャマに着替える。

そこから、自分の部屋に戻ってベッドに寝転んだ。


 普段ならこれから本を読んだり書類に目を通したりするのだが、今日はお休みだ。


「ヴィム様、よろしいでしょうか?」


 扉の向こうからアーリアの声が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼したします」


 扉を開けてアーリアが入って来た。


「どうかした?」

「いえ、ヴィム様がお疲れのようでしたので、マッサージでもいかがかと思いまして」

「それじゃあ、お願いしようかな」


 せっかくの提案だったので、ヴィムはお願いすることにした。


「かしこまりました。ベットにうつ伏せになってください」

「はいよ」


 ヴィムは言われるがまま、うつ伏せになった。


「結構凝ってますね。まだお若いのに」

「まあ、ストレスもあるし、結構動き回ってるからね」


 アーリアは肩から背中、腰に足と順番にマッサージしてくれる。

しかも、かなり上手くて気持ちがいい。

これは、ハマってしまいそうである。


「はい、お疲れ様でした」


 1時間ほどマッサージしてもらうと、体が随分と楽になった。


「ありがとう。すごく楽になったよ」

「それは良かったです。では、私はお茶をお持ちしますね」

「あ、じゃあ伯爵からもらったやつを頼むよ。俺はテラスにいるから」

「かしこまりました」


 そう言うと、アーリアは部屋を出て行った。

ヴィムはテラスに出ると、椅子に座って夜の風に当たっていた。


「お待たせしました。ディオン伯爵から頂いた茶葉で淹れた紅茶です」

「ありがとう」


 アーリアはポットから紅茶をカップに注いでくれる。


「美味いな」


 香りもいいし、味も美味い。

やはり、貴族ともなるといい茶葉を使っているのだろう。


「旦那様、少しよろしいでしょうか?」


 ジェームズがテラスにやって来ると言った。


「どうしたの?」

「陛下から明日、暇な時に王宮に来てくれたらいいというお返事をいただきましたので、そのご報告を」

「分かった。午後にでも行くことにするよ。ありがとう」

「かしこまりました」


 ジェームズはそれだけ伝えると、仕事に戻って行った。

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