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第119話 悪魔の祝着

「やっぱり、ヴィムには分かるんだな」

「はい、でも、実際に見るのは初めてです」

「ヴィムさん、それは?」


 その様子を見ていたハナが尋ねる。


「悪魔の祝着って言う呪いの一種だ」


 悪魔の祝着は悪魔にかけられる呪いの中ではかなり厄介なものだ。


「少し、診させてもらってもよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」


 ヴィムは、王妃の首元に触れる。


「冷たい……」


 生体反応は検知できるので、生きているのは確かだが、体全体が冷たくなっている。


「時間を停止させているんですね。これは誰が?」

「それも分かるのか」

「ええ、第三者の魔力が干渉されているのを感じます」


 悪魔の祝着を受けてしまうと、徐々に生命エネルギーを吸収されていく。

常に吸収されている状態なので、そのまま放置していると死に至るのだ。

その吸収を魔法によって一時的に停止させているようだ。


「王宮の死霊術師に施してもらった。しかし、完治させることは不可能と言われてしまったよ」

「そうでしたか。確かに、死霊術では治せないでしょうね」


 ヴィムは王妃から手を離すと、再びベッドへと寝かせた。


「妻の呪いヴィムなら解けるのではないかと思ったんだが、厳しいだろうか?」

「そうですね、少なくとも、僕の魔法では厳しいと思います」


 悪魔の祝着は回復魔法や、状態異常を治す魔法は跳ね返されてしまう。

ギリギリの打開策で時間を停止させるという、荒技に打って出たのだろう。


「では、母上はもう目を覚さないのですか?」


 エリンは悲しそうな表情を浮かべる。

目には涙を溜めている。


「王妃様が、こうなってどのくらい経ちましたか?」

「およそ半年といったくらいだな」

「じゃあ、そろそろ限界ですね」


 なぜ悪魔の祝福を受けてしまったのかは分からないが、半年前からこの状況になっているなら、もうそろそろ時間を停止させておくのも限界に近いだろう。


「ヴィムのことは信頼しているし、実績もちゃんと残してくれた。だからこのタイミングでヴィムに話すことを決めたんだ」

「なるほど。そうでしたか」


 陛下はヴィムに最期の希望を託したと言うことである。

治療術師も薬師も死霊術師も、助けるのは不可能だと言った。


 しかし、この男なら。

ヴィム・アーベルという賢者、アークの弟子なら。


 この悪魔の祝着という腐った呪いを解けるかもしれない。

レオリア王国が代表する最強の魔術師《深淵の魔術師》なら王妃、シャルメル・レオリアの最後の希望になるかもしれない。


 レオリア国王はそう考えていたのだ。


「一つだけ、可能性があります」


 ヴィムは、既に最後の希望を見出していた。

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