デート回、そして――
アレなヒト追加。
プレゼントボックス、という機能がある。まあ簡単に言えばキャンペーンやイベントで手に入れたアイテムは一度ここに入る。その後、プレイヤーが自分で取り出すことで初めて自分のものになるわけだ。
期限内に受け取らないとなくなる場合もあるので、注意が必要である。
なんでこの話をしたかって? チェックし忘れていて危うくなくなるところだったアイテムがいくつかあっただけの話だ。
この前のランキング発表で入賞者にはプレゼントがあるという話があったのを覚えているだろうか。あれ、入賞していた。
「…………エネルギーボトルって」
アイテム【エネルギーボトル】。効果は装備中の古代兵器のエネルギーを回復する。こんなものが存在していたのか……いや、前にどこかで聞いたっけ? それか、攻略サイトかどこかで見たのか。でも、攻略サイトもその時知りたい情報をチラッと見るぐらいだから違うかも。
「まあ、貴重品っぽいし大事にとっておこう」
「それ最後まで使わないやつー」
「うおっ!?」
ヒルズ村のベンチで座っていたのだが、突然背後から声をかけられた。
驚いて振り向くと、そこにはなぜかメイド服を着たディントンさんが立っていたが……いや、何でメイド服なんだろう?
「どう? 似合ってるかなー?」
「まあ、犯罪的に」
飾りもほとんどない、いわゆる本物のメイド服に近いデザインだが……それでも彼女の一部分を強調してしまっている。というか、この人が着るとどんな服でも犯罪的になるんじゃないだろうか。
「一応、褒め言葉として受け取っておくねー」
「それはどうも……っていうかなんでメイド服なんですか」
「村長君、それは野暮ってものだよー」
「あ、そうですか」
「まあそれは冗談で、単純に新作作ったから試着していただけー」
「案の定ですね」
「ヒドイ言い草ー、でも今日はどうしたのー? ログインしておいて、アイテム整理もしないでベンチに座っているだけって珍しいねー」
「待ち合わせ中なので」
「へぇー、アリスちゃんと?」
「そうですよ」
「じゃあー、デートなんだー」
「はい」
「へー…………え」
その時のディントンさんの顔は、それまで見たことないぐらい驚きに満ちていた。
@@@
「何もそこまで驚かなくてもいいと思うんだ」
「あ、あはは……(言えないです。半分冗談でデートしてくださいって言って、オーケーもらえたアリスもその時凄く驚いたって)」
たまにはゆっくり街の飾りつけを見て回りたいと思っていて、その時アリスちゃんがデートに誘って来た。いろいろと変なイベントにも付き合わせてしまっていたし、いい機会だからオーケーしたんだけど、何をそんなに驚くのか。
「お兄ちゃんなら、今はまだ早いって言うと思ったんじゃないですか?」
「本当に恋愛ごとに持ち込むならともかく、一緒に遊びに出かけるレベルのデートまでその理由で断ったりはしないよ」
「そ、それは良かったですが……まずはどこに行くです?」
「うーん、特に決めていないからあっちをふらふら、こっちをふらふらと」
「いつもの通りってことですね」
「そうとも言う」
と言うわけで、教会から適当に良さそうな街を選ぶ。
綺麗そうなところから行くか。
「まずはエルフの里に行ってみるか」
「綺麗そうな場所ですね」
ファストトラベルのために表示したウィンドウからエルフの里を選択し、僕とアリスちゃんの姿はその場から消える。
一瞬で周りの風景が変化し、エルフの里の教会にやってきていた。
「へぇ、こんな感じになっているのか」
「木の上に町があるですね」
町全体が巨大なログハウスみたいな感じだ。
エルフの里は大陸の南西に存在していて、木々の隙間からとても巨大な木――世界樹が見える。
まだ大陸に移動できていない僕たちが本当の意味でこの場所に到達できるのはいつになることやら……イベントで来れたからこの光景を見ることが出来たけど。
「ファンタジーって感じですね、おっきな光の球が浮いていますし、あんな大きな木も見たことないです」
「だなぁ……アクア王国からだと大陸を縦断している山脈のせいで世界樹が見えないし」
大陸の形状は大雑把に言えば左右反転した北海道といった感じだろう。まあ、細かい部分は違うけど。
で、中央から少しそれているが結構な標高の山脈が存在している。
この里があるエルフの森は他の地域とその山脈で分断されている。大陸の西にある帝国との間に山脈と砂漠があり、森の東側は山脈でハラパ王国と分断されている。
エルフの森の南は海しかないので、外に出るのが面倒だったとディントンさんが言っていた。
「閉鎖的な環境なのにあっさり入って来てもいいのか気にはなるが」
「里の住人の皆さん、歓迎しているですね」
「どこの街もなんだよね……さすがにイベント仕様のところだけだろうけど」
本来のマップ――表側の街ではちゃんとクエストの進行に合わせて住民の言動が変わる。力技で脱獄したディントンさんと和風コンビはしばらくの間街の住人から白い目で見られていたとか言っていたな……再逮捕は無かったけど。
もっとも今はそんなこと忘れましたと言わんばかりだってこの前言っていたが。
「BGMもハープの音色が心地いい」
「ですね…………あの、お兄ちゃん。次行きませんか? ここにいるとのんびりし過ぎて一日をつぶしてしまいそうです」
「うん、僕も今そう思ったところだ」
僕たちの視線の先には、あまりのリラックス空間でベンチでぼーっとしているプレイヤーたちがいた。
幾人かこの場の雰囲気に慣れているのか談笑している人もいるけど、それ以外の人がほわーっとしている。これ以上ここにいたら危険だな。次に行こう。
@@@
続いてやってきたのは、ドワーフの工業都市。位置的には大陸の真北。近くには火山があるので、実際には温度を感じないのに、暑いって気分になる。
「視界が歪みます……」
「熱気で歪んでいるのを再現しているんだな。気分だけでも暑苦しいんだけど、そこかしこから蒸気が噴出しているし」
建物は土で作られているが、あちこちからパイプが飛び出している。
鍛冶場がたくさんあるのか、鉄を打つ音が聞こえるし。
「……いや違う、これBGMだ」
「鍛冶をしている音がBGMなんですか」
「よく聞くと、三三七拍子だった」
「あ、ホントです」
「…………何か買っていく?」
「正直、ここに欲しいものは無いのですが」
「だよね……来て早々だけど、次行こう」
と、そこで移動しようとしたその時――おーいと声をかけられる。
「炭鉱夫さん、いや、今は村長か。久しぶりだな」
「…………どちらさまで?」
「あー、まともな自己紹介はしていなかったっけか。掲示板に盗賊団って名前で書きこんでいたアドベン茶だよ」
「…………」
「ほら、フレンドリストのです」
「あー、背中のコブを見つけた人」
「そうそう。ベヒーモス戦での俺の活躍、すごかっただろ」
「あ、うん……」
今となっては懐かしい。まあ、そのベヒーモスを単独撃破した人が隣にいるけど。
「それに、アンタの後追いだけど俺も【村長】になったんだぜ」
「え、他にもいたの!?」
「びっくりです……」
「まあ、時期が時期だけに祭りの会場提供は無理だったんだけどな」
それでも驚きである。
転職条件は指定クエストの達成だけど、それでも指定の奥義スキルを取得したうえで大量の資材を集めないといけないから大変だったろうに。
「ところで二人はなんでここに? ここは別に見ていて面白いってわけじゃないぞ」
「デートです! いろいろなところを見て回っています!」
「――――は?」
「顔こわッ!?」
心なしか、彼の目が赤く光っているようにも見える。
「それは何か? 独り身の俺に対する当てつけか――こんなかわいいチャイナっ子をつかまえといて、見せつけようというのかッ!?」
「戦略的撤退!」
「この人、目が怖いですぅ!!」
「掲示板で幼女に迫られているって相談していたお前はどこに行ったんだぁあ!! ロリっ子紹介しろぉおお!!」
「そういうの口に出すのはいけないと思います!」
「ヒイッ!?」
@@@
「ぜはー、ぜはー……なんでVRゲームで息切れするんだよ」
「気持ちの、問題だと思うです」
「それもそうか」
何とかアドベン茶さんから逃げ出し、別のエリアへ。
やってきたのは、ハラパ王国の街の一つ。咄嗟に選んだから詳しく見ていなかったけど……ワールドマップによれば、【はじまりの町・リリック・会場7】と書かれていた。
「のどかな風景です」
「そうだね……とっさのことで移動したけど、なかなかいい雰囲気のところだな」
スイスとかそのあたりの、まさに田舎のお祭りって感じ。
丘の上では陽気な音楽と共に人が踊っている。近くにはパイプオルガンを奏でている人がいて、彼がBGM担当らしい。
「近くに大きな道があるですね」
「街道沿いの町なんだな」
視線を道の先に向けると、大きな城が見える。おそらく、あそこがハラパ王国の王城だろう。
「曲も楽しい感じですし、一緒に踊ろうです!」
「それもたまにはいいかな」
その後、小一時間ほどアリスちゃんと踊った。
周囲の人たちも音楽に合わせて軽快なステップを踏むし、なんだかこっちもノリノリになってしまった。
ちょっと休憩とベンチに座っているが……この町も綺麗に飾りつけされている。
しかし、スタッフも頑張ったのだろう。期間限定なのに、凝っている。
「このあたりはワガハイ――いや、ボクの渾身の自信作だからね」
「へぇ…………うおっ!?」
唐突に、声をかけられた。またかよと思わなくもないが、今度は本当に腰を抜かすかと思った。
隣にいつの間にか、人間サイズの巨大な猫がいたのだ。驚くなって方が無理がある。
「チェシャー……ううん、叔父さんですね」
「アリスちゃん、久しぶりだねぇ。元気そうで何よりだよ」
「特に説明もなく、そのあたりばらしてくるんですか…………」
「まあ知っている感じだったからね。こっちとしても、余計な説明をしている余裕は無いんだよ。ちょっとした休憩時間に様子を見に来ただけだから」
長い尻尾を揺らし、彼はニタリと笑った。
アリスちゃんは身内だから特に気にせず彼と会話しているが……そこで僕はあることに気が付いた。
誰一人として、人間サイズの猫に驚いていない。誰も彼も、普通に祭りを楽しんでいる――いや、違う。すぐにメニュー画面から設定変更を行い、プレイヤーの頭上表示を可視化した。
「やっぱり……周りは全員NPCなんだな」
「ご明察。いつ気が付くかなぁと思っていたけど、時間かかったね」
「もしかして、みていたですか?」
「まあ、身内として気にはなっていたからね――姉さんからも、危ないようならゲームをやめさせるからと言っていたけど、その心配はなさそうで良かったよ」
「おおう、アリスはピンチだったです」
「前よりも元気になったのは良いことだけど――さて」
チェシャー……いや、アリスの叔父さんは僕をみてニタリと笑った。
ゾクリと、背中が冷える。少し体が震えた。陽気なBGMも耳に入らなくなる。ただただ心臓の鼓動だけが響き渡るかのように、僕の身をこわばらせた。
「この町はねぇ、BFOの主題歌を歌ってくれているReリックさんから名前をとっているんだよ。もちろん、本人に許可は取っている」
「あの人、こういうのどかな雰囲気好きそうですよね」
「そうだねぇ……旅行もこういうところがいいよねぇ、のどかな雰囲気、大切な人と一緒に過ごす時間、ああ素晴らしいねぇ…………本当、素晴らしいねぇ」
なんだろう、とてつもなく怖いのだが。
アリスもいつもの叔父さんと雰囲気が違うせいなのか、僕にしがみついて怖がっている。そのせいなのか、目の前の化け猫の怒気が膨れ上がった。
「ああ――ボクたちが作った渾身のゲームを遊んでほしくて、アリスちゃんにプレゼントしたというのに、そのせいで君に悪い虫がつくとはねぇ」
「ひぃっ!?」
「お、叔父さん?」
「別に君のことを受け入れてくれているのならボクも認めようと思ったんだ。でもね、君――アリスちゃんのこと完全には受け入れていないだろう」
その言葉は、僕が気が付いていながら後回しにしていた問題だった。
「少し観察させてもらったよ。君はこの子の気持ちに気が付いているはずだ。わかっているはずだ。理解しているはずだ。なのになのになのになのに、彼女に我慢をさせようとしている――ああ、それはいけないいけないっぴー!?」
「ちょ、アリスちゃん? なんで流れをぶった切ったの?」
「いえ……本気で気持ち悪かったので」
叔父さんがヤバい雰囲気になりつつあるときに、唐突にアリスちゃんは化け猫を殴り飛ばした。
いや、身内なんだよね? しかもいつものです口調も消えているし。
「あ、アリスちゃん? ボクはアリスちゃんのためを思ってだね」
「頼んでいない。ふざけているの?」
「お、おおう……姉さんそっくりになっていやがる。震えるな膝、ボクの膝震えるな」
「あんまりふざけたこと言っていると、消し飛ばしますよ」
「――――」
「…………お兄ちゃん、行きましょう」
「で、でも」
叔父さん白目むいているけどいいの?
「せっかくの気分を台無しにした方が悪いです」
「いや、それはそうだろうけど」
「まだ、話は終わっていないぞぉ…………」
「ほら、何か言っているし。っていうか復活速いな」
「ハァ……一言だけ、許すです」
「…………3日後に、お前に挑戦する。種目は鬼ごっこだ」
「鬼ごっこ? いや、なんで鬼ごっこなんだよ」
「スタートの合図を3日後の18時に送る。そこから一時間以内にボクを見つけ出し、HPを削りきるんだね! ボクからは攻撃しないけど、全力で逃げるからね。範囲は君が今まで移動したところにしてあげるよ、ボクは優しいからね!」
「この人、神話の中の自分美化しているんじゃない?」
「いえ、お父さんは昔世話になったって言っていました……ただ、アリスが産まれた後、こんな感じになったってお母さんが」
「ああ、姪バカに目覚めたのか」
「誰の姪がバカだと!?」
「アリスちゃんじゃねーよアンタのことだよ」
「ならばよし」
いや、いいのかよ……ダメだ、この人…………人? すごく疲れる。
「ボクはね、優柔不断な他力本願男は認めたくないんだ。だから、証明してみせてよ。君がその程度の男じゃないってことをね」
それだけ言うと、化け猫は霞のように消えていった。
「…………なんなんだ、あの人」
「ごめんなさいです。アリスも、あそこまでヒドイ叔父さんを見るのは初めてで」
「いや、アリスちゃんのせいじゃないと思う……」
「本当、ごめんなさいです。アリスの身内が」
「ま、まあ娘さん――じゃねーや、姪っ子だけど身内が心配なのは当然だから」
そこまで言って、彼の言葉が頭に響いていた。
アリスちゃんのことを完全に受け入れていない。当然だ、僕だって恋愛ごとなんてまだよくわからないし、そもそもオンラインゲームの中だけのつながりを完全に信用するはずもない。
彼女に我慢させている。それもどことなく分かっていた。でも、どこかで線引きはしなくちゃいけない。
他力本願――それは、僕が心のどこかで気にしていた事だった。
「……まあいいか」
「え、いいんですか?」
「よくよく考えたら他力本願なの承知の上で掲示板に助けを求めたし、それに優柔不断なつもりはないんだけどなぁ……」
夏の終わりが近づいたある日のこと、僕は僕自身の問題を突きつけられた。
いろいろ違和感はあるし、なんでこうなったんだろうかと思わなくはないが……乗り掛かった舟だ。それに、向こうから仕掛けてきたゲームだ。そう、ゲームだ。
「ゲームなら、攻略してやろうじゃないの」
あ、でも一つだけ思ったことがある。
「やっぱり血筋なのかな。アリスちゃんと似てたね」
「え、アリスあんな感じに見えていたですか……すごくショックなんですけど」
見た目もモンスターペアレント降臨。
あんな神話をゲーム内に実装しちゃう人がまともなわけない。
ちょっとだけシリアス? が続きます。




