今更だけど、ここ電脳世界だからね
感想誤字報告、ありがとうございます。
「んゆー? でも、変な感じだねー。SFっぽい世界だし」
らったんが周囲を見渡しながらそう言った。四角い通路がワイヤーフレームで構成され、その向こうは水の中のような世界が広がっているのみ。いや、キラキラと光る粒子が舞っているのが星にも見えるため、宇宙空間にいるような錯覚を起こすのだろう。
「そもそも電脳空間だからね。こういう、ワイヤーフレームをベースに画像を張り付けて地面や建物、キャラクターを描写しているんだし」
正確にはキャラクターの骨組みであるボーンやら他にもいろいろとあるものだが、ロポンギーもさすがにそのあたりの説明は省いた。そもそも彼自身もそこまで詳しくはない。
「ここは地面の中身むき出し的な?」
「まさにそれ」
ガラスか何かでおおわれた通路の中にいるような感じだが、地面や壁を叩いてみると石を叩いたときのような音が響く。どうやら石造りのダンジョンか何かのボツエリアらしい。
「BFOってこういうの手作業で作っている部分多いらしいからなぁ……」
「んゆー? 人足りる?」
「あー、ソフト名なんだっけか……こういうVR空間を作るためのソフトがあって、そのおかげでかなり楽に作れるようになったって聞いたけど」
それでも、結構な労力がいるのは間違いないだろう。ソフト名もめっちゃ色々さんに聞いていたが、ちょっと思い出せない……あとで聞かれたら怒られそうだからログアウトしたら調べようと、ロポンギーは記憶にとどめた。
なお、ソフトはドラマチックワールドオンラインの時に収集したデータで開発されたものであり、両親からもそのあたりの話を聞いていることをロポンギーは忘れている。
「ファンタジーなゲームだけどー、やっぱりゲームはゲームなんだねー」
「そりゃそうだよ。あくまでもここはデータで作られた世界だし、人の手で運営されている。だからこうしてバグも発生するし、キャラクターの強さだって調整で変動することがある」
「この体も、どうやって動かしているのかあーしよくわからないしー」
「たしか、脳波と体を動かすための電気信号の読み取りだったかな? いや、VR機器によって方式が少し違うのもあったはず……」
あくまでもそれは自分が使っているタイプの物の話だ。そろそろ誕生日も近いので新しいものを買ってもらえることになったが、形式自体は同じものを購入予定だったので真っ先にそれが浮かんできたのだ。
「まあ、どの形式であってもプレイヤー側の身体能力――いや、脳の反応スピードが大きな影響を与えることに変わりないから、プレイヤースキルの差が出るんだけどね」
桃色アリスとイチゴ大福がこのタイプだ。また、ゲーム内で反復練習することでプレイヤースキルを高めることも可能で、ポポが【古代のウォッチ】の効果で超スピードで動けるのも相応に使いこなすための練習をしたからである。
ニー子などに代表されるプレイ時間の多いプレイヤーも反復練習に近いが、そのほとんどは単純なステータスの差による強さだ。
「んゆー? 村長さんはどんなタイプなん?」
「僕? うーん……メタ読みしてハメるタイプ」
「うわぁ……」
「引かないでよ」
手札を多く用意しておいて、状況に応じて使い分けるタイプとも言う。つまり、プレイヤースキルやステータスに左右されにくい方法を好んで使うということだ。
とは言っても、ロポンギーも今までギリギリのマシンスペックで強制的にハンデを背負った状態での修行をしていたようなものなので、かなり反応スピードが速い部類に入る。本人も無自覚ではあるが、ポポなどの反復練習型のプレイヤーに分類される。
「がんばればあーしも素早く動けたりするのー?」
「ある程度ステータスは必要だけどね。痛みとかもあるわけじゃないから、結構無茶な動きも出来るし」
なお、ログアウトすると体が重くなったような感覚が入り、自然と動きがセーブされる。体の感覚の違いによる事故を防ぐため、VR機器を開発している技術者たちがかなり気を使った部分である。
もっとも、そのあたりの詳しい理屈はロポンギーも知らないが。
「難しいこと考えるとおなかがすくよね」
「んゆー? お夜食太るから、あーしはやめておくー」
「確かに――でも、この時間に食べるカップ麺とか背徳感があってヤバない?」
「ヤバい」
ただいまの時刻、10時45分である。もうすぐ緊急メンテナンスが開始される時刻だ。
この場で適当にアレコレ話していたが、さすがにネタも尽きた。というか、さっさとログアウトしても良かったなぁと思っている。
「ミドリ、ジェニファー、クリスティーナ、マツコ……お前たちまで行ってしまうのか!?」
「そしてこの人はいつまで妄想の世界に旅立っているんだよ」
「まって、名前が国際色豊かすぎて、おなかが痛い」
「奥さん一人だけなのになんで国際色豊かになるんだよ。浮気でもしているのか?」
「失礼な! 俺は嫁一筋だ!」
「あ、帰ってきた――いや、だったらなんで名前の候補が国際色豊かなんだよ」
「候補じゃない、決定事項だ!」
「いい加減妄想から帰って来い!」
「妄想……? 妄想…………あ、まだ子供生まれていないんだった!」
「アンタなぁ……」
「んゆー? ところで、奥さん放っておいてログインしていていいのー?」
「ああ、嫁は今実家に帰省して妊娠報告に行っているからね。俺は仕事があるから家に残ったが」
「一緒に行かなくていいのー?」
「むしろ働いて子供のためのお金を頑張って稼いでくれって言われたよ……今日は嫁さんの妹が付き添っていたし、明日には帰ってくるから」
「そもそもゲームにログインしているのもどうなんだと思ったわけですが――そのあたりは?」
「身辺整理じゃないがフレンドに挨拶やらアイテムの整理やらやってたんだよ。あと、少し息抜きに。もう少ししたら事実上の引退かもな」
この世界はあくまでもゲーム。本人が続けられなくなれば、やめるのも道理だった。
一部、私生活まで捧げているような人もいるが、大多数は趣味の範疇で楽しむものなのだ。
「まあ、子供がある程度育ったら嫁と交代でログインするようになるかもな」
「それまでゲームが残っていればいいけどね」
「確かに、突然終わることもあるからな」
あっはっはっはと笑いながら、少々黒いジョークを交えたとき巨大な影が三人を覆う。
「うん?」
「縁起でもないこと言うなぁ! 少なくともあと5年は続けられるぐらい計画あるわ!」
「あ、チェシャーさんだ」
「んゆー? 大きなネコだ?」
「化け猫、なんでここに?」
「そこの村長、化け猫言うなや……メンテ開始近いのにまだ駄弁っているみたいだからわざわざこうして見に来たんだけどね……こっちは修羅場なんだぞ」
「それはすいませんでした……」
「たしかに、さっさとログアウトするべきだったな」
「めんごー」
「ハァ……まあ、今ヒルズ村にたむろっている連中よりはマシだけどね」
「え、あの騒動まだ終わっていないの?」
掲示板では投票開始とか言い始めたので後で結果だけ確認しようと思ってみるのをやめていたのだが、ロポンギーはまさかまだ騒いでいるのかと心配になった。チェシャーを睨みつけていた顔も素に戻る。
「まあ……ちょうど今、決着がついたけどね」
「へぇ……で、どっちが勝ったの?」
「ドロー……いや、アリスちゃんかな」
「……なんでマスコットの投票対決で勝者がアリスちゃんになるんだよ」
よくわからない結末だったのは確からしい。
なんだか気が抜けるなぁと考えていた時、チェシャーの背後からとことこと狐とペンギンが歩いてきた。
「あれ? 例のマスコットたち?」
「実物みるとカーワーイーイー」
「ぬいぐるみとかあったら、子供にプレゼントしたいなぁ」
「だからまだ生まれていないだろうに」
「あー、ポータル開いたから入ってきたのか……こいつらはこいつらでフリーダムなことで」
「掲示板でチラッと見た限り、結構高度なAI積んでいるらしいけど……」
まるで感情表現をしているかのような場面が何度か見られた。
ロポンギーもそのあたりが気になっていたのだが、チェシャーは何だそんなことかとあっさりと種明かしをする。
「小動物型のAI――ランダム性が高いが、人に好意的な反応をするようなプログラムが積まれている。コッペンは少し人目につかない場所に移動するよう学習したが、基本的な部分はそのあたりのプログラムで動いているよ。まあ、これ以上は企業秘密だから明かせないけどね」
ちなみに、モールで販売しているペットも同様のAIが積まれている。コッペンとフォフォに積まれている物はより高度だが。
「へぇ……でも、この二匹も騒動の原因なんじゃ…………」
「プレイヤーたちの好意を受け取って、それにそった行動をしただけなんだけどなぁ……」
「変人の巣窟に集ったからでは?」
「それか!」
「ヒドイ言い草である」
「んゆー? でも、村長さんたちってー、そういう人の集まりなんじゃないのー?」
「ヒドイ言い草である」
でも事実だった。
「んゆー? あの二匹、向こうを指さしてる」
字幕を付けるなら、おかえりはあちらです。指をさしている先には、光のゲートが出現していた。
「うん? そんな馬鹿な――って本当にゲートのほうを指さしてる!?」
「学習し過ぎでは?」
「…………か、解析しないといけないことが増えた」
「自己学習で動くAIとかSFかよ」
「ユーリクリさん、VRゲームだって一昔前はSFだよ。自己学習だって要はデータの蓄積だし」
そもそもフルダイブ型VRゲーム開発までに様々な積み重ねが存在している。さすがに現実の人間と見まがうほどの挙動をするAIは未だに不可能とも言える領域にあるが、簡単な感情を再現するぐらいは可能であった。
「それもそうか」
「そもそもペットロボのAIを参考に、困っている人の検知をする機能があるからそこからの派生か? だとすると他のプレイヤーを煽るように姿を現わしたのは……いや、それはコッペンとフォフォの同一コードがお互いに干渉を起こしたからか?」
「あのー、帰ってもいいんですかね?」
「――――はっ!?」
「自分の世界にはいってるぅ」
「そのあたりの詳しいことはまたあとに出来ませんかね」
「で、あそこから元の場所に帰れる感じ?」
ロポンギーがそう尋ねると、チェシャーは返答をする。
「データの巻き戻しになってしまうから、今回はヒルズ村につなげてある。ファストトラベルを使えば元の場所に戻れるよ」
「まあ、消えるのは勘弁だし」
「ようやく落ち着ける――いや、この後メンテなのか」
「んゆー? あーしはまだその村に行っていないけどいいの? ショートカット過ぎない?」
「迷惑かけたし、特例でね。後日改めてお詫びはさせてもらうよ」
「っていうかなんでヒルズ村なんだ?」
「元々はその二匹を回収するつもりで開いたゲートだからね。問題なくゲートがつながるのを確認してから君たちのキャラデータを移動させようと思ったんだけど、まだたむろっていたし、二匹も勝手に戻ってきたしで……」
想定外のことが立て続けに起こっているのでチェシャーもどこから手を付けたものかと頭を悩ませていた。幸いなのは、今回の騒動やバグがより大きな不具合につながるものではないということだが。
「まあ、三人のキャラデータをこっちで移動させてもいいけど、今移動してもらったほうが一番安全なんだよ。あと、時間がないから個別に送れない」
「そっちが主な理由だよなぁ……」
「まあいいや。これ以上話すこともないし」
「猫さんまたねー」
「もう来るなよ――あとそこの裸マフラー。被害が拡大するから他のプレイヤーをバグに誘導するような書き込みは控えるように」
「あー、やっぱりマズかったか」
「当たり前だよ……借りがあるからわきに置いておくけど、洒落にならない被害が出たらアカウント停止もありうるからね。そして、ユーリクリさんもそんな書き込みを見たら試さないように!」
「う、スマン」
「そこのギャルっ子は……まあ、偶然みたいだから特に何もないか」
「んゆー? 一言欲しいぃ」
今後は気を付けると、ロポンギーとユーリクリは頭を下げる。らったんは少し不満げだったが。
三人がゲートを潜り抜け、ヒルズ村までワープしたのを見届け――隣で手と言うか、前足や翼を振っている二匹を胡乱げな瞳で見るチェシャー。
「……やっぱり、妙に学習しているような」
「コーン!」
「クァアアアア!」
「ちょ、逃げた!?」
人のリアクションが蓄積されたことで、様々な反応を見せる二匹。サーバー内にはNPCの感情表現のデータも大量に存在しているので、二匹もそこから次のアクションを導き出している。
結果的に感情的ともとれる動きをしているが、あくまでもデータ上で高度に再現されているだけだ。
「ちょ、なんでおちょくるように動き回るんだこいつら!?」
「コンコーン!」
「クァックァックァッ!」
「笑っていやがる……」
たとえデータであっても魂は宿るのか?
今、彼らの時代でその答えを出すことはできないだろう。ただ一つ言えるのは――
「ちょ、おとなしくしろぉおおお!」
――データであっても、人を振り回すことは十二分に可能と言う事である。
@@@
「ふぅ、ようやく帰ってこられた――って何事!?」
「んゆー? なんかー、村中から煙が昇ってる的な?」
「的なじゃなくて本当に煙があちこちから登っていやがる……」
しかも、周囲にはプレイヤーたちが屍のように倒れていた。
いったいこの場で何が起きたのか、三人には想像もつかなかった。そして、そんな彼らに気が付いた者が一人。
「うう、お兄ちゃん――うわああああん!」
「ちょ、アリスちゃん? 何があったの!?」
「アリス、大変だったんですよ――」
ぴょんとジャンプし、ロポンギーの胸に飛び込もうとするアリス。
どうしたのかと彼女を抱き留めようとする、が。
「あ、ログアウト始まった」
「ちょ、せめてハグだけでも! 頑張ったアリスにねぎらいのハグだけでもぉおおおお!!」
キラキラとした粒子と共に、抱き着ける直前で彼らはデータの世界から現実へと帰還した。
再度言おう。データであっても、人を振り回すには十二分に可能である。
6章は次回で終わり。
ねぎらいは次回へ持ち越しです。




