シンプルに強い人
銀ギーさんが会場に登場し、歓声が上がる。見た目はいつも通り白いドレスにプレートアーマーを合わせた姫騎士といった風貌。それに、背中に浮いている透明な羽。
右手には剣を持ち、左手には盾を装備したオーソドックスな騎士風の装備スタイル。
放送席ではマキシマーと松村が解説しているが、おおよそ既出の情報だった。職業は【魔法剣士】で基本的なプレイスタイルで解説しやすくて助かるとか言っている……基本とは違って悪かったね。
「そういえば、僕は銀ギーさんが戦っているところってレイドボスとこの前の暴走ぐらいしか見たこと無いんだけど、強いの?」
「強いわよ。真っ当なプレイングで、真っ当に強いのよ。普段は」
「普段は普通に、真面目に基本に忠実に強い方ですよ」
「そこまで普通とか真っ当とか強調しなくてもいいから。でもそっか、強いのか……イチゴ大福さんとかアリスちゃんと比べると?」
「怪物と一緒にしないであげてよ。魔王と普通の人間を比べるものじゃないわ」
「そこー、聞こえてるですよ」
アリスちゃんがジト目でみょーんさんに反論している。
ディントンさんがにやりと笑い、ボソッと肩書はごまかせないとか言っている……あ、アリスちゃんがアイアンクローを仕掛けた。
「痛い痛い。いや、痛くはないけど気分的に痛い!」
「ディントンさん。あまり言いたくはないですけど、アリスも怒ることはあるんですよ」
「いや、アリスちゃんは結構怒ることあるでしょーあああああ」
「とりあえず失言はしないようにしよう」
「そうね。今日は虫の居所が悪そうだわ……」
というわけで、視線を画面に向ける。なお、手は別のウィンドウをタップしてアイテム製作を続けています。
画面には剣と魔法を巧みに使いこなし、挑戦者を寄せ付けないプレイングをしている銀ギーさんがそこにいた。彼女に貸し与えられた新装備は『ルーンソード』。魔法を封じ込めておき、ショートカットワードでいつでも即時発動できるというものだ。
「でも似たようなのあったような……」
「無いこともないけど、発動待機状態にするようなものって基本的に魔法ひとつだけよ」
「あ、そっか」
「ルーンソードってどんな感じです?」
アリスちゃんがそう尋ねるが、しっかりディントンさんにはアイアンクローをかけたままだ。あ、回復魔法使った……なるほど、あえてディントンさんを回復してアイアンクローし続けるわけか。
「ルーンソードは事前に魔法を保存しておくことができる剣ね。ストックできる数はまだ調整中みたいだし、保存した魔法は一度使うとなくなるみたいだけど」
「なくなるというより、アレじゃろ。発動待機状態で剣の中にしまえるってのが正しいじゃろ」
「あー、その言い方がそれっぽいわね」
新要素とは言っても、強力な魔法を即時発揮できる……それも回数制限あり。今回は3発分ストック可能らしく、油断しなければそこまで凶悪な性能ではなかった。
事前に準備できるのなら大魔法を3発ストックしてから試合開始、とかもあり得るんだけど……さすがに今回はストックしていない状態からのスタートなのでそこそこ隙もできる。
「ゼロ距離で大魔法とか使われたら怖いなぁ」
「さすがに初見殺し過ぎるから、今回はチャクラム系の魔法だけみたいだニャ」
「チャクラムってなんでしたっけ?」
「車輪みたいな形の武器ね。チャクラム系魔法は車輪状の属性魔法を飛ばせるわ。そこそこ高威力で、燃費もいいから使い勝手がいいのだけど、魔法使い系の職業でクエストを進めないと使えないのよねー」
「ああ、だからスキル欄に乗ってないですか」
「僕もそのあたり育てていないから使えないな」
「アタイは一応覚えているけどニャ」
「ワシは使えん」
「知ってる」
そもそもライオン丸さんは魔法系職業どころか【鍛冶師】以外ほとんど使わないじゃないか。
「わ、私も使えないー」
「ディントンさんもライオン丸さんと似たようなものでしょうが。あとアリスちゃん、そろそろ離してあげて。慣れてきたのかプラプラ体を動かしているよその人」
「……結局痛くないからこういうことしてもあまり意味ないですよね」
「精神的には結構ダメージあるはずなんですが」
「ほら、最近のディントンさんはそういうことを楽しめる人になっておるから」
「物は言いようですね」
会場の銀ギーさんだが、挑戦者のハンマー使いの人の攻撃をいなしながら呪文を唱えている。ゲームなので正確に呪文を言わなければいけないわけではなく、他スキルと同様にスキルを発動するだけでいい。ただ、大魔法であるほど発動待機時間が長いわけだが。
ただ、その魔法が発射されずに剣に吸い込まれている。何かつぶやいたのは分かったので、魔法を格納するキーワードでも設定してあるのだろう。
「っていうかパリィうまいな。スキル使っていないよね?」
パリィとは、攻撃を受け流すことを指す。パリイ、パリー、パリングなど表記は異なるがゲームでこのような単語が出てきたら大抵は同じような意味だ。
BFOにもスキルとしての『パリィ』はあるのだが……プレイヤーの中には自分の技量だけで攻撃を受け流すことが出来る人もいる。
「ハンマーに対して剣や盾をぶつけて、体をひねって攻撃をいなしていますね……結構な上級者テクニックですよ」
「ちなみにこの中で出来る人ー」
挙手したのは僕、アリスちゃん、めっちゃ色々さん、ライオン丸さん、みょーんさん、ディントンさん。
挙手しなかったのはあるたんさんのみ。
「いや、ニャんで遠距離専門のみょーんの姐御もできるんだニャ」
「接近されたら杖で殴るぐらいするわよ?」
「あるたんさんは無手ですからできなくても無理はないですけどね」
「ちなみに和風コンビもできるわよ」
「ヒルズ村で出来ないのは、あとはらったんさんぐらいですけど……そういえばらったんさんは?」
「うぼあーって呟きながらログアウトしておったぞ」
さすがに限界だったのか……とりあえずゆっくり休んでいただきたい。また明日から頑張ろう。
あと、さすがに僕らも勉強のほうもやっている。らったんさんという反面教師を得た我らは同じ轍を踏まないようにしているのだ……下手なことになったら地獄の勉強会に連行されるし。
「ところで試合、動きがありましたよ」
「ハンマー使いの人がしびれを切らして突撃したですけど、盾で防御したと思ったら爆発系の魔法で吹き飛ばされたですね」
「ああやって、カウンターと組み合わせてストックした魔法を解放したんでしょうね……そして、一気に距離を詰めて斬撃からの電撃放射魔法」
おお、凄まじい轟音が鳴り響いている。物理攻撃のあとに続けて強力な魔法を叩き込まれる。体勢が崩れているのでガードや回避もできないし、直撃した大魔法でどれだけのダメージが出ていることやら……あ、挑戦者の人消えた。
「まあ、この挑戦者の人も結構プレイがずさんだったけどね」
「ハンマー使いのひとりとして言わせてもらえば、サブ武器で切り返しの速いものを装備しておいたほうが無難じゃぞ。それに、ガードされるのがわかっておるんじゃからチャージ攻撃ぐらいは使わんと」
「溜めている間に銀ギーさんに接近されて切り捨てられますよ?」
「そのためのスーパーアーマーじゃろうが。まあ、状態異常を喰らう可能性もあるから難しいところなんじゃけど」
「手数が多い武器ってー、そのあたり有利よねー」
「このルールだと【アサシン】有利ですかね」
「クリティカル即死がないから一長一短よ。失敗すれば手痛いカウンターを喰らうから」
話題に出したからか、銀ギーさんの次の相手は【アサシン】のプレイヤーだった。
開始直後に突撃し、攻撃を仕掛ける。
「動き速いね」
「銀ギーさんも攻撃をしかけるですけど、残像を残して回避しているです」
「たしか……『シャドームーブ』ってスキルですね。攻撃に対してカウンター発動するスキルで自動的に敵の背後に回避するっていうものです。なおかつああやって残像を残すのでホーミング系の攻撃が残像に吸い寄せられます」
「なかなか使い勝手がよさそうだけど……」
「なお、連続で3回までしか使えなくて、それ以降のクールタイムが長いです」
「ちなみに今3回目を使ったところじゃな」
即死にはならずとも大ダメージを狙えるので頭部クリティカルを狙っているのか、背後から頭を串刺しにしようとしているが……銀ギーさんは真後ろを見ずに剣を振るって牽制している。
「見えていないのによくやるなぁ」
「相手の狙いがわかっていれば、ああやって背後を守ればいいわけですからね。挑戦者の装備も双剣ですから」
「カテゴリー的には片手剣を2本じゃからな。スキル傾向も読めるじゃろ」
「それもそうか……たしかに、同じ手を使われて相手の装備構成がそれなら僕も背後の防御は厚くする」
「ですね。まあ、アリスなら更に背後をとってやるですが」
「何に対抗しているのよ」
アリスちゃんならやってみせるのだろうが……残像が現れた瞬間にジェット移動で自分の背後で攻撃を仕掛けようとしている相手にたいして更にカウンターを仕掛ける。アサシンよりアサシンしている演奏家ってもう意味が分からないね。
とりあえず銀ギーさんの様子だが、回転斬りで周囲を薙ぎ払った。同時に風属性の魔法……たしか、武器に風を放出する能力を一定時間付与するものだな。アレと回転斬りを組み合わせてアサシンのプレイヤーを吹き飛ばしたようだ。
「これは決まりましたね」
「そうね……体勢崩したらアウトよ」
突っ込んでからのシールドバッシュ。盾で殴られたアサシンさんは頭の上に星が回っているエフェクトをだし、その場でふらつきだした。
「あちゃー、気絶状態」
「綺麗に決まったですからね」
「見事なものじゃのう……隙をついて、動きを封じる。そしてラッシュで一気にHPを削る」
「対人戦における基本戦法のひとつよ。大技を決めるために、いかにしてそのための隙を生み出すか。あの子、真っ当に強いから戦いづらいのよね」
「そういえば、フリー対戦のほうでみょーんさんと銀ギーさん対戦していましたね」
「勝敗は?」
「ワタシの負け。さすがに普通の剣だったけど、それでもこっちの魔法を弾かれてから懐に入られてシールドバッシュからの気絶。そしてラッシュでKOよ」
「今みたいな感じでですか?」
「その通り」
自分の敗北シーンを見させられたようなものだから、みょーんさんの顔が苦い。
その後、幾人かの挑戦者が現れるのだがその全てを銀ギーさんは叩き伏せた。戦法は毎回異なっており、狩人系の遠距離攻撃職や魔法使い系のプレイヤー相手には同じく遠距離攻撃で牽制しあい、相手の集中力が切れた隙に突貫して切り伏せた。
重戦士系の強固な防御力を持つプレイヤーは的確に魔法攻撃でじわじわと削っていく戦法を使い、相手の攻撃を躱していた……種族がフェアリーなのに素早いのか。
サモナーで挑む人もいたけど、多方向からの攻撃もバリアーを張る魔法で多少のダメージ覚悟で突っ込み接近戦に持ち込むことで倒しているし、万能すぎない?
「そもそも、万能……悪く言えば器用貧乏な【魔法剣士】と臨機応変に戦いつつ、基本的な動作を突き詰めている銀ギーとの相性が凄まじく良いのよ」
「イチゴ大福さんあたりが使っても脅威だったでしょうね」
「その2人が戦うとどっちが勝つですかね?」
「……うーん…………難しい話ね。運動能力やスペック自体はイチゴ大福のほうが上なんだけど」
「銀ギーさんの戦闘スタイルと、その水準から考えて勝算は高いと思います」
「まあ、2人の対戦カードがマッチングされるかもしれないし、気長に待ってみますか」
暴走しなくても強いんだなこの人ということを再確認し、今日のガーディアン戦は終了した。




