みそぎ
Q:なぜまた人を集めるのか
A:作品タイトル
そして30分が経った!
結局誰も来なかった!
「もうこれダメじゃね」
「まだじゃ、掲示板で参加を募るんじゃ――ああ!? 拒否られた」
「まあ当たり前だけどねぇ…………和風コンビ、ログインしたみたいだけど逃げた。どうするー?」
「処す」
ひたすら自分たちに出来ることをしてクラーケン戦に参加してくれるプレイヤーを集めている。イチゴ大福さんの目がヤバかった――あとで聞いた話だが、休みをとってぶっ続けで遊び続けているせいでテンションがおかしなことになっているのが一番の原因――ので【わだつみのしずく】を交換してしまったのが運の尽きである。
現在ここにいるのは僕、ライオン丸さん、ディントンさん、あるたんさんにイチゴ大福さんである。
「おのれネクロマンサーめ! 逃げおって!」
「なんでアタイはここにいるんだニャ……」
「一緒に遊んだ仲じゃないのー。もう立派な、ヒルズ村の一員よー」
「なんでニャ!?」
「黙っていないで手を動かすのじゃ! 一人でも、一人でも多く生贄――じゃねぇや、仲魔もとい仲間を集めるのじゃ!」
「なぜだ!? 掲示板の皆さまお助けくださいってスレを建てたのに返ってくるレスがワロスだけなんだが!?」
「ワロス」
「ちくしょぉおおお……」
顔がショボンになる。その様子をみた周りのみんなが、ブフォっと噴出したがどうしたんだろうか。
「まってくれ、マジでその顔どうやったんじゃ」
「顔…………ああ、デフォルメパックのことか。顔アクセサリーの一つで、感情表現がデフォルメ化されるんだよ」
「なんでそんなものつけておるんじゃ……というかどこで手に入れた」
「イベント交換アイテム」
「そんなのあったのニャ」
あったんだよ。他にも面白いものが色々とあったから交換しておいた。
機会があったらお披露目しようと思う。まあ、それはわきに置いておいて、今は本題の人集めだ。
「なんとしても人を集めるのだ! 流石に5人であのデカブツを倒せるとは思えない」
「アリス嬢ちゃんはソロでベヒーモス倒していたが」
「あの子は例外だよ!」
ついでに言うならイチゴ大福さんもそうなのだが、あの人は今ふらふらと虚空に向かって話しかけている。戦力にはならない。先ほどのボス戦で残っていた気力も使い果たしたようだ。
そもそもきっと来る的な幽霊を倒したのもほとんどイチゴ大福さんによるダメージだった。もしかしてレベルキャップ(現在基本レベル、職業レベル共に60)に到達しているのではないだろうか。
そして僕らはまだ50に到達していない。職業レベルの方はアレコレ手を出しているせいでなおさら低いし。
ほんと、1パーティーでいいから来てくれないとヤバいんだけど。そう思って必死に書き込み続ける。
「誰か、誰か来てくれぇ!」
と、その時石碑が光り輝いた。
何故と、光の方へ向くとあるたんさんが石碑を起動していたのだ。
「なぜだ! なぜこんなことを」
「……わかっているハズニャ。こんニャことをしても誰も来ニャいって!」
「しかし、一人か二人ぐらいは来てくれるんじゃないか、そう希望を抱いてもいいはずだ!」
「希望ニャんてニャいニャ!」
「夢を見るのは自由だ!」
「でもこのままこういうことをしていても、むしろ誰も来ようとしニャくニャるだけニャ! 必死にニャって書き込めば書き込むほどにみんニャあえて無視するんニャよ!」
「だとしても――ところで、その喋り方気に入ったんですか?」
「実はけっこうこういうのも好きニャ」
あえて無視するのもそうだが、このゲーム遊んでいる人って基本的に悪ノリが大好きな人たちばかりだからなぁ……いや、そもそもVRMMOを好む人って変身願望のある人とかはっちゃけたい人とか、そういう人が中心か。
別の自分を演じる、抑圧している部分を解放したい。そういった内面が表に出てしまうからこそ、我々は悪ノリをしてしまうのである。
ただまあ、だからって石碑をあっさり発動させたのは別の理由だろう。
「それで、なんで石碑を起動したの?」
「もう死んで楽にニャりたいニャ」
「わかる」
「そうじゃな」
「……もうこうなったら、この5人だけでもやるしかないよな」
実際、この負けイベントさっさと終わらせたいのは僕も同じだったが。
そうこうしているうちに、ゴゴゴゴゴと、触手が海の中から出現する。
BGMもやっぱりボレロが流れているし……
「行くしかないのかッ」
「仕方がニャい。やるか!」
「まったくもう……さすがにこの人数なら、攻撃力もそこまでじゃないじゃろ」
「ところでー、アレいいの?」
僕らは海に向かって走り出したのだが、ディントンさんが後ろを指さす。
……なんか、イチゴ大福さんが倒れているんだけど。
「え、なんで倒れているの?」
「あーあれじゃな。寝落ちじゃな」
「VRなのに!?」
「VRでもじゃ! 体は楽な姿勢じゃろうが、起き続けているのには変わりない! つまり、眠くなれば寝てしまうことがあるのは当然なのじゃ!」
寝落ちも起きて当たり前のことである。
「…………なあ、最初の島破壊の触手に当たるとどうなるんだっけ」
「即死じゃな。地形破壊ギミックというか、イベントシーン的なものじゃけど当たった連中はみんな消えておったぞ」
「………………4人でもがんばるぞ!」
「おうともよ!」
「やるしかないのねー」
「ニャんで巻き込まれているのか」
とりあえず飛び込んでいき、水中で奴の姿を再び見ることとなった。島を破壊した後触手を引っ込めて海底にもぐっていくところまでは分かっている。
基本的に触手による突きと、電撃の魔法を使ってくる。そして周りのメンバーを見回したが――
「…………ねえ、魔法攻撃できる人」
「アタイは【踊り子】だからバフ専門ニャ」
「この前手に入れた『チャージビーム』しか使えんのじゃが」
「近接オンリー!」
「ディントンさんはエルフなのになんで近接オンリーなんですかね……」
魔法ステータスが死んでいる。
「あまり筋肉質なのは嫌だけど、少しでも身長大きくしたかったんだけどー……これが限界だったの」
「まじかニャ。このロリ巨乳、リアルだと更に背が低いのかニャ」
「胸も小さくしたんだけどねー」
「マジかニャ!?」
エルフにすると、リアルより細身かつ身長が高くなるのです。なるほど、ディントンさんは体型で種族を選んだ人だったのか。その胸の大きさと身長の低さがリアルだと更に凄いとかどうなってんだこの人。
ちなみに、僕やアリスちゃんはステータスを見て選んでおり、ライオン丸さんはロールプレイをするため。種族を選ぶにしても人それぞれである。
「村長、現実逃避しておるところスマンが、もう無理じゃないかの」
「…………ええい! やってやるしかないんだ! 一人あたり触手2、3本を何とかすれば本体を攻撃できるだろう!」
「それって、複数の巨大な敵に囲まれた状態で戦えってことじゃよな」
「――――ああそっか」
「今頃気が付いたのか!?」
「いや、そっちじゃなくて……いや、それもあるんだけど。
前にクラーケンは3パーティーぐらい必要って話をしたじゃん」
「したな」
「1、2人で触手を相手してひきつけておいて残りで本体狙うんじゃないのかな、コイツ」
前回は攻撃力が高すぎてこちら側がほぼ即死だったから気が付かなかったが、本来はそうやって攻略していくボスなんじゃないかと思う。
現に、今攻撃を弾いたりして触手を何とかしているわけだが……意外と何とかなっているな。
「本体にはどうやって攻撃するんじゃ?」
「手数が足りないから無理だね」
いっそのこと本体へ突撃すれば何とかなるかなーとも思ったが、触手を引っ込めて高速回転し始めた。電撃も出ているし、逃げ場がねぇな。
「魔法攻撃を防御できる人がいればなぁ」
「ドリル、使えばいいんじゃないー? アレで防御すれば魔法も弾けるんでしょ」
「いや、それがさぁ…………耐久値回復させる前に連れてこられたから、これ以上は無理だわ」
「オワタ」
「お父様、お母様。今度の結婚記念日にはもうちょっといいものあげるからアタイに力を貸してくださいニャ」
「無茶をいいおる」
直後、電撃と触手の連続攻撃で僕たちはどんどんHPを削られていくこととなった。
何とか触手を抑え込んでも別の触手が迫って来て潰され、電撃でマヒを喰らうので結局動けなくなって一方的に蹂躙されるだけだった。
…………よく考えたら水中での高速移動手段を考えておかないと一桁人数での攻略は無理だなコレ。炎魔法のジェット移動が効果低くなっているんだから避けようがない。そもそもMPが持たない。
結局のところ、ほとんどクラーケンのHPを削れないままに僕らはポリゴン片となって消えるのだった。
@@@
村に戻った僕たちは、ぼーっと空を眺めていた。
なんかもう、色々なやる気がそがれたのである。
リスポーン地点が違うので、あるたんさんとイチゴ大福さんはここにはいない。
「…………もうすぐ次のイベント始まりますねー」
「あと何日じゃったっけ」
「一週間くらい先じゃなかったか? でもまぁ……しばらくはどうでもいいかぁ」
「お空が青いですよねー」
「そうじゃなぁ……」
「……何事も、適切な量とか距離とか、あるよね。あと、良くない組み合わせ」
思い返せば、夏イベントが始まったあたりからそんなことばかりだったような気もする。
掲示板で見た桃子さんとニー子さん(どちらも推定だが)の女の戦いや、アリスちゃんに【武闘家】とか。それにクラーケン戦もそうだったな。
「…………後半戦はもうちょっと平和でありますように」
「がっつり関わっている時点でありえないんじゃよなぁ」
「ははは。辛辣ぅ」
「どうにでもなれー……もう疲れたんで、帰りますね。お疲れさまでしたー」
「お疲れじゃー」
「お疲れー」
ディントンさんがログアウトし、ライオン丸さんも帰っていく。
僕もログアウトしようとしたが……また耐久値回復を忘れるところだったので、そのあたりだけ済ませてからログアウトした。
@@@
いよいよイベントも後半戦が始まります。
プレイヤー同士の交流、季節限定のミニゲーム、奉納ポイントと交換できる景品の数々、【BFO音頭で踊ろう!】の開催が近づいて来ましたよ!
【ビーチファイターズ】のランキング発表は【BFO音頭で踊ろう!】の開催に伴い解放されるウンエー国首都にて行われます。3日目での発表を予定しておりますので、しばらくお待ちください。
さて、一部のプレイヤーの皆さまにはお知らせ済みですが。今回のイベント、各村や町などの拠点を入手されているフィールドマスター系職業の方々にもご協力いただいております。
プレイヤーが飾り付けたエリアも夏祭り会場となっておりますので、気になる方はぜひ足を運んでみてください。
各教会のファストトラベル機能が季節限定で夏祭り会場へと飛べるようになっております。
夏祭りを行っているエリアすべてに無条件で飛ぶことが可能です。エリアはインスタンスエリアとなっており、外に出ると元の場所に戻る仕様ですのでご注意ください。
詳しい概要は、公式サイトをご覧ください。
@@@
「というわけで、いよいよ始まるわけだけど…………なんでいるの?」
「うるせぇ! 例の桃色の悪魔がいないことを聞きつけて、釣り勝負を挑めるタイミングが今しかないとか、そんなこと別に考えていないんだからね!」
「なにそのツンデレっぽいセリフ……男がやっても気持ち悪いだけだよ」
「……わかってらぁ」
なぜか自称太公望さんと一緒に釣りをしている今日この頃。
夏祭りが始まるまで暇だったから適当に遊んでいたら絡まれたんだが……この人も暇なのか?
「釣りでもポイントは稼げるんだぜ。俺っちはこれで一発逆転を狙っているんすよ――あと、俺っちも人魚が欲しいです」
「確かに美人だったからなぁ……」
「そういえば、アンタ、ああいうのが好みなんすか?」
「ううん……貝殻水着が好きなだけ」
「…………まだ若いだろうに、イイ趣味しているっすねあんた」
「それほどでもない」
「別に褒めたわけじゃねぇよ」
わかっている。ノってみただけ。
そんなわけで釣り糸を垂らすが……これ、今日は釣れそうにないな。
「今日はもういいや」
「お、じゃあ俺っちの勝ちだな」
「それでいいよ――あ、一つ忠告しておくね」
「なんでぇ、藪から棒に」
「…………極々低確率なんだけど、エルダー(海)も釣れるんだよね、ここ」
少しだけ仕様が違って、フィールドボス扱いだ。強さは固定で、古代兵器的なのも持っていない。僕らが最初に4人で挑んだ時のエルダー(海)と同程度の強さなのだが……準備をしておかないとあっという間にやられるぞ。
「ちょ、妙なフラグを――うわああ!? でたぁ!?」
そんな声をバックに、村へと戻っていく。
大丈夫。そいつ、釣った相手を撲殺したら満足して海に帰っていくから。
いよいよ夏祭りが始まる。
「楽しみだなぁ」
「ちょ、助けて――」
キラキラ舞うポリゴン片がきれいだなぁ。
心の準備をさせなかった人にもみそぎです。
というわけで、これで3章が終わりました。
ちなみに、裏テーマは「ミスマッチ」。
いよいよ次回から4章が始まります。
4章は今までスレでだけ会話していたり、名前だけ出ていた人たちなどできる限り総動員する「お祭り」な話にする予定です。
そろそろ、アリスの叔父さんも出していこうと思う。




