才能の片鱗
レミナレス王家は、太古より神竜の血を継承する一族として、三つの龍の氏族を従える。
それは即ち、〝黄龍族〟と〝白龍族〟そして闇に墜ちたがゆえに、今はもう滅びてしまったとされる〝黒龍族〟であった。
人の身でありながら神の力を宿すレミナレス王家──すなわちルナが生を享けた〝神竜族〟は、黄龍族(ライガルの一族)・白龍族(ベテルギウスの一族)と同様、代々、一子相伝としてその秘儀と力を受け継いできた。
しかし、その強大過ぎる力を全うできた者は、神竜族の歴史において開祖のみ。
そして真の継承者に恵まれぬまま、永い時の流れにそって〝神竜族〟より独立した三つの分家である龍族──黄龍族・白龍族・黒龍族を〝神竜族〟は自らの「守護龍族」として祀り上げていた。
つまり、すでに語られた双頭守護神たちは、本家である神竜族の従族であり、王女ルナのレミナレス王家を守護する宿命のもとにある。
ルナは、幼い頃から特別な力を持って生まれた。
その途轍もない力の片鱗を見せたのは、彼女がまだ六つの歳を数えたばかりの頃である。
周辺の魔獣討伐に赴いた国王の遠征の間隙を突き、魔女王配下の魔物たちが、エルシエラに急襲を仕掛けたのであった。
さらにはクレティアル城にいる魔女王側の内通者がこの一幕に加担していたため襲撃はあっさりと成功し、王女ルナは拉致された。
だが驚くべきことにルナは彼らに連れ去られた後、獰悪な魔物たちから単身逃げきり、その際に敵の幾体かを自身の剣で斬り裂いたのだった。
まだ、ほんのたしなみ程度にしか伝授されておらぬはずの剣術の心得を頼りに、物心のついたばかりの幼い娘が、である——。
そして、幼女の救出劇に手を貸した何者かによる力添えもあり、彼女は無事にエルシエラに帰還することができた。
幼い王女がさらわれるという、痛ましい大事件に騒然となっていたクレティアル城の早朝の正門前で——漆黒のマントに身を包んだ女に付き添われて、赤紫色の髪をした女児がひょっこりと現れる。
「ルスタリアの王女ルナ」を自称する、愛くるしい幼女の身元確認に守衛たちが泡を喰らっていた間に、随伴していた黒衣の女は忽然と消え去った。
それまでの経緯や立ち会った守衛たちの印象から、その女の助力があってこそ王女が生還できたのは間違いないと判断された。
神話に登場する魔女のごとく貌まで黒いフードで覆い隠しながらも、匂い立つような妖美さを感じさせる若い娘であった。
王家は国を挙げて、恩人と思しき〝漆黒の魔少女〟の行方を捜したが、彼女の手掛かりは杳として掴めなかった。
その後ルナは、レミナレス王家に伝わる秘剣の奥義を本格的に学び、また、積極的にルスタリアの格闘術までも身につけて、若干十四歳にして剣術・体術の双方において敵う者のいない無双の使い手となっていた。
少女は密かに限りない高みを目指していた。目標とする者が——彼女の中で勁く憧れる存在があった。
必ずや、いつか会いたいと思う人……そして、いつの日か並び立ちたいと願う人……そのためにも……。




