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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第七章 蛇の女王
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蛇の女王メドゥーサ

 百二十年前。


 かつて、悪名高いバルガン王の恐怖の()(せい)が始まった当初──。



 ヴァルネリア国を完全に(しゅ)(ちゅう)に収めたバルガンであったが、まだ求めて得られぬものがあった。


 それは、ヴァルネリアの正当な王位継承者にして、太陽神の子の()(みょう)を持つ美しき王女メドゥーサである。


 権力こそ手にすれどバルガンは、(いや)しき身分を(しゅつ)()としていた。元々は下位の兵団長に過ぎなかったのだ。


 だが、王族の権力闘争により内戦状態が続いていたヴァルネリアにおいて立て続けに上げた功績(こうせき)により、異例の抜擢(ばってき)で将軍補佐役にまで登りつめた。

 さらには(たく)みな策略を巡らせ上官であった将軍を失脚させると、新たな将軍としてその地位にく。


 そうして獰猛(どうもう)かつ明晰(めいせき)な頭脳を用い、王族の内紛(ないふん)により衰退化していく国を(うれ)える将校たちを取り込んでいき、軍すらも支配下に置いた。


 そのような過程で軍隊を(しょう)(あく)したバルガンは、敵対勢力を根こそぎ制圧し、王族の者たちをただひとりの娘を残しすべて処刑した。


 その娘こそがメドゥーサだったのだ。


 以後バルガンは(みずか)らが王を名乗り、独裁政権を樹立した。


 しかし、いかに強引な手法を(つらぬ)こうとも、バルガン王が下層階級の成り上がりであるという事実は変わらない。

 そんなバルガンは、(いや)しいものが高貴なものに憧れるように、王女メドゥーサに異常なまでの執着を示した。


 伝説の初代王ケートーの末裔(まつえい)である王女を手に入れ、その高貴な血筋にあやかりたかったのか。

 あるいは単純に、ヴァルネリア一の美少女と名高いメドゥーサに()(そう)していたのか──。


 ともかく、バルガンの次なる野望はメドゥーサだった。

 男はあの手この手で娘を籠絡(ろうらく)しようとした。


 だが、いかに言い寄られようと、脅しすかされようと、誇り高き王女はけしてバルガンに身を許すことはなかった。

 取り付く島もない娘の態度に対し、狂王と呼ばれる男にしては辛抱強く事に当たっていたが、それでも(かたく)なに拒み続ける姫に(ごう)をにやし、最後は力でねじ伏せた。


 非力な王女が凶悪な暴君にかなうわけもなく、彼女は王の居室で押さえつけられあっけなく凌辱(りょうじょく)された。

 そうして男の(よろこ)びをさんざん味わい尽くされた後バルガンに、自分のきさきにしてやろうと(うそぶ)かれたのだ。


 だが、そんな言葉になんの意味があろう?


 誇りと(じゅん)(けつ)を奪われ絶望した姫は、城を飛び出し、大滝に身を投げ、自ら命を断った。


 このまわしい事件は、王女の身代わりの娘をメドゥーサと仕立て上げ、バルガンの妃として城に迎えることにより長らく伏せられていた。


 だが、恐ろしい()(こん)が残った。


 バルガンが魔王に抹殺され、ヴァルネリアに平和が戻った数年後──国内に古くより存在するひとつの秘教集団が、邪悪な力を持ち始めたのだ。


 その集団は蛇の神を崇拝し、蛇の姿を象徴(シンボル)とし、蛇の教えを広めていった。


 当初の教団は害のない団体であった。病の者を()やし、貧しい者に恵みを与えるなどして、真っ当な宗教組織としての様相を(てい)していた。

 そうして徐々に崇拝者を増やし、ヴァルネリア国内で相当数の信徒を獲得すると、その圧倒的多数により彼らは、議会において強力な発言権を得た。

 これにより教団は、ヴァルネリアを統べる国教としての地位を確立していく。


 だが、その後は、奇妙な方向に変わっていった。


 ヴァルネリアは、その国名をヴァルネリア教国と改めることになる。

 さらに王城は教団の所有物と化し、議会制は廃止され、それに変わり教団の高位の者による(ごう)()(せい)が確立された。


 すでにその頃には、誰も教団に逆らえなくなっていた。


 以後、教団は狡猾(こうかつ)な蛇のごとく、恐ろしい牙をむいてヴァルネリア全土を犯していったのだ。まるで最初から、その時を待っていたかのように。


 教団は、信者たちに幼い生け(にえ)を求めた。十二歳までの子供を──それも男児に限って、その肉と血を教祖に(ささ)げるよう強要しだしたのである。


 教祖は、得体の知れぬ若い女だった。


 彼女は、奥の院と呼ばれる城の最奥(さいおう)にひそみ、けして姿を見せることはなかった。

 

 ただその女は想像を絶する〝邪眼〟の魔力を放ち、かおは美しくも頭髪は無数の蛇で、見る者を石に変えると噂された。


 女の名は、メドゥーサと言った。



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