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魔刀の反逆者―最強と謳われた男の復讐譚―  作者: 黒肯倫理教団
真実の皇国編

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89話 将軍と破壊者と竜姫(2)

 シェラザードは二人に匹敵するほどの強者だった。

 人の魔力とは異なり、立ち上るのは深緑の魔力光。

 竜の名に恥じぬ強者の風格を感じさせた。


 異様なのは四肢の変化だった。

 シェラザードの魔力を受け、漆黒の鎧が形を変化させる。

 手足の装甲を巨大化させた姿は正に漆黒の巨竜。

 彼女もまた、この場に相応しい強者だった。


 決して楔の眷石ヘクセ・ヒュムネは渡さない。

 鋭い視線が交差し――同時に飛び出した。


 シェラザードの剣がラクサーシャとロアに振り下ろされる。

 振り下ろされた剣は竜の顎門だ。

 獲物を噛み砕く強烈な一撃が二人を襲う。


 ラクサーシャは瞬魔を最大まで引き上げて迎え撃つ。

 全力で振るった刀は、竜の片腕を受け止めるのがやっとだった。

 隣で拳を突き上げたロアも、同じく険しい表情をしている。


 だが、シェラザードは目を見開いて嗤う。

 その直後、刀に伝わる重さが倍化した。


 流石に受け止めきれず、ラクサーシャは受け流すことを決断する。

 竜の一撃は強烈だが、非常に単純。

 獲物を潰すために直線的に振るわれるに過ぎない。

 なれば、技量で上回ればいい。


 ラクサーシャが受け流して離脱すると同時に、ロアも反対側へ飛び退いていた。

 不死者であるロアでさえも受け止め切れないほどの腕力。

 ラクサーシャはシェラザードの危険性を理解する。


 小さな身に反して、その内に秘めた魔力は膨大。

 その全てが身体強化のみに注がれている。

 彼女は双剣の使い手ではあるが、剣士よりは竜を相手にしていると考えたほうがいいだろう。

 シェラザードの戦い方は、竜が獲物を狩るような暴力任せの戦い方だった。


 不死性のロア・クライム。

 身体能力のシェラザード・ランエリス。

 人の身であるラクサーシャにはどちらも持ち得ない。


 凄まじい速度で振るわれた剣を躱し、反撃とばかりにシェラザードの肩を斬りつける。

 傷は決して浅いものではないというのに、彼女は怯む事無くラクサーシャを殴りつけた。

 刀を盾にするも、衝撃を受け止めきれずに弾き飛ばされた。


 壁に叩きつけられ、苦痛に呻く。

 幾本か骨を持っていかれたようだった。

 だが、戦えぬほどではない。


 再び刀を構えれば、視界にはロアとシェラザードが拳で打ち合っている姿が見えた。

 身体能力はシェラザードの方が上である。

 普通に考えればロアが打ち負けるはずだったが、しかし、打ち合いは互角だった。


 ロアが拳を振るえば、シェラザードも拳を振るう。

 漆黒の鎧による堅牢な守りがあるシェラザードは守りを考えない。

 それ故に恐ろしいまでの連撃を放つ。

 荒れ狂う暴風の如く、休む間も無く拳を振るい続ける。


 だが、守りを捨てている点ではロアも同じだった。

 何度も直撃を受けているにも拘らず、その拳打は衰えない。

 喰らう傍から体が修復されていた。

 その回復速度はシェラザードの攻撃を上回る。


 人外の強さ。

 それがラクサーシャには無かった。

 いつの間にやら魔力も尽きかけており、後何分も戦えないだろう。


 彼もまた、同じことを考えたのだろうか。

 ラクサーシャの脳裏にアスランの言葉が思い出される。


『脆弱な。人は、何て弱い、生き物だろうか……』


 それは、否定しようの無い事実。

 目の前の光景を見れば、否が応でも思い知らされてしまう。


『嗚呼、脆い。脆すぎる。脆すぎるんだよ、人って生き物はさ』


 その言葉にラクサーシャは肯かざるを得ない。

 人間として、彼は最高峰の存在だ。

 人の身では至る事が出来ぬ神域。

 そこに足を踏み入れた超越者だ。


 だが、そこまでだった。


 上には上がいる。

 その果てとさえ称賛されたラクサーシャ。

 しかし、それは人間の中での話。

 人外を前にすれば、それだけでは足らないのだ。


『人は脆い。なら、どうすれば良いと思う?』


 どうすればいいというのか。

 ラクサーシャは自問自答する。

 これ以上、己は強くなることが出来るだろうか。

 鍛錬を積めば、不死者とも渡り合えるだろうか。


 ロアの不死性はラクサーシャの想像を遥かに上回っていた。

 勝てると思い込んでいた自分が愚かに感じるほど。

 全力でぶつかったとして、半分も消耗させられたら良い方だろう。


 足を踏み入れるだけでは問題外だ。

 目の前の二人は、その奥に存在している。

 そこまで至るにはどうすればいいというのか。


『――僕は堕ちる。力を得るために』


 悪魔が囁いた。


 不死者に身を堕とせばいい。

 そうすれば、ラクサーシャは目の前の二人さえも上回るだろう。

 不死性を得たならば、もはや恐れるものなど存在しなくなる。


 だが、その決断は出来なかった。

 ラクサーシャには大切なものがあった。

 信念という名の空箱が、彼を縛るのだ。


 盲目に、狂信的に。

 空箱を大切に飾り付けていた。

 厳重に管理して、接近者を排除していた。

 それが空箱であると受け入れるには、ラクサーシャは真面目過ぎた。


 ラクサーシャは魔力を惜しむ事無く瞬魔を発動させる。

 己が正しいと信じたいがために。

 人の身で打ち勝とうと考えていた。


 ラクサーシャの魔力の高まりを感じ、ロアとシェラザードも身構えた。

 鬼気迫る表情で魔力を練り上げる姿は、さながら悪魔のようだった。

 鏡面のような氷に映し出されるも、今のラクサーシャには意識の外だ。


 残りの魔力全てを注ぎ込んだ一撃。

 それを迎え撃たんと、ロアとシェラザードも全力の一撃を放つ。


「――奥義・断空」


 ラクサーシャが放つ。


「――葬落焔ベグラーベン・パラディース


 ロアが放つ。


「――竜咆歌ラージェ・ゲブリュル


 シェラザードが放つ。


 それぞれの放つ全力の一撃。

 極大の魔力がぶつかり合い、氷の神殿さえも打ち砕き――。

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