第113話 ヴィムの背負う過去
ハナたちに事情を話すと、すぐに動き出すということで話が纏まった。
準備にかける時間は三日ほどだった。
早朝、まだ辺りは薄暗い時間からヴィムは漆黒をローブに身を包み、窓の外を眺めていた。
このローブは師匠から貰ったものだ。
だから、これを着る時は特別な時だ。
「見ててください、師匠」
誰もいない部屋で、ヴィムは胸に手を置いて口にした。
その声に返答はない。ただ、宙を舞うだけだった。
やがて、朝になり、外も明るくなって来た。
ヴィムはリビングへと降りた。
そこでしばらく待っていると、ハナとミサ、ディアナがやって来た。
「準備はできているか?」
「はい」
「じゃあ、行くか」
「待ってください!」
そう言って、ハナが俺の前に立つ。
そして、ハナのことを優しく抱きしめた。
「ヴィムさんは人のことばかり守ろうとします。なんでも一人で抱え込もうとします。頼りないかもしれないけど、もっと頼ってほしいです! もう、一人でなんでも抱えなくていいんです」
そう言うと、ハナはさらにキツく抱き締める。
「そうですよヴィムさん。あなたは無理しすぎる所がありますよ」
「マスターが背負っているものが分かるとは言わない。ただ、たまには降ろす時があってもいいんじゃないか」
ミサとディアナがハナの様子を眺めながら言った。
「すまん、皆んな。心配かけたよな。皆んなには話ておくよ」
ヴィムはソファーへ座り直す。
ハナはヴィムの隣りに座り、対面にはミサとディアナが座る。
「あれは、まだ俺が魔術の世界に入る前の話だ」
ヴィムにはアーナという幼馴染がいた。
五歳の時からずっと一緒に遊んでいた。
しかし、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。
ヴィムが九歳になる頃にアーナは姿を消した。
組織に攫われたのだ。
そして、殺された……
当時の組織は今ほど大きくなく、統率も取れていなかった。
下っ端の連中が暴行し、アーナは息絶えた。
再びアーナの顔を見たのは、変わり果てた姿だった。
悲しかった、悔しかった。そして、後悔した。
もっと、力があったら。
アーナを守れるほどの強さがあったら。
その一年後、ヴィムは異端の賢者と呼ばれる魔術師の弟子となった。
そこから、魔法の修行を重ねて今に至る。
『深淵の魔術師』と呼ばれる最強の魔術師に。
「やっと、チャンスが巡って来たんだ。アーナを殺したあの女、ぶっ飛ばさないと死ねないよ」
屋敷のリビングには重たい空気が流れる。
「ヴィムさんにそんな過去があったんですね」
「酷い話です」
ハナとミサは暗い表情を浮かべる。
「マスターの強さはそのアーナという少女がいるからなんだな」
ディアナはあえて進行形で口にする。
ヴィムの中では、彼女はずっと生きていて今でもヴィムの力になっているはずだ。
「なんか、暗くしてごめん。そういう訳で、ちょっと因縁があるんだ」
「いえ、話てくれてありがとうございます」
ハナはヴィムの手にそっと手を添えた。




