第107話 召喚魔法
「うん、ここなら大丈夫そうかな」
庭の中央まで来るとヴィムは言った。
この広さがあればこれから使う魔法も存分に発揮できるだろう。
「少し離れててな」
そう言って、ヴィムはハナとミサ、ディアナに使用人たちを下がらせる。
『黒竜へ告げる。汝の身は我が元へ、我が命運は汝の剣となす。我が意、我が理に従うのならば
応えよ。《召喚 黒竜》』
ジェームズとディアナだけが、ヴィムが何をしようとしているのかが分かったようだ。
詠唱を終えると、地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。
そこから、ゆっくりとドラゴンの頭が出て来る。
数分もしないうちに、漆黒のドラゴンの全体が姿を現した。
『ご機嫌麗しゅう、我が主人』
「黒竜も元気そうだね。久しぶりになっちゃってごめんね」
『いえ、主人にも色々とご都合がおありでしょう。さて、今日は何用で?』
「今日はちょっと今の仲間を紹介しようかとな」
『ほう、主人の仲間とは興味深い』
ヴィムはハナたちに向かって手招きをする。
「ヴィムさん、これって……」
「こ、黒竜と話せるんですか!?」
ハナとミサが驚きに口が開いたままになってしまっている。
「俺の契約召喚獣だからね」
「凄すぎます……」
召喚獣と契約をすると、意思疎通が可能となる。
「久しいな黒竜よ」
『懐かしい気配がすると思ったらディアナじゃないか』
「まさか、お前もマスターと契約しているとはな」
『主人はそれだけの器ということだ』
契約を結んでいる者同士で盛り上がりを見せている。
「二人とも知り合いなの?」
『はい、実際に会うのは200年ぶりくらいでしょうか』
「そうか、なんか、俺たちとは全然感覚が違うな」
竜も長命種と呼ばれる種族である。
精霊よりは短い命らしいが、それでも三千年以上はザラに生きる。
「それで、黒竜。近いうちに北の辺境のここに行きたい。この四人を乗せて飛べるか?」
ヴィムは地図で場所を示しながら黒竜に確認する。
『お安い御用でございます。主人のお仲間なら喜んでお乗せしましょう』
「ありがとう」
黒竜の長い首を撫でてやる。
竜というのは誇り高き種族である。
そのため、背中に乗せるのは認めた人間だけなのである。
「どのくらいかかりそうだ?」
『半日もあれば余裕かと存じます』
「おお、そりゃすごいな。じゃあ、よろしく頼むよ」
『はい、いつでもお呼びください。久しぶりに主人の力になれる事、嬉しく思います』
「おう、じゃあまたな」
そう言うと、黒竜は姿を消した。
「そういう事だ。当日は黒竜に乗って行こう」
「わ、分かりました」
「もう、驚く方が馬鹿らしいって分かりましたよ」
「マスターはやっぱり我が認めた男だな」
三者三様の反応を示す。
「じゃあ、次はハナの事を攫った人身売買組織についてだな」
「何か分かっているんですか?」
「ああ、確かギルドの諜報部が調べているはずだから、聞いて来るよ」
ヴィムの記憶が正しければ、国際重要指名手配になっているはずだ。
一国のギルドなら何かしらの情報を得られるだろう。
ヴィムは一人、王都ギルド本部に向かった。




