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第104話 奴隷解放

「まず、我がレオリア王国にはギルド総括という役職があるのは知っているな?」

「ええ、知ってますよ。この国ギルド全体の責任者でしょう?」

「その通りだ。今、我が国のギルド総括の席はずっと不在になっている」


 前任のギルド総括は元Sランク冒険者だったらしいが、高齢で執務に支障が出るとして、その座を退いた。

そこから、約3年もの間、ギルド総括は不在になっているらしい。


「ギルド総括になるにはそれなりの実力と実績を示さなければならない。今回の一件でヴィムは十分にそれを果たしたと言えるだろう」

「何も僕じゃなくとも、ギルマス辺りを昇格させればよかったんじゃないですか?」


 今の王都ギルド本部のギルドマスターだって、現役時代は相当優秀な冒険者だったと聞いている。


「あいつでは、実績が足りない。現役時代はAランクで止まっていたからな。優秀なのは確かだが」

「陛下、もしかしてずっとこれを狙ってました?」

「はて、何のことだろうか?」


 陛下はニヤッとした笑みを浮かべた。


「はぁ……」


 ヴィムは小さくため息をついた。

きっと、陛下は最初からこうするつもりだったのだ。

ヴィムのことをSランク冒険者に認定したその時から。


「陛下には敵いませんね」

「そうか? 私にはヴィムの方がよっぽど怖いけどな」

「ハナの奴隷解放についてはどういうことなのですか?」


 陛下は謁見の間でハナの奴隷身分を破棄するといい宣言していた。


「そのことも説明せねばいかんな」


 陛下はカップに入った紅茶を一口飲んだ。


「うちは知っての通り実力主義の国家だ。奴隷の身分に落ちても一定の実績を残した者には奴隷から解放するという法律を新たに先月から施行した。ハナさんならその条件を十二分に満たしている」

「ありがとうございます。よかったな、ハナ」

「はい、本当にありがとうございます」


 ハナはぺこりと頭を下げた。


「いや、まだ喜ぶには早いよ」

「そうですね」


 おそらく、これは折衷案なのだろう。

陛下は奴隷制度を廃止の方向で進めていた。

しかし、貴族や豪族の中には奴隷制度の廃止に反対する者も多いと聞く。


 そんな連中との折衷案として、一定の条件を満たした者は奴隷から解放するというものなのだろう。


「それに、この法案を通したのは私ではない」

「え、じゃあ誰が?」

「エリンだよ」


 陛下は隣に座るエリン王女に視線を移した。


「そうだったのか、エリンありがとう」

「い、いえ、私はヴィムさまのお力になれればと……それに、結局は父の後ろ盾があったので」


 エリンは少し目を伏せて言った。


「それでも、エリンの説得があったからこの法案を通すことが出来たと言っていい」

「ありがとうございます、父上」

「まあ、何はともあれ、これでハナさんは自由だ。まあ、ヴィムのことだから、奴隷紋で言うことを聞かせていたわけではないと思うがな」


 陛下の目には全てが見えているのだろうか。

さすがは一国の王である。


「はい、ヴィムさんは一度も私に奴隷紋の効果を使ったことはありません。今までずっと近くで見てきましたからこそ、私はこの方について行きたいと思ったのです」

「ありがとうよ」


 そう言って、ヴィムはハナの頭をポンポンした。

その様子を強烈な視線を送っている者には気づかずに。


「では、僕らはそろそろ帰りますよ」

「ああ、基本的に総括の仕事は今まで通り家でできるようにしとくからな」

「助かります。では、失礼します」


 ヴィムたちは王宮を出ると屋敷に戻るのであった。

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