体育祭シーズン到来
10月半ばは運動会、体育祭、まあその手のイベントを行う学校が数多く存在する。
僕の通う中学も例にもれず、体育祭が行われた。詳細は特に語るようなこともないので省こう。借りもの競争でもあれば面白かったのかもしれないが、うちの学校じゃ行われないし。
何の変哲もなく、いい汗かいた、疲れたー、って感じで終った。
そして、行事が無事に終了したため一週間ぶりにBFOにログインすることとなる。
その間にアップデートが行われたので一眠りして更新を待っていたんだけど……長いな。
「公式サイトを見て情報を仕入れておくか」
えっと……不具合修正とバランス調整はいつものことか。海賊の入り江クエストのリセット問題の修正ってなんだろう? 公式サイトだけだと詳しくわからないが、何かバランスに問題があったから修正されたんだろうな。まあ、時折こういった当事者じゃないとよくわからない修正は目にするので今更気にしないけど。
あとはペットの修正……あ、コマンドのカスタマイズやりやすくなったのか。ペットに使わせるアイテムの優先度などシステムを使いやすくしてくれたようだ。
そして目玉が乗り物アップデート。専用のスロットが増設され、そこに乗り物をセットできるようになるとのことだ。さらに、全プレイヤーに初期乗り物【自転車】を配布……いや初期状態であらかじめセットされているように仕様変更されるのか。
「移動速度の問題に対応したか」
今までも【騎士】などの職業は『騎乗』スキルで馬などを操れたし、僕も【海賊】の『操船』スキルで船を高速で動かせた。だが、これにより全プレイヤーが素早い移動手段を手にしたことになる。
また、課金アイテムでより速い乗り物なども使えると。あと、今まで存在した乗り物も仕様変更がなされて耐久値が大幅に増えているみたいだ。課金アイテムは耐久値無限だけど……まあ、当たり前ではあるか。何かしら優遇されていないとおかしいんだし。
そして、アプデに伴う新イベント……いや、ハロウィンイベント中なのにさらにイベントやるんだ…………いや、イベントといってもハロウィンはポイント集め系だし、他のイベントが同時開催されても別におかしくはないか。ただ問題なのはそのイベント内容だ………………なんだよ、トライアスロンイベントって。世界観どこいった。いや、ネトゲのイベントって世界観無視したようなのもあるけども。
「えっと、アプデ記念杯。専用にミラーサーバーで行われるトライアスロンレース。コースは南の孤島からスタートして、海を泳ぐ。大陸に上陸したら自転車で砂漠近くのチェックポイントまで走り、最後は帝国首都まで走っていくコースと……」
しかも開催は明後日。いや、事前準備短すぎない? 事前予告もほとんどなかったし……見たところ、試験的なイベントらしい。でもレースイベントか……面白そうだし参加しよう。
ミラーサーバーやレースに対応したシステムが組まれているあたり、運営は運動会シーズンにレースイベントやる気だったのは分かるけど……事前告知がほとんどなかったのは乗り物アプデもかぶったから形式をギリギリまで悩んでいたとかそんな感じかな。
「とりあえずエントリーしておいて、開催時間は……まあ参加出来るな」
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一週間ぶりのBFOだけど……ヒルズ村はお通夜みたいな空気になっていた。
「なにごと!?」
「お、お兄ちゃんですか……ほ、本物のお兄ちゃんですか!?」
「いや、本物もなにも……リアルも忙しかったから少しの間ログインしてもすぐにログアウトするって言っていなかったっけ?」
「い、いえ……それは聞いているですけど、この間のことがあったですから…………その、ごめんなさい」
「うん。ほんとにね。まあ、それはもういいんだけど」
僕の不注意も原因の一つだから特に何も言う事は無い。それにメッセージで謝罪も受け取っていた。ただ、忙しかったからログボ受け取って、思いついた高速移動の練習を10分ぐらいしてログアウトしていたからなぁ……返事も簡潔にしていたからみんなが今どういう状況なのか全く知らない。
「村長……ワシらもうダメかもわからん」
「なにがだよ」
「統率がね、取れていたのよ」
「……?」
みょーんさんが何かを言っているが、何を言っているのかわからない。
めっちゃ色々さんが手招きする感じでこっちへ来いとアクションをしているので近づいてみると、木々の向こうを覗けと言われる。え、なんで?
まあ見てみるけど……木々の向こうには数人のプレイヤーが集っていた。どうやら、何かのグループみたいだ。何かを話し合っているようだけど、よく聞き取れない……
「彼らがどうかしたの?」
「統率、取れていますよね」
「見た感じチームワークの良さそうな感じはするけど」
「実際チームワークが良いんじゃよ。彼ら、ここ最近炭鉱スタートした新人たちなんじゃけど、つい昨日外に出てきたんじゃ。それで、今後どうするか話し合いをしているそうなんじゃけど……」
「今、拠点を探しているそうです」
「なに? 立ち退きを要求された?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……」
「アタイ達って基本的に好き勝手やっている感じで、ここだって拠点というか倉庫代わりだからニャ、なんだかああやってまとまったグループを見ると罪悪感がわいてきてだニャ……」
「そうなんでござるよ……こう、自分から譲ったほうがいい気がしてきたんでござる」
「…………気にする必要なんかないだろうに」
むしろネトゲでプレイヤーが所有できる土地なんて早い者勝ちだろうに。っていうか利便性を考えたらここに拠点を作るより大陸に移動してからのそっちで探したほうがいいよ。
そもそもの話別段空き部屋があるなら好きに住んでくれて構わないんだけどね――いや、らったんさんで満室だっけ? ところで、らったんさんだけいないんだけど……どうしたの?
「ああ、彼女でしたら『んゆー? あーしフレンドに呼ばれてっからとりまいってきまー』と言ってさっさと行ってしまいましたよ。あ、トライアスロンには参加するそうです」
「あっそ……自由だなぁ」
「村長がそれ言うか」
「じゃあ、僕も自由にやらせてもらうわ」
「ちょ、彼らに近づくの!? やめなさい、私たちみたいな自由人は彼らのオーラを浴びただけで消えてしまうのよ!」
「どういう設定だよ」
「お、お兄ちゃん!? 浄化されますよ!?」
「アリスちゃん……君までどうしたんだよ」
あと、たぶん彼ら知り合いだから。
近づいてみると、やはりマスターJさんたちだった。
「おひさー」
「あ、ロポンギー君! 久しぶりだね。村には寄ってみたんだけど、留守にしていたから心配していたんだよ」
「ロポンギーさん、おかげさまでここまで来れました」
「思ったより早くて何よりだよ。あと、こっちも忙しくてゲームやってらんなくてね。疲れている時にVRゲームって集中力奪われるし」
「あはは……わたしたちもテスト期間中はやめておいたほうがいいかなって。学生組は来月は期末テストだし」
…………あ、そういえば僕もそうじゃん。その時は控えたほうがいいかなぁ。
あと、僕が彼らと普通に会話しているのを見て後ろの村民たちが驚愕しているけど……失礼な。僕だって常にアホなことやっているわけじゃないし。
「外に出る道順は教えたけど、出た後どうするかは教えたっけ?」
「俺たちもそのあたり悩んでいたんだけどよ、どこかに拠点を作ろうかって話していたんだよ」
「せっかくだから、わたしたちはこのメンバーでチームを結成しようって話になってね」
僕が話したことがあるのは3人だけど、更に5人、合計8人のプレイヤーが集っていた。どうやらこれでフルメンバーらしい。他に何人かいるって言っていたっけか。
ちなみにチームであるが、プレイヤーで結成したチームのことである。そのまんまだね。他のゲームではクランやギルドと呼ばれていることもあるが、内容は同じだ。そういえばこのゲームにもあったんだっけ……いや、よく考えたらヒルズ村もチーム扱いだったわ。【村長】のステータス向上対象に含める際にその情報を参照するんだった…………
「とりあえず、アクア王国のほうに行ってみたら? あっちに見える、大きな城のほう」
「え、あそこダンジョンじゃないのか!?」
「あー、そういう誤解か――って攻略サイト見ていないの?」
「いっそのこと、そういう情報には頼らずに現地でプレイヤーに尋ねる範囲にとどめてどこまでやれるかって感じで遊ぼうってことになったの」
「なるほど」
楽しみ方は人それぞれだからね。それもまたアリだろう。
「まあ、それはそれとして前に言ったと思うけど、アクア王国の王城で受けられるクエストを進めると、大陸にワープさせてもらえるから。とりあえずそれを進めておいたほうがいいんじゃないかな。拠点を作るにしても先立つものは必要でしょ」
後ろのほうで村長が、まともにアドバイスしているって驚いていやがる。
いや、さすがにアドバイスが必要だろうなって相手には真面目に対応するからね?
「あと、職業も先にアクア王国のギルドで変えておいたほうがいいね。基本的なのは一通り転職できるし」
「へぇ、例えば何があるの?」
「シーフ系以外なら大体はあったはず……【剣士】とか【狩人】とか。変わり種だと【遊び人】もあるね」
完全運ゲーの職業で、スキルを発動するとダイスが振られて出目で効果が決まるんだ。たまーに使っている人がいるんだけど、運が良ければすさまじい火力が出る。基本、スカだし自爆もするんだけどね。
さすがに彼らの中に選ぶ人はいないみたいだが。
「まずは適当に転職して、練習してみたほうがいいかな?」
「そうだね。この島の森や、アクア王国なら草原あたりに出てくる敵なら練習台にちょうどいいと思う。まあ、しっくりきたら後はそこから自由に遊んでみるといいよ」
「何から何までありがとうねー」
「あ、そうだ。明後日イベントがあるんだけど、それは参加するの?」
「とくに戦闘もなさそうだし、一応参加するつもりだよ」
「参加賞は欲しいからなー」
トライアスロンイベント、参加賞で【自転車】の強化パーツでタイヤが手に入るんだって。悪路でもスピードが落ちづらくなるんだと。かなりの人数が参加しそうだなぁ……
「まあ、僕たちも参加するけど、さすがに手加減はしないからそのあたりはよろしくね」
「あ、あはは……爆弾はやめてね」
「ケチャップソースさん、今回は攻撃行為できないみたいだから、さすがにやらないよ」
「そ、そうだよね。爆弾魔ってあだ名を聞いたから不安で――まって? できたらやっていたみたいな言い方なのが気になるんだけど」
そりゃできていたら全力で妨害したから。
やるならとことんまでやって優勝狙うよ?
…………あとでレギュレーション確認しよう。もしかしたら何かいい作戦を思いつくかもしれない。
「それじゃあ、おれたちはさっそく向かうことにするよ」
「また明後日よろしくねー」
そう言い残し、彼らは去っていった。
まあすぐに会うことになるわけだけど……さて、問題はこっちだな。
「で、なんでそこまで及び腰だったんですか」
「それよりも一つ聞きたいんだけど……村長、彼らと知り合いだったの?」
「代表で話していた人達だけですけど、この前炭鉱に入った時に知り合って、外への出方を軽く教えたくらいですよ」
「……ど、どうりでにこやかに村に入ってきたわけね」
「びっくりしたよねー」
「笑顔で近づいてくるので、地上げ屋か何かかと」
「なんでそんなにネガティブな発想なのか」
っていうかネトゲの中で地上げ屋ってなんだよ。
「某、また何かやってしまったのかとドキドキしていたでござるよ」
「お兄ちゃん……今月に入ってから何をしていたんですか」
「いろいろだよ」
主にスクショ撮るためだけど。
あと、高速移動の練習とか。思いついたことはあったんだけど……何度も練習しないと制御に失敗するから本格的に練習しようかなって思ったんだけど、まずは目先のイベントである。
「というわけで、トライアスロンの練習をしよう」
「また唐突じゃな」
「でもいつもの感じってして、ほっとしているです……あの、お兄ちゃん」
「うん?」
「この間は、本当ごめんなさいです」
「いや、だから別にいいって……」
しばらくログインしていないと、なんだかやりづらい。
何はともあれ、トライアスロンイベントの開催だ。目指すは優勝!




