第148話 正義の使者
レオリア国王は考えた。
この国命運を誰に託すべきなのかと。
国王には娘のエリンしか居ない。
王位継承権の第一位はエリン王女ということになっている。
エリンはその重責をずっと背負って生きて行くことになる。
レオリアは完全実力主義とされる国家である。
エリンもこの国を背負っていく力量は十分にあった。
しかし、まだ年端も行かぬエリンにはあまりにも重い責任であった。
そんな時、国王の前に1人の男が現れた。
圧倒的な実力で周囲を寄せ付けない真の実力者。
ヴィム・アーベルとの出会いがレオリア王国の命運を大きく動かしたのである。
「ヴィムよ。突然のことで驚かせてしまったな」
2人だけになった応接間で国王陛下が口を開いた。
「いえ、陛下ならいつかこうしてくるかと薄々思っていましたから」
「ふっ、さすがは私が見込んだ男だな」
そう言って、陛下はゆっくりと紅茶を口に運ぶ。
「この1年半で私は何度君に驚かされたことか」
「それは、なんというか、すみません」
「いや、いいんだ。これは神が仕掛けたトラップ。すなわち運命だと思う」
しかし、神の言葉というのは人間には難しいものである。
「エリンはずっとこの王宮の中で過ごしていたんだ」
王女という立場のエリン。
それだけで危険は付き物である。
そのため、厳重な警備が施されたこの王宮内にしかほとんど居なかった。
たとえ、外出が許されたとしても、周りを王宮騎士と魔術師に囲まれて、完全に護衛された状態での移動だ。
「ヴィム、君なら1人でもエリンを守れるか?」
「もちろんです」
ヴィムはキッパリと断言した。
ヴィムには力がある。
たとえ、それが自分の望んで居ない力でも、誰かの役に立つなら無いよりあった方がいい。
「これは、国王としてではない。父として頼みたいのだが」
「はい」
そう言って、陛下は一呼吸置いた。
「エリンに、世界を見せてやって欲しい」
ずっと王宮の中にいたエリンは世界を知らない。
そして、今後息子が生まれなかったら、エリンは王妃ないしは女王としてこの国を背負っていかねばならない。
その前に、エリンにはこの国がどんな所なのか。
その目で見てほしいのだ。
それにはヴィムの力が必要だ。
S級の迷宮を何回も攻略した最強のパーティのリーダーにして深淵の魔術師。
王妃の呪いも解いてしまった正義の使者。
この男は自分がどんなに危機的な状況に陥ろうが、決して諦めない。
「分かりました。その依頼、お引き受けしましょう」
「ありがとう。エリンには私から話をしておく」
「では、今日はこれで失礼します」
ヴィムは王宮を後にする。
いつだったか、ヴィムに聞いたことがあった。
君の正義とは何かと。
ヴィムはすぐにこう答えた。
『見返りを期待しないこと。見返りを期待したら、それは正義とは言いませんから』
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