第24話 解毒
ヴィムは少女の毒を解毒するために、魔法の展開を準備していた。
『かの者癒しを、浄化の加護を』
ヴィムが詠唱するのは珍しい。
逆を言えば、無詠唱で発動できるほどの魔術ではないということである。
「何これ……」
少女が思わず口を開いた。
ヴィムの発動した魔法は、少女の頭上に真っ白な魔法陣が現れ、頭の1番高い所から少女の足元までを上下に移動した。
やがて、黒ずんでいた少女の肌は綺麗な白い肌へと変化して行った。
「嘘だろ……」
ガルヴァンは驚いた表情をして、口が開いたままになっていた。
少女を蝕んでいた高位な毒もヴィムの魔術の前では無力も同じだった。
「治ったみたいですね」
しばらくして、ヴィムは浄化の魔法の展開を終了した。
鑑定の魔法で彼女の状態をチェックしたが、他に異常は見られないようであった。
「さすが、Sランクともなると違いますね」
ガルヴァンはすごく関心したようであった。
「よくなったみたいでよかった」
浄化が完了した頃には少女の敵意は失われていた。
あの毒では体にも激痛が走っていたことだろう。
それをその華奢な体でよく耐えていたと思う。
そりゃ、敵意をむき出しにしないとやっていられないだろう。
「あ、ありがとう」
「いや、構わんさ。君にはこれから一緒に働いてもらうんだからな。俺はヴィム・アーベル、よろしくな」
「ハナ・シャロンと申します」
ハナは美しい声で言った。
ハナは獣人であり、猫の尻尾と耳がある。
戦闘にもそれなりに優れていることだろう。
「それでは、奴隷契約の儀に移りましょうか」
様子を見ていたガルヴァンが言った。
「二人はこの魔法陣の上に乗ってください」
そう言われて、ハナとヴィムは魔法陣の上に乗った。
すると、ハナの首筋に紫色をした模様が浮かび上がった。
「ここにヴィム様の血を垂らしてください」
「分かった」
ヴィムは渡されたナイフで指先を軽く切ると、血を数滴垂らした。
模様が一瞬白く光、やがて元に戻った。
「これで、儀式は終了となります。お疲れ様でした」
ヴィムは回復魔法で自分の指先を治すと、魔法陣から降りた。
「では、最後に料金の方を頂戴します」
「ああ、ここに入っているから確認してくれ」
革の袋に入った金貨をガルヴァンに渡した。
ハナの料金は他の奴隷よりも安かった。
それは、きっと毒のことが関係しているのだろう。
「改めさせてもらいますね」
ガルヴァンは袋の中を確認した。
「確かに、ちょうど頂きました。今後ともご贔屓にお願い致します」
これで全ての手続きは終了して、ハナを屋敷に連れて帰ることにした。
「お気をつけて」
「ありがとう。また何かあればよろしく頼む」
ガルヴァンに見送られてヴィムは奴隷商の建物を後にした。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って、ハナはヴィムの後を付いて来る。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。俺の家はここから遠くはないから」
「分かりました。ご主人様」
ハナがヴィムを見上げるような形で言った。
「ご主人様はやめてくれ。ヴィムでいい」
「では、ヴィム様とお呼びします」
「ああ、分かった」
そう言いながらヴィムは屋敷までの道のりを歩いた。
数十分ほどかけて、屋敷に到着した。
「ただいまー」
玄関を開けて中に入ると、ジェームズとアーリアがお出迎えしてくれる。
「「おかえりなさいませ」」
二人は綺麗に一礼した。
「この子が今日、連れて帰って来た子だ」
ヴィムはハナの背中を少し押した。
「ハナ・シャロンと申します」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「ハナの部屋、2階のどっかに用意してあげてくれ。空いてるよな?」
「かしこまりました。まだ、空きはたくさんございますので、心配は入りませんよ」
ジェームズが落ち着いた声で言う。
「うん、じゃあ頼むよ」
「かしこまりました。ハナ様、ご案内致します」
ジェームズがそう言うと、ハナはヴィムを見上げた。
「行っておいで」
「はい、分かりました」
ハナはジェームズの後に付いて行き、2階へと向かった。
ヴィムはリビングに入ると、そのままソファーに体を委ねた。




