第117話 正義の魔法使い
翌日、ヴィムは王宮へと出向く。
流石に陛下への報告を済ませなければならないだろう。
王宮へと到着すると、いつも通りに応接間へと通される。
「お待たせ致しました。ご報告にまいりました」
応接間に入ると、陛下がそこに座っている。
「ああ、待っていたぞ。座りたまえ」
「失礼します」
ヴィムは陛下の対面のソファーに腰を下ろす。
「まずは、ご苦労だったな。あの人身売買阻組織を壊滅に追い込む事が出来た」
「はい、そうですね」
「なんだ、満足行っていないのか?」
ヴィムの浮かない表情をみて陛下が尋ねて来た。
「いや、よかったとは思っていますよ。これで、もう涙を流す人がいなくなるなら」
「そうか」
「ちょっと、思い出してしまったんです」
「ん? 何を思い出したんだ?」
「正義の魔法使いになりたかったなと」
正義の魔法使い、そんなものに憧れた時期もあった。
しかし、魔術の世界に入ったら現実はそんなに甘くはなかった。
派遣争いに、既得権益を守ろうとする重鎮と呼ばれる人間たちに身分による差別。
決して綺麗なものではなかった。
「正義の魔法使いにかけた時間、無駄だったんですかね」
「なれたんじゃないか?」
「へ?」
「君の言う正義の魔法使いというヤツにだよ」
そう言って、陛下はゆっくりと紅茶を口に含んだ。
「私はな、ヴィムがヤツを殺すつもりだと思っていた。あれは覚悟のある者の目だったから、私は止めなかった。でも、ヴィムとハナさんが取った判断は私の予想を超えて来た。世間がどう言うかは分からんが、ハナさんや私から言わせたら、君は立派な正義の魔法使いだよ」
もう、子供たちが泣かない世界。
守るというのは居場所を作る事だ。笑って暮らせる居場所を作る事。
それが、師匠は夢だと言っていた。
「師匠に、近づけましたかね?」
「少しは近づいたかもな」
かつて、異端の賢者と呼ばれた男。
アーク・サンベルは数々の功績を残して、この世を去った。
「師匠だったら、何て言いますかね?」
「あの男の事だ、お前はまだまだ修行が足りんとか言いそうだな」
「ですね」
師匠がそう言って笑う姿が容易に想像できる。
「アイツにはまだまだ生きて欲しかったな」
「そうですね。師匠がまだ生きてたら、魔術の世界はもっと変わったかもしれません」
アーク・サンベルが異端の賢者と言われた理由。
それは、社会常識などは無視して誰かを守ることに奔走していたからだ。
「ヴィムを見ているとアイツの事をよく思い出すわ。アイツが若いころ、同じような事をやっていた」
「師匠を見て育ったので」
「初めてヴィムがアークの弟子だと知った時、納得したよ」
だから、このヴィム・アーベルという男を手放してはいけない。
深淵の魔術師という二つ名を持った《正義の魔法使い》を。




