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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第四章 双頭守護神
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思わぬ苦戦

 ライガルの闘気が、どこまでも高まっていく。


 辺りの空気が吹き飛ばされるほどの、底しれぬ力であった。体内から()き起こるエネルギーを最大限にまで(ふん)(しゅつ)させる。


 闘神ライガルの立ち位置から逆流するようなエネルギーの気流が、(たい)()する魔少女の髪をざわざわと(なび)かせる。


 それを受けてアカーシャの美貌から、笑みが消えた。

 常に魔力を帯びる紅い眸が、ゆっくりと射光(しゃこう)し始める。


 彼女は右腕を、呪文発動の形にすっと構えると、冷たい眼差しを相手に向けていた。



 ―――― § ――――



前衛(ぜんえい)魔獣部隊は退(たい)(きゃく)させよ!(ちゅう)(えい)獣人部隊は魔獣たちの援護と救護に当たれ!残る全魔道部隊は私に続け!!」


 腕を振り回す妖術師ケルキーの号令が、冴え冴えと戦場に響いていた。一瞬の混乱から速やかに立て直し、一軍の将として今考えられる最良の選択を弾き出す。


 エルシエラにおける緒戦(しょせん)からの危機的状況は、全くの予想外であったが、戦場において不測の事態は必ず起こり得る。

 だからこそ、それに即応できる将の器量こそが、戦の勝敗を左右する最大の要因となるのだ。


 若いながらも逆境に強い彼女の決断力こそが、アカーシャがケルキーを五妖星の一人として任じた、大きな理由の一つでもあった。


「蛇を相手にするな!封呪の呪文ももういらぬ!ここから先は死ぬ気でかかれ!あの蛇を(あやつ)る賢者だけを(あぶ)()すのだ!!行くぞぉー!!!」


 叫ぶと同時に、ケルキーは素早く身振り手振りで、側近たちに次なる指示を矢継(やつ)ぎ早に出していった。すると首領の指令を受け取った部下たちは、別動隊として素早く起動し、そこここに散っていく。

 戦いの戦端に放った雷の呪文による魔法探知で、すでに天才妖術師は、賢者が潜んでいるであろうおおまかな位置をつかんでいたのだ。


 だが、そのことを踏まえても、現在第三魔軍が置かれている状況はあまりにも厳しい。


——まさかここで、あれを使うことになるとは……。


 ケルキーは不快そうに奥歯を(きし)らせ、悪夢と化している戦場を一瞥(いちべつ)した。


 今、この時においても、痛烈な大蛇たちの波状攻撃に(さら)され〝魔空間〟で強化されたはずの魔獣部隊が次々と打ち倒されていく。


 このわずかな時間で第三魔軍は、前衛を務めていた魔獣軍団四千強の、実に二分の一に相当する二千以上もの合成獣を失っていた。加えて、他部隊の戦士たちにも容赦なく襲いくる大蛇の波動が、止めようもなく新たな犠牲を次々と生み出している。


 甚大(じんだい)な被害である。


 戦の定石からすれば、この時点で戦闘を継続させることはあり得ない。本来ならば、さらなる犠牲を増やす前に、指揮官は撤退を指示しなければならぬほど深刻な事態に(おちい)っているのだ。

 ましてや敵陣を目前にしながら、結界のせいで中に踏み込むこともできぬという、らちが明かない状況の中で……。


 だが、魔王軍の中堅を守る誇り高き第三魔軍が、この程度のことで引き下がることはできぬ。ケルキー自身、いざとなれば敬愛する魔族の姫のために、討ち死にする覚悟もできているのだ。


 妖術師は悔しさに耐えるように、唇を噛んで(うな)る。


——こんなことで逃げ帰っては、アカーシャ様に顔向けができるか!()めるなよ人間ども……こちらにも切り札はあるのだぞ!戦いはこれからだ!!


 ケルキーは怒りをはらんだ目で、ゆっくりと背後にある魔空間を睨んだ。



 




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