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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第七章 蛇の女王
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七人の軍団

 シュネイデル率いる特別部隊がエリュマンティスからイスカリオーテに出立した七日後──。


 その同じ道をなぞるようにして、アルゴス北方の林の中で粛々(しゅくしゅく)と進んでいく一行があった。わずか七人だが、ひとりひとりが()(ほう)もない力を内に秘め、世界の行末(いくすえ)をになう者たちである。


 同数の多様な馬に(またが)り、もし見る者がいたならば圧巻(あっかん)させるであろう一団──かつて天と地をも畏怖(いふ)させた魔王リュネシスと、それに付き従う六人の強者たちであった。


 先頭を進むのは漆黒の魔少女アカーシャである。

 彼女は〝グルファクシ〟と呼ばれる(ひん)()(あやつ)る。赤の混ざった金色のたてがみを持つその馬は、大きさは並のサイズだが、短時間なら魔力によって天空をも()け抜けることができ、そのスピードは亜音速もの脚力を誇る、見るも美しい神話の馬であった。


 次いで、魔少女を補佐する構えで、ヴォロスとディーネが後に続く。


 大地の戦士ヴォロスが乗用するのは〝ブケファロス〟である。

 精悍(せいかん)な大男ヴォロスの馬らしく、通常のスケールを(はる)かに凌駕する見事なまでの青毛の巨馬であったが、特筆すべきはその頭である。雄牛を思わせる巨大な(わん)(きょく)した二本の角が、(ひたい)の両側に、にょっきりと生えているのだ。

 この馬は凄まじく力が強く、また、肉しか食べないという食性から、軍馬としての性質が強い。

 かつては、とある国の王が所有していた国宝であったが、誰も乗りこなすことができない荒馬だった。その噂を聞きつけた若き日のヴォロスが興味を持ち、国王から強奪したという(けい)()がある(いわ)くつきの馬であるが、それが運命だったのだろう。以後ブケファロスは、己が認めた豪傑(ごうけつ)ヴォロスにだけはその背を許している。


 水の精霊ディーネが乗ずるは〝ユニコーン〟の名で知られる伝説の馬である。

 (ひたい)の中央に一本の真っ()ぐな角が生え、馬体サイズは通常より若干大きい程度。ここまでは普通のユニコーンと変わらなかったが、この馬にはさらに(きわ)()った特徴が備わっていた。

 必要時以外は折りたたんで目立たないようにしているが、(あし)()(いろ)の馬体の背に一対の翼を有しているのだ。

 ただでさえ珍しいユニコーンの中でも、極めて希少な存在である。

 この有翼のユニコーンは、優れた()(ゆう)のユニコーンが交配した際に、ごく(まれ)にだけ受胎するという一種の変異種であった。世界的に見ても、この一頭しか存在しないであろう神に選ばれた馬である。スラリとしたシルエットの見目よい姿とは裏腹に、極度に獰猛(どうもう)な性質を有し、己の主であるディーネを守るためならば、相手が何者であろうと恐れずに立ち向かっていく。そして風より早く陸も、海も、駆け抜ける事ができるのだ。


 これら異形の馬たちの後を悠々(ゆうゆう)(かっ)()するのは、魔王リュネシスをその背に乗せた、輝かしいまでの白一色の天馬ペガサス〝白夜〟であった。

 一団の中でも飛び抜けた(きょ)()と美しい容姿を誇るこの白馬は、いかなる名馬をも凌駕するとされているが、驚愕すべきはその飛翔能力である。

 魔王を(また)がらせることで風の魔力の助力を得て、無限に近い耐久力で大空を疾走する。

 その速度は星々の間を駆け抜けるほどと伝えられ、共に歩を進めている他の神馬たちの追随(ついずい)を許さない。


 後に続くのは、ルスタリアの王女ルナが御している鹿毛(かげ)の馬である。

 さすがに前を進むそうそうたる名馬たちのような異能は持たない小ぶりの馬だが、王女のために特別にあてがわれたそれは、エリュマンティスで調教されている騎馬たちの中でも、特に(ひい)でた単体として厳選された駿馬だった。


 一団の後方は双頭守護神ライガルとベテルギウスが守っている。


 闘神ライガルは、言わずとしれた八本足の巨馬スレイプニルに打ち(またが)る。

 その馬体は魔王の愛馬に次いで(たくま)しく、(あふ)れる金色のオーラは他の名馬と比べても何ら(そん)(しょく)はない。


 賢者ベテルギウスは、ルナと同じようにエリュマンティスの騎馬団の中でひときわ(けっ)(しゅつ)した馬を──ただし、彼自身が慎重に見て選んだ栗毛の良馬に乗って続いている。


 整然と進み続けるささやかな軍勢は、だがそれだけで、地上列国すべての軍隊をひとつに集結させたに等しい戦力を秘めていた。


 その既知世界最強の戦闘集団が、それぞれの決意を秘めて今──(ぼう)(ぎゃく)の限りを尽くす闇の支配者魔女王ラドーシャと、極悪にして最凶なる六魔導との過酷な戦いに挑むべく静かに進軍していく。


 さわぐ胸の内を……(はや)る心をし殺して……。




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