くちづけ
掲載日:2021/03/19
どこからも遠い、ここへ
千々の風に吹かれてたつあなた
雲のようにおおくの面影をうつす
あなたへと伸ばされる
わたしの影、暴きたてられた白き砂、
ああ今ここに在らざる女よ
空はぽっかりと孔を開けたような色をして
わたしたちをもつれさせ
あなたをほぐしていく
白いさざなみのささやきは
担うにはかるく
放り投げてしまうにはおもい
月と手のうちの悠久という近しさを
海とよんでしまえれば
そしてその泡と波をかきわけて
断崖の彼方から伸ばされた
白くほっそりとした腕を
握りしめられるのに
眠っているのだろうか
あなたはその白い額をあらわにし
多くの隔てられたものたちがそうするよう
夜光貝のように夜の重みに身をまるめ
そよ風の在るところを思いながら
眠っているのだろうか
波はあなたの浜辺から
わたしの浜辺までをつなぎ
わたしたちは互いの額を水面につけ
だがここに在らざる女よ
そして波は渦を巻くレコードのように
わたしたちを巡る




