八つ当たりな乙女たち
結論から言おう。2人の勢いに防戦一方だった。
「分身からの、超高速連撃ぃ!」
「ちょっ、アリスにだってさばける限界があるんですからね!?」
種族がフェアリーになったことでアリスちゃんのMPはケットシー時よりも上がっている。そのため、ジェット移動による回避可能回数は増加しているのだが、種族がフェアリーなのは桃子さんも同じなのだ。つまり、彼女もスキルの使用可能回数が多い。
桃子さんの使用している奥義スキル『影分身』は自立行動する分身を生み出すというもので、自分の覚えているスキルをランダム使用する。職業専用クエストを進めることでスキルの使用傾向を決めることが出来るようになり、AIのレベルも上がる。初期から【忍者】で遊び続けている桃子さんがそのあたりの職業専用クエストを進めていないわけもなく、当然のごとく最も厄介な状態となっているわけだ。
「ッ――本体より強い分身とかキツイですね」
「本体より強いってなんでござるか!?」
「実際、桃子さんの動きは目で追えるですけど分身のほうはありえない加速しているじゃないかです!」
「それは跳躍スキルとか使っているからでござるよ! 反応速度は人間には無理なレベルでござるけどな!」
「結局本体より強いって認めているじゃないかです!?」
というかアリスちゃんでも目で追えないってヤバい速度だなオイ。
『あちゃー、分身強くし過ぎだよ』
『対処方法は何があるのかね?』
『魔法で範囲攻撃すればいいんだろうけど、フェアリーなのが厄介なんだよね。抵抗力が高いから分身が消えない可能性がある。防御は紙なんだけど、分身相手だとあまり意味がないっていうか……本体を攻撃できれば一撃で沈むんだろうけど』
『吾輩としては時間切れまで粘るのをお勧めするね。クールタイム中は無防備だろう』
分身は攻撃の一瞬、動きが見えるのでそのタイミングでアリスちゃんはかわしている。もっとも、すぐに次の攻撃がくるのでそれが精一杯なのだが。
僕が援護に行けば状況を打開できるが、こちらはこちらで厄介だ。
「んゆー? どったの? そんなさげぽよな顔して」
「どんな顔だよ。っていうかいつの間にこんなに強くなったのか……」
「彼ぴっぴが欲しいという一念が、あーしを強くしてくれたの」
「努力の方向性がおかしい。なんでゲーム内で強くなっているんだよ」
「あと、終わらない補習の悲しみが強くしてくれた!」
「ああ……結局逃避してゲームに没頭していたってことか…………」
いや、それダメな方向に走っているだけだから。
だがしかし、その実力は本物である。だからこそ悲しくなってくるわけだが。
らったんさんは空中に設置した風魔法(トラップ型魔法のひとつ。時間差起動する爆弾みたいなもの)を使用し、魔法が起爆するタイミングでそこをスキルで蹴っている。そのおかげで、空中を駆け抜けてくるのだ。しかも蹴り抜く角度で飛ぶ方向を見極めていやがる……どんだけ練習したんだよ。
しかも今の僕はオーガだから動きが普段より遅い。そのせいでらったんさんをとらえきれない。
『ほう、あんな方法があるのか……あれは吾輩も知らなかったな』
『ただいま裏でデータ検証チームが動いていますよー……あ、結果出た。スキル同士がぶつかった際の反動による移動か。バグではないけど、なんで自由自在に動いているのかは不明。つまりいつもの奴だな!』
『ヒルズ村付近では日常的にみられる光景だな』
『っていうかアンタもああいうの出来るだろ』
『もちろん』
『もうやだこの人たち』
『松村君もジェット移動嬉々としてやっていたが?』
『松村ァアアアア!!』
運営が内輪揉め起こし始めたぞ。と、外野に気をとられたのがいけなかったのか、とんっとらったんさんの右手が僕の胸に当てられていた。まるで、掌底のようなそれは――
「さーげーぽーよー!!」
「何その掛け声――うぼあっ!?」
「お兄ちゃーん!?」
「隙アリでござる!!」
「っ!?」
僕が喰らったのは、おそらくは発勁の類のスキルだ。ゼロ距離から発射される、強力な衝撃波を伴う攻撃スキルだ。直接殴るわけではなく、触った状態でスキルを発動する必要があるため使用難易度が高いため使い手はほとんどいない。アリスちゃんも習得自体はしているがあまり使わないスキルだ。
アリスちゃんのほうはあまり見えなかったが、どうやら分身たちも含めた同時攻撃を喰らったようだ。電撃が見えていたところから考えて忍術系の攻撃だろう。雷遁の術といったところか。
結構痛い一撃を喰らってしまったし、立て直すのは厳しい――だが、さすがにそう簡単に負けるのも癪である。
「んゆー?」
「――『輝く一撃』」
デッキブラシをらったんさん――ではなく、桃子さんめがけて投げる。彼女たちのウィークポイントが一つだけあった。それは、2人とも八つ当たりで戦っているので頭に血が上っており、お互いの戦況が見えていないことだ。
そのため、アリスちゃんを撃破したと思っている隙だらけな桃子さんに僕の放った一撃がヒットする。
「のう!?」
「あ、桃子っちが串刺しに!?」
「らったんさん、よそ見厳禁だよ」
「これで、吹き飛んでくださいです。『ブリザードインパクト』!!」
「ちょ、氷系!?」
普段アリスちゃんは炎系の魔法ばかり使っているのでらったんさんも予想外だったのか、動きがとまる。氷系の上級魔法『ブリザードインパクト』は圧縮した冷気の塊をぶつける高威力の攻撃魔法なのだが、チャージに時間がかかることと、魔法使い系職業以外で使うととても射程が短いという欠点がある。
おそらくは分身を消し飛ばすために準備していたのだろうが、こちらを確認していたアリスちゃんが好機とみて標的を桃子さんかららったんさんへ変えたのだ。
「んゆー? 体が動かないんですけどー」
「氷結入ったです!」
「よし、タイミングよく武器も手に戻ってきた! まずはらったんさんを消し飛ばす!」
投げた武器がいつの間にか手元に戻ってきていた。ゲームであるからこそ、現実離れした挙動もアリなのだ。そして、ゲームだからこそ本気でフルボッコにしてもいいよね。
「んゆー? そんちょーが悪い顔してるー……いたいけな美少女をいたぶってたのしーですかー?」
「それはそれ、これはこれ」
『うわー、容赦ねー……』
『そもそも対人戦に参加している時点で命乞いとはナンセンスだよ』
『あれ? これってそういう話?』
もちろんお互いに冗談交じりでの会話である。その間にも僕はデッキブラシをヌンチャクのように振り回し、眼前に巨大な水球を発生させていた。
「あ、これマジなやつだ。桃子っちヘルパス。ヘルパスミー!」
「それを言うならヘルプミーでござるよ! あと、スマンでござる。こっちも破滅の幼女に足止めされて助けに行けそうもない!」
「だれが破滅の幼女ですか!? っていうかアリスの肩書増えすぎでは!?」
なお、分身を使われるのなら出だしでつぶせばいいという実に頭の悪い理論で分身が出現する位置にスキルをぶつけることで、分身をふっ飛ばして桃子さんの攻撃を封じているアリスちゃんに会場がドン引きしていた。いや、なんでそれ出だしわかるんだよ。
「一度見たので、出てくるタイミングの空間の歪みさえ注意していれば対処できるです!」
「この子やっぱり頭一つとびぬけておかしいでござるよ!?」
『たしかに発動時に歪みがあるが、反応速度がすさまじいな』
『ちなみにポポさんはアレできます?』
『ウォッチを使うという前提ならば』
『つまりスピード上げないと無理だと。いや、アレを制御できるアンタも大概よ?』
『なぜ運営側がそんな評価なアイテムを実装したのかと聞きたいところだが』
『まあ、ただのネタ装備だったんですけどねぇ。使える人思ったより多くて草生えたわ』
『音楽担当、気楽なものだな』
『実際にそのあたりの作業するの俺じゃないんで。で、村長君の使っているあのスキルってなんだっけか』
『たしか、エクストリーム系の魔法だったと思うが』
『あ、思い出した。「エクストリームスプラッシュ」だ。エクストリーム系の名に恥じぬ、筋力依存の水属性』
話にあったエクストリーム系の魔法とは、各属性に設定されている筋力値に応じて威力が加算される魔法である。チャージ時間が恐ろしく長く、使い勝手は悪い。
「んゆー? チャージ長いなら逃げられると思ったのにー、なんで氷とけないのー?」
「ブリザードインパクトでの氷結は元々長いし、エクストリームスプラッシュ発動中は周囲の氷結時間が延長されるから」
「コンボとかテンションさがるんですけどー」
「言い残すことは?」
「彼氏募集中! ただし、包容力のあるイケメンで、白いスーツの似合う人限定で!」
「……あー、うん。頑張って」
「憐みの目!?」
爆音と共にらったんさんを吹き飛ばす。巨大な水球が弾けて、彼女の体が錐もみ回転しながら上へと上へと飛んでいき、そのまま自由落下して地面とキスした。
「あーしのファーストが!?」
「そういえばドワーフだったな……防御力高めなの忘れてたわ」
「チェストー!」
「誰の胸が男性みたいでござるかぁああああ!?」
「そういう意味で言ったわけじゃないですけど!?」
チェスト:男性の胸の意。アリスちゃんは掛け声的な意味で使ったのだろうけど……桃子さんの逆鱗に触れたため、彼女は再び暴走した。
あと、らったんさんもファーストと叫びながらこちらに突っ込んできている。
「あぶなっ!?」
「あっ――」
デッキブラシをスイングし、らったんさんの顔面にジャストミートした。普段なら腹のあたりを狙うんだけど……あ、そっか。オーガだから身長がいつもと違うのか。そういえばさっきらったんさんの攻撃を喰らっても僕のHPが残ったのも同じ理由だったか……アリスちゃんのほうは元々PVP用に性能調整した防具だからだろう。防御力が高くなっているはずだ。たしか、忍術ってエフェクトは魔法と同じだけど物理攻撃力と防御力参照したはずだし。
「とりあえずフルスイング!」
『ホームラーン!』
『そういうゲームじゃないぞ、コレ』
『ゲーム開発当初はVR野球盤なんてものも企画されていました』
『初耳だぞ……野球、ではなく野球盤なのか』
『ええ。いつか陽の目を見ることもあるでしょう』
そういえば、近々別のVRオンラインゲームをリリースするって話だったな。
と、放送席の話がわき道に逸れるがこちらは何とからったんさんを撃破。アリスちゃんのほうは……あ、大丈夫そうだ。
「必殺のドリルキックです!」
どうやったのか、桃子さんが上空に飛ばされていた。そこにアリスちゃんが逆立ちの態勢から手で地面を押して上に飛ぶ。そのまま体を回転させて桃子さんの体を貫いたのだ。
なんとか勝てたが……疲れた。
「スーパーヒーロー着地です!」
「はい、お疲れ様」
「いやホント、疲れたです……」
「次のガーディアン戦だと対策とられそうだなぁ」
「さすがに次からはもうちょっと緩くやるですね……」
「だね」
運営からも、アイテムのパフォーマンスを兼ねているから初回はできるだけ頑張ってほしいという話だし。まあ、アリスちゃんと僕の場合は消費アイテムなので戦闘前に使うだけで十分だが。
とりあえず、ガーディアン戦の初回はつつがなく終えることが出来た。




