第127話 対魔族戦
エリア守護者の検知範囲に入ると、地面に赤い魔法陣が出現する。
そこから、ゆっくりとエリア守護者が姿を表す。
「マジか……」
「マスター、あれは魔族だぞ」
「みたいだな」
明らかに風通の魔獣ではない。
何というか、格が違うのである。
右手に大きなハンマーを持ち、頭からはツノが生えている。
一般的に成人男性くらいの身長だが、その重そうなハンマーを軽々持ち上げている。
「俺とディアナで揺動する。ハナとミサは隙をみて接近戦に持ち込んでくれ」
「了解です!」
「わかりました」
「あの攻撃をまともに喰らうなんてことはやめてくれよ」
冗談でもあの攻撃を喰らったら、怪我では済まないだろう。
魔族の男は一気に間合いを詰めてくる。
そして、そのハンマーを振り下ろした。
「あっぶねぇ」
ヴィムはそれを後ろに跳躍することで躱す。
地面には大きなヒビが入っていた。
魔族はヴィムに狙いを定めたらしい。
魔族は魔力に引かれる傾向にあるらしい。
この中で、一番魔力を保持しているのはヴィムの為、標的になったのだろう。
「上等だ。引きつけてやるよ」
ヴィムは懐から、銃を取り出した。
次の瞬間、乾いた銃声が六発鳴り響いた。
弾丸には雷系統の魔力を付与してある。
当たれば、致命傷にはならなくとも麻痺などの状態異常を引き起こす。
しかし、魔族はハンマーを横に振る事でその弾丸を弾いた。
そして、ヴィムの頭を目がけてハンマーを振り下ろす。
《エンチャント》
ヴィムは自分の拳にエンチャントで魔法を付与して、思い切りハンマーを殴った。
「目眩しくらいにはなるかと思ったんだがな」
ヴィムの右手が若干痺れている。
魔力を付与したとはいえ、あの破壊力を完全に防ぎ切ることができなかった。
「マスター、距離を取れ!」
「了解!」
《縮地》
仙術を使い、一気に魔族との距離をとる。
「本物を見せてやろう」
ディアナの口元は笑っている。
《テンペスト》
ディアナが放ったテンペストは魔族に直撃する。
精霊王の放ったテンペストの威力は凄まじかった。
光の全てを司る精霊の光魔法は、ヴィムの光魔法を凌駕するかもしれない。
「あれを喰らっても立っていられるとはのぉ」
ディアナのテンペストを正面から喰らったにも関わらず、まだ立っている。
すぐに体勢を立て直すと、ヴィムの方に向かってくる。
ミサとハナは隙をみて攻撃を仕掛けているのだが、その攻撃もことごとく跳ね返されている。
「ディアナ、時間を稼いでくれ」
「承知した。出来るだけやってみよう」
そう言うと、ディアナはヴィムの前に立った。
《閃光弾》
ディアナが放った閃光弾が、魔族の足元で弾かれる。
強い光を放ち、目眩しになる。
そこに、さらに《閃光の雨》をお見舞いしていた。
本来なら、このへんで既に倒せているのだが、今回はそうもいかないらしい。
『我が声に応えよ。我が望むは防御の騎士』
ヴィムの詠唱が終わると、白い魔法陣の中から巨大な盾を持った騎士が現れた。
「やつの攻撃を防いでくれ」
そういうと、騎士は何も言わずに戦線へと立つ。
その巨大な盾で魔族のハンマーを何度も防ぎ続ける。
「これで、攻撃に割合を割くことが出来る」
「あれがマスターの契約している最後の契約者か?」
「いや、あれは召喚魔法の基礎で習うから、召喚できるんだ。防御の騎士以外に契約召喚獣がいるよ」
「なるほど。あれは、基礎なのか……」
ディアナは若干、呆れた様子で言った。
「ヴィムさんから、あの騎士さんに攻撃の対象が変わったように思えるんですが」
「うん、さすがミサは良いところに気づくね。あの騎士には攻撃を集めるスキルがあるんだ」
魔力はヴィムの方が保有うしているが、敵の攻撃を全て引き付けるスキルを持っているのが、防御の騎士なのである。
「さて、ここからは俺たちのターンだ。一方的にやられるのはごめんだよ」
ヴィムは拳を握りしめた。
《魔弾》
体内の魔力エネルギーをそのまま、外に放出するイメージの秘技、魔弾を魔族に向かって放つ。
その魔弾もハンマーによって跳ね返そうとしたが、そうはいかない。
振動系の魔法も付与した魔弾は、ハンマーを砕いた。
それを好機と、ハナとミサが切り掛かる。
ハンマーを無くした魔族は急に出てきたハナとミサの攻撃を躱すことが出来なかった。
「これで終わりだ」
ヴィムは魔族の眉間に、炎の魔法を付与した弾丸を打ち込んだ。
『ダァァァ!!』
魔族は断末魔のような悲鳴をあげる。
この弾丸は、体内に入ると内側から焼き尽くすという恐ろしいものである。
流石の魔族もこれにはひとたまりもないようである。
しばらくして、その断末魔も終わり再び動き出すことは無かった。
「終わったな」
ヴィムは思わずその場に座り込んだ。
「お疲れ様です」
「ああ、みんなお疲れ。こいつには手こずったな」
今までで一番手をこまねいた相手かもしれない。
これからさらに厄介な敵が現れると思うと、気が滅入りそうだ。
ささっと核だけ回収して、亡骸は燃やしてやった。
「少し休憩するか」
「そうですね」
そう言うと、ヴィムはマジックバッグから全員分のポーションを取り出した。




