第103話 おいしくてつよくなる
異世界で強い魔物を斃すと、レベルがアップするのがお約束である。
だが俺はと言えば。
「なにもかわんないね」
『そうですね』
「…………」
うん。まぁ、この件については深く考えるまでもない。
包丁落としただけだし。それでレベルがアップしたとしても、俺はちっとも嬉しくないしね。そもそもこの世界では魔物を斃したからと言って、ご褒美にレベルがアップするゲームのような世界ではなかった。
鍛えてこそ強くなるんだから、アイテムで斃したって強くなる筈がない。
それにしても。
「レヴィアタンに比べりゃぁ、ザラタンなんざただの巨大な亀じゃねぇかぁっ!」
「シーサーペントもちょっと大きなアナコンダよっ!!」
ギガンとアマンダ姉さんが発狂している。
SAN値がゼロにでもなったのだろうか?
ギガンなんかザラタンが甲羅に閉じこもっているのにガンガンと斧で甲羅を叩きまくっているし、アマンダ姉さんは風魔法でシーサーペントを締め上げていた。
世界最大のアナコンダでも体長九メートル、体重二百三十キロもあるのに、シーサーペントはその倍の大きさだよ?
世界最大のオサガメは全長四メートル、体重は三百キロで、ザラタンはその四倍の大きさなのだが。
二人とも怖くないのだろうか? やっぱ発狂してるのかね。
「もぉ~っ! なんで一気に三体も出てくるのよっ!?」
「チェリッシュ! 文句言ってないで、奴の目を狙うっす!」
「わかってるわよっ! 鬱陶しいったらないんだからぁっ!」
「ナイス! 一気にぶった切るっす!」
シードラゴンに向かって、チェリッシュが矢を放つ。奴の目が射貫かれ、痛みによってのたうっているところに、テオがすかさずバスターソードを振り下ろした。
こちらのシードラゴン(全長二十メートル)は、アースドラゴン(全長三十メートル)よりは小さく、回復力はそれほどでもないとはいえ、六ツ星ランクなんだけど。
まだ四ツ星の筈の若手二人がボコボコにしているのがおかしい。
全員SANチェックした方が良いと思うんだけど?
みんな結構稼いでたから、武器も新調して更に強化されているだけに、六ツ星ランクの魔物にも確りとその威力を発揮しているのだろう。
ディエゴの電撃の余波で帯電してたし、血行が良くなって動きがスムーズになったのだろうか?(そんな訳はない)
「入れ食い状態だな」
「そうだねー」
レヴィアタンが斃れたことにより、海域エリアは普通の六ツ星ランクの魔物が出現するようになった。
普通って何だって話なんだけどね。
問題は一気に六ツ星の魔物が三体も海岸へ出現したことだろう。
俺がレヴィアタンのドロップ品を確認していたところ。みんなに説明する暇もなくヤツラが続々と出現したものだから、容赦なくバトルが始まってしまったのである。
これも初回特典のようなものなのだろうか?
Siryiの鑑定という名の推測によれば、レヴィアタンが沖合と沿岸の海溝に居座っていたため、こちらへやってこれなかったのだそうだ。
海溝に潜んでいたレヴィアタンを畏れて、沖合でウロウロしてたと考えると笑えるけれど。姿は見えれどこちらへやってこない理由としては納得だ。
そして俺とディエゴ(シルバ&ノワル)は、抉れていない砂浜に座って、遠目からギガンたちの戦闘を眺めていた。
一応、危なくなればディエゴが手助けをするつもりなのだけど、そんな危機的状況には陥っていない。若手二人も騒ぎながらも安定した戦闘を繰り広げているので、俺たちは暢気に観戦しているところである。
レヴィアタンに比べれば大したことがない相手だからな―――と言い放ったのは、ギガンとアマンダ姉さんだ。
テオやチェリッシュもつられて「確かに」とか言っちゃってた。
そこ納得するところじゃないから。
とはいえ、四十メートル級のレヴィアタンに比べれば、二十メートル程度は小さく見えるかもしれない。シャバーニさんと俺を比較するようなモノだ。(あの人ら、身長が二メートル超えてんだよ。NBAの選手かってんだ)
そりゃ、俺のような子供身長が挑んで来たら、鼻で笑っちゃうんだろうけどさ。
災害級のウォータブレスに比べると、その他の六ツ星の魔物が繰り出す水魔法は、水鉄砲程度に感じるのだろう。俺なら一発でも当たれば死んじゃうけどね!
みんな軽々と避けたり、隙を突いて攻撃を仕掛けている。
避けようのない攻撃ではないと気付いたって感じだ。
でもやっぱり冒険者って、化け物じみてるよね。よくもまぁ、あんな魔物相手に臆することなく挑めるよ。
「ギガンやアマンダはともかくとして。二人で一体を相手にしているとはいえ、アイツらも五ツ星ぐらいにはなっているようだな」
「そうだねー」
「……リオン、お前が何かしたのか?」
「してないよ?」
何かしたってどういう意味だ。
俺がしたことと言えば、毎日せっせと栄養のある料理を作って食べさせてただけだぞ。
ここ最近はアントネストでドロップする食材で作っていたけど。
良質な筋肉が順調に育っているってだけじゃないかな。
たまに実験的にローヤルゼリーを混入させたりはしたけれど、それだけしかしていないし。アレって美容と健康、そして老化防止にしか作用しないよね?
「俺も、以前より魔力が増えた気がするんだが?」
「そうなんだー」
自分の拳を握り締めて、ディエゴが不思議そうに呟いた。
「電撃魔法も、以前はあんなに威力はなかったんだが……」
「へぇー」
たまに健康足踏み機を使ってるからじゃない?
魔法でズルして筋肉を付けているようだけど、ディエゴだってじっとしている訳ではない。ストレッチとかはしてるし、みんなが見ていないところではこそこそ体を鍛えているような気がするんだよね。
天才肌だけど、影で努力をするタイプなんだろうか?
人前ではサボっているように見せかけているけど。
ダンベルをアレンジして、ウェイトリフティング用のバーベルを、俺が考案する前に思い付くような奴でもある。そこはベンチプレスだろうと思わなくもないが。
アレのせいで、GGGさんたちの筋トレに拍車が掛かった気がする。
「本当に、何もしていないのか?」
「してないよー」
なんでそんなに疑ってんだよ。
俺が何かやらかすとでも思っているのか?
なにかやっちゃいましたムーブとか患ってないぞ。
意図的に何かすることはあっても、無意識ではやらかさないのがこの俺だ。
「シルバやノワルも、妙に強くなっているんだぞ?」
「そうなの?」
俺はシルバとノワルを見た。
二匹ともそんなに変化しているような気は―――しないこともないかも?
シルバは最初からもふもふだったけど、更に毛艶が良くなっている気がした。
シルバは名前の通り銀色の体毛ではあるが、神聖な輝きが増したような気がしないでもない。でもそれは俺が毎日丁寧にブラッシングをして、普段食べなくても良い食事をしているからではなかろうか?
ノワルは俺を持ち上げて飛べるぐらいになったらしい。
最初は持ち上げる振りをしていたのだが、本当に持ち上げられるようになったと、ノワルが俺にこっそり教えてくれた。
その内ギガンですら持ち上げられるかも~と、ノワルが冗談っぽく笑っていた。
従魔も成長するってことだろうね。そう言えば最初に比べて少し大きくなったような気がする。まだ成獣じゃなかったのかな?
だとすると、これからもどんどん大きくなるのだろう。
それはとても良いことだと思うよ。俺を守る護衛が強くなるのは大歓迎である。
「食事の改善で、ここまでなるのか……?」
「なるなる」
「……そうなのか?」
「しょくじはだいじだよー」
丈夫な身体と健康を維持するために必要なことは、身体に最適な栄養を与え、適度な運動をすることだと思う。そう考えれば、みんな俺の食育によって順調に強い身体に育っていると言える。
最初に出会った頃の食事内容を考えれば、かなり改善されたもんね。
みんな伸びしろがあって良かったね~。
「もっとつよくなるよー」
「そ、そうか……?」
「うん」
今回のことで俺は学んだのだ。
レヴィアタンのような災害級の魔物が出現しても、難なく斃せるだけの強さを持ったパーティにすべきであると!
そうじゃなきゃ、怖くてこの世界では生きていけない。
元の世界に帰ることを諦めた訳ではないけど、それも生きてこそである。現状自分の身を守るにはパーティメンバーの強化が重要なのだ。
一撃必殺のタリスマンがあったとしても、それを使う状況になるなんて危なくて外も気軽に歩けないのがこの世界だ。
自分自身が強くなる必要があるだろうって? それこそ無理だよ。どう頑張ってもこれ以上育たないのは、身をもって知っているからね。
爺さんは男は25歳まで身長が伸び続けるって言っていたけど、残念ながら俺の身長は中学生時代で止まっている。
良い子の早寝早起きでも伸びない。なんでだ。
ならばどうするか。俺の周りを強者で固める方が手っ取り早い。
スプリガンのメンバーも強くなってランクも上がるし、俺は矛と盾が強化されてお互いウィンウィンではないか。
よーし、これからも料理の腕を磨いて、みんなを強化していくぞー!
おいしくてつよくなるパーティを目指して頑張ろうね! うはははは!




