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第35話 元凶の始末

 ヴィムが東の森を進んで行くうちに、段々とその原因が分かりつつあった。

この森には何故か高濃度のマナが溜まっている。


 マナとは空気中に漂う魔力のことである。

どんな所でもマナは僅かにも漂っている。


 ただ、この森のマナ濃度は通常の約5倍くらいに濃いものだった。


「ハナ、大丈夫か?」

「は、はい。このくらいなら」


 マナ濃度が濃い中にずっと残り続けるのはヴィムでも辛いと思うところがある。

ヴィムは保有している魔力がそれなりにあるので、ある程度は耐えることができるのだが、魔法適正を持たない者からしたらこの濃度はかなりキツいと思われる。


「ちょっとじっとしてろ」


 そう言うと、ヴィムはハナの額の位置に手をかざした。

そして、自分の魔力をハナの体に流した。


「今のは?」


 ハナが不思議そうな顔を浮かべた。


「俺の魔力をハナに一時的に保有させた。これで、このマナの濃度にも耐えられるはずだ」

「そんなことまで出来てしまうんですね」


 本来なら、他人の体に魔力を流すことは出来ても、自分の魔力を他人に保有させることはできない。

しかし、ヴィムの魔術は少し特殊なのである。

他人の体にも限度はあるのだが、自分の魔力を保有させることができる。


「にしても、これはキツいな」


 おそらく、このマナ濃度は一時的なものだと思われる。

これには何かしらの要因があるはずだ。


「ワァァァァ!!!!」


 その時、ヴィムたちの前方で悲鳴のようなものが聞こえた。

あれは人間の声だった。


 騎士団は今日も討伐に出ていると聞いた。

おそらく、この断末魔のような悲鳴は騎士団のものだろう。


「行こう」

「はい!」


 ヴィムたちはその声がした方へと走り始めた。

魔法で強化したヴィムのスピードにもハナはきちんとついて来れるあたりは流石だと思う。


 走って1分もしないでその現場に到着した。

そこには、大きなワニのような凶暴な魔獣が存在した。

こいつが、マナ濃度を上げている原因であることをヴィムは一瞬にして察した。


「おい、君たち! なんでこんなところに! 危険だ! すぐに逃げなさい!!」


 騎士団の一人がそう声を上げた。

その身なりからするに副団長といった所だろう。


「黙ってろ」


 ヴィムは言った。


「今、なんと言った?」

「いいから、黙って見ていろ」


『断絶結界!』


 ヴィムは騎士団と魔獣との間に結界を張った。


「ハナ、無理はするなよ」

「分かりました!」


『ファイヤースピア』


 ヴィムはハナの援護射撃をするように、魔法を連発して行く。

この展開スピードは誰にも真似できない。


 できるとしたらお伽話の大賢者様くらいだろうか。


 ヴィムの援護を受けて、ハナがどデカいワニのような魔獣を真上から捕らえた。

そのまま、剣を突き刺すと思い切りい剣を振るう。


「グォーーーーー!!!!」


 魔獣は咆哮を上げた。


「ハナ、下がれ! あとは任せておけ」

「はい!」


『遥かな虚無の果てに!』


 ヴィムがそう詠唱すると、魔獣の頭上に紫色の魔法陣が現れた。

そこから、炎が出たと思ったら、次の瞬間には大爆発をしていた。


『物理結界』


 その爆風からハナを結界で守る。

爆風が収まった頃にはそこに魔獣の姿は跡形もなくなっていた。


 森のマナ濃度は徐々に通常の値に戻って行くのを感じた。


「終わったな」

「流石です!」

「ハナもよくやったな」


 ヴィムとハナはハイタッチする。

そして、展開していた断絶結界を解除する。


「あなたたちは、一体……?」


 先程の騎士団の男が声をかけてきた。


「国王陛下の依頼で来た。ヴィム・アーベルという者だ」


 ヴィムは懐からSランクの資格を示すギルドカードを取り出した。


「あなた様が、最近よく耳にするSランク冒険者だったのですね。助けて頂き、感謝します。私どもだけではどうなっていたことか」


 騎士団の方に視線を向けると、重軽傷の騎士が居るようであった。


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