第119話 交渉成立
いや~本当に、行商できるほどの量を持ってて良かった。
クセでついつい大量買いをする俺だけど、溜め込むクセがこういう時に役に立つもんだ。
そしてありがとう、アントネスト&コロポックルの森。
遊んでいたような気がしなくもないし、多分気のせいではないけれど。
なんだかんだでコロポックルの森やアントネストで作った品物は、俺たちにとって有利な武器になったようだ。
俺がこの世界で生きていけるのも、この不労所得という名の錬金術のお陰である。
「これはリオンが作ったヤツだから、普通より効果は高いぜ」
「お近づきのしるしに、お一人様一つだけよ?」
「他では手に入らない物だ」
まるで商売人のように、大人組が駆け引きを持ち掛けた。
これもシュテルさん含む商人やギルドのお偉いさん相手に培った交渉術の賜物であろう。俺を含む子ども組は交渉が下手なので、勉強がてら大人しくしておく。
タダより高いモノはないんだけどね。
グロリアスの人たちもそれは判っている事だろう。
この話に乗ってきた時点で、俺たちの思惑も理解しているだろうし。
お金があっても手に入らない物を手に入れられる機会があれば、それを逃したくないと思うもので。冒険者なら特にそういった傾向が強い。
今やラウンジはデパートの実演販売のようになっていた。
「え。何だコレ、透明な石鹸なのか?」
「香りが半端ねぇぐらい良いんだが?」
「でも石鹸の製造や販売って、貴族が独占してなかったか?」
よくご存じで。でも俺もそこはちゃんと調べた。
グリセリンソープは既存の石鹸とは作り方が全く違うし、アントネストでなければ作れない特殊性から、特許を取っても他じゃ作れない商品となっている。
「これはクリアソープよ。アントネストのドロップ品から作られているから、他じゃ手に入らないわ。しかも汚れが落ちるだけじゃなく、保湿力も抜群なのよ」
だから競合他社にはならず、貴族が独占している石鹸の製造や美容関連のモノとは全くの別物となっているのだ。
まぁその内、貴族の作っている石鹸よりも、アントネストの方が良いものだってのが知れ渡るだろうけどね~。
「うおおおっ! は、ハチミツもあるじゃねぇか!」
「この黒い液体は、調味料なのか? どう使うんだよ?」
「ヤベェ、どうしよう! 全部欲しくなんじゃねぇかよ!」
「ちょっと待て。これって、キャリュフソースなんじゃぁ……っ!」
「マジかよスゲェッ!!」
商品のラインナップを目にして、盛り上がるラウンジ。
アントネストで手に入る筈だった商品だけど、下船しなかったから手に入れられなかった物ばかりだ。
コロポックルの森のギルドと、アントネストのギルドが姉妹提携をしているので、キャリュフ商品も融通してもらえている。田舎と侮るなかれ。案外こういう物って、都会より田舎の方が手に入りやすいんだよね。余計な柵が少ないし。
しかもこの場に居るのはグロリアスのみなさんしか居ないので、俺たちもやりたい放題である。
どうやらアントネストでスプリガンが乗り込む前に、クラン同士で魔動船内の縄張りというのが決まっていたらしい。
娯楽などの遊戯室はラヴィアンが占拠していて、食事時以外は使われないメインダイニングはその他のクラン、そしてこのラウンジがグロリアスとなっている。
力関係がハッキリわかるね。ラヴィアンは金に物を言わせたっぽいけど。
しかし何でみんな縄張りを作りたがるのか。いや何となく判るけどさ。ヤンキーやヤクザもそうだけど、力がある人たちって本能的に拠点を作りたがるんだよね。
「やっぱアルケミストってスゲェんだな……」
「こんなスゲェもんを作っちまうんだからよ」
「お前さんらが大切にしてんのも判るぜ」
「実力がねぇと、守れねぇほど貧弱―――いや、か弱いんだろうがなぁ」
言い直したところで意味は一緒だからな。
だが俺は否定しない。最弱なのは事実だからだ。
なので、グロリアスのみなさんも俺を守って下さい。この商品はその為の布石なのだから!
そんなこんなで。
アマンダ姉さんたち大人組による交渉を背後に、子ども組はテーブル席に座ってぼそぼそ話し合っていた。
「なんか勿体なくねえっすか?」
「だよね。リオっちいいの?」
「いいよー」
まだあるし。それに一番重要なのは、俺たちの生存率の向上である。
命あってのものなので、彼らの協力を得られればこれぐらい安い物だと思う。
それにまた作ればいいだけだからね。
スプリガンのメンバーは材料を集める。
そしてそれを俺が使って何かを作る。
作った物はいずれ何かの役に立つ。
こうして世界や経済が回るのである。
「なぁ、リオン。ジャーキーはないかって言われたんだが―――」
「あるよー」
商品のラインナップじゃないけど、ツマミにしたりシルバやノワルにあげるために大量に持っている。
爬虫類のササミ風燻製肉とか、牛タンジャーキーもあるよ。
「枝豆は」
「あるよー」
中々なくならないんだよね、これも。
そうして求められるままに、俺はホイホイとリュックから取り出した。
「なぁなぁ、もしかして、このワインってのも―――」
「ほしいの?」
「あるのか?」
「う~ん」
直接俺に交渉をし始めたので、悩むふりをして大人組を見た。
「それは情報次第ね」
「それか、リオンに絡む妙な奴を排除するかだな」
「よし、オレらもアルケミストを守るために、一肌脱ぐぞ!」
「交渉成立だな」
それじゃぁ赤と白の両方売ってあげよう。ツマミとお酒は別口として、俺を守ってくれるという条件で売ることにした。
これで俺も客室に引き籠り続けなくても済む。盾は多い方が良いのだ。
実は温室の占拠をしたいなって、思ってたんだよねー。
他のクランも溜まり場を作ってるんだし、俺だって秘密基地が欲しくなったのだ。
だから後で袖の下を持って、アマル様に交渉しに行こうって考えていた。
どうもあの人は食いしん坊のようなので。食べ物で釣れるような気がするのだ。
他の溜まり場に出来そうな所はどこかのクランが占拠しているのもあるんだけど、シルバやノワルにとっては温室の方が遊べると思うんだよね。
室内に俺が閉じこもっちゃうと、どうしてもシルバやノワルも付き合わされることになっちゃうし。それだと可哀想だもんな。
アントネストの時は交代で適当に散歩に行ってたけど、ここじゃそれも難しそうだからね。
甲板にあったあの温室は広々としていて、様々な植物が生い茂っていた。
何のためにあるのかよく判らないんだけど、手入れをしている様子もなく放置されたままっぽかったんだよね。
俺には判る。最初は目的があったような気はするけど、世話をする人がいないためにほったらかされちゃった温室だ。
今までは眺めるだけだったディエゴ作の植物図鑑や、薬なんかのレシピが、ここで役立つような気がする。
「ふたりとも、じっけんにつきあってねー」
「え、な、なんの?」
「嫌な予感がするっす……」
俺はニマニマしながら、薬の治験者である二人を誘った。
大丈夫大丈夫。薬とは言っても、危ない物を作るつもりはない。
アルコールに弱い俺もちょっぴり飲みたい気分になるけれど、酔い覚ましの味が嫌で飲んでなかったので、自分で作れば味の改良が出来るのでは? と考えただけだ。
まぁ、他の薬が作れるようなら作るけどねー。
楽しみだなー。うはははは!
余談だけど。
この後アマル様に温室を占拠していいか尋ねに行ったところ。
シュテルさんが逃げ込んでいたので引き渡して貰った。
関係者以外立ち入り禁止区域に逃げ込んでいるとは思っていたが、アマル様の部屋とは考えたモノである。
そしてやっぱあの人って食いしん坊だったよ。
俺の作った燻製肉や秘蔵のお酒を持参したら、温室の使用をあっさりと許可してくれた。
無表情なのに物凄く喜んでいるのが雰囲気で判るんだよね。
侍女さんが警戒しているのかめっちゃ嫌がってたけど、美容関係の商品やハチミツにビーポーレンをあげたら「そこまでするのなら、仕方がありませんわ!」っていう、ツンデレのテンプレのような許可が下りた。
この人もなんだかんだで扱い易そう。アマル様至上主義っぽいので、そこを間違わなきゃいいような気がするしね。
情報交換できる頼もしいクランとの交流も出来たし、温室の使用許可も貰えたし、シュテルさんも捕まえられたので、俺にとっては大変充実した一日であった。




