上には上がいるものである
何とか勝利を収め、アリスちゃんと共にチャンネル1に移動するが……終始気まずそうな顔をしているのはなぜなのか。
「アリスちゃん、なんで気まずそうな顔しているの」
「……」
「いや、今度は気の毒そうな顔をされても」
チャンネル移動するとコロッセオの外に自動的に出てしまうので、中の席へと移動しているが……無言で表情だけ変えるの心にグサッとくる。え、知らないところで何かやらかした?
「やらかしたというか、玉突き事故を起こした現場に遭遇しているのにアリスだけが気が付いているというかなんというか……ごめんです。アリスの口からはこれ以上言えないのです」
「なにその例え。不安になるんだけど」
「いやホント、ごめんなさいです」
マジで気になるから白状してほしい。っていうか哀れみの目で見られるようなことしたかな……心当たりが多すぎてわからない。いや、ダメじゃん。
結局考えても仕方がないのでおとなしく空いている席に座る。結構な人が集まっているが、十分な広さがあるから普通に座れた。プレイヤー数はかなり増えているはずだが……いや、そもそも全プレイヤーが同じ時間帯にログインしているわけでもないか。今回は公式トークとガーディアン戦の一部をアーカイブ配信するから時間のある時に見るつもりの人も多いからかな。
新アイテムのお披露目もあるし。
「確か、初戦はイチゴ大福さんだっけか」
「いえ、順番は変更があったです。最初はニー子さんからですよ」
「あ、そうなの? でもまたなんで……」
「見た目派手なほうがいいからじゃないですかね」
コロッセオの中央、普段はまっ平らなフィールドなのだが……崩れた柱や、岩。様々な障害物が追加されている。ちょっと入り組んだ形状のフィールドを再現した、という感じだ。
「たしかニー子さんに貸し出されるのって」
「蛇腹剣です」
「すでにあったと思うけどなぁ」
「今回のは『魔導兵器』シリーズの蛇腹剣ですから」
「それもそうだけど」
僕とアリスちゃんはまた別のものだが、ガーディアンを任されたプレイヤーにはそれぞれ実装前のアイテムが貸し出されることとなった。
PVPトップ3には『魔導兵器』シリーズという新しいカテゴリの武器が貸し出されており、古代兵器とは方向性が違うがそれぞれ特殊な効果を持っているとのこと。
既存武器と同じカテゴリを持つ、つまり古代兵器とは違って通常スキルも使えるのだが……詳しいことはさすがに知らない。
「あれ? ニー子さんいつもと服装違うですよ」
「アリスちゃん、忘れたの? ガーディアン用の専用アバターを使うから、普段とは違う防具と武器になるって話でしょ」
「そういえばそうでしたね……」
以前のトライアスロンイベントのように、ガーディアンを務めている間だけアバターが切り替わる仕組みなのだ。というより、データはそのままトライアスロン時に作成したイベント用アバターなので運営の人と打ち合わせしたとき、当時のスポーツウェアのままだった。
そこから今回のために調整したアバターが用いられているのだが……ちょっと悪ノリし過ぎたかなーと思っている。見てのお楽しみだが。
「ニー子さんのコンセプトは何ですかね、アレ」
「青い服に、シンプルながら神聖さを感じるデザイン……右手には剣。左手には盾、オーソドックスな戦士――いや、勇者か?」
「そりゃ【旅人】から一切職業変えていないある意味勇者な人ですけど」
「さすがにそろそろスキルを増やすために別の職業にも手を出すと思う……いや、結局【旅人】で使えなければ意味がないって言っていそうだな」
予想通り、別に買える範囲の物で十分だからと職業を変えるつもりがないことが判明する。
解説の人は今まさに魔導兵器についての説明をしているところだが、事前に教えてもらった範囲と何ら変わりない。まだ開発中なので、先行でお披露目できる分だけ公開するとも言っているな。
「魔導兵器版の蛇腹剣ってどんな効果でしたっけ?」
「解説あるみたいだよ」
ちょうど、司会のMCマキシマーが解説を入れているところだから。
相方は……見たことない人だけど、誰だろう?
「たしか、キャラクターデザインの人です」
「へー」
『マキシマーさんマキシマーさん。魔導兵器が専用スキルのある武器ってのは分かりましたけど、具体的にはどんなのがあるんですか?』
『いい質問だね。まあ、開発段階だし、音楽担当のこっちにはあまり情報は来ていないわけだけどさ。それでも先行して公開できる範囲なら、まずニー子女史の使っている蛇腹剣。魔導兵器のものは移動に便利な代物さ。アンカーのように壁や障害物などに刺さり、移動補助に使える』
『それ、無茶な動きできちゃいません?』
『もちろん制限はあるし、何でもかんでも突き刺せるわけではないけど』
『まあ、それはそうですよね。マキシマーさんマキシマーさん、盾のほうは?』
『普通の盾です』
『ええ……』
『あと、戦闘においてあの蛇腹剣は好きな挙動で動かせるからプレイヤーの力量が試される武器になっているぜ。あと、使用しているとMPを吸うから気を付けな』
なんというか、玄人向け装備?
「お兄ちゃん、ああいうのあったら悪用しそうですよね」
「何を言い出すんだアリスちゃん。もちろんするに決まっている」
「胸を張って言う事じゃないですよね」
「まあ、実際には泡移動とMP消費の差がどれだけあるかにもよる……手に入れても結局使う事なさそうだな」
そうこうしていると、抽選で選ばれた対戦者の人が現れる。今日のニー子さんは3戦の予定だったか……現れたのは、スキンヘッドの巨漢…………ってオイ。指輪職人さんじゃねーか。
「思いっきり知り合いですけど」
「あの人もニー子さんの強さは知っているだろうに」
リヴァイアサンの時の野良トリオのもう一人、らむらむさんは『いや、さすがに、アレな、人たちには、挑まない』って言っていたんだけどなぁ。なお、アレな人たちに僕らも含まれているのはご愛敬である。
視線をコロッセオの中に向けると……あ、指輪職人さん手を顔に当ててやっちまったなーって雰囲気だ。
「アレはどうせ当選しないだろうと思ってエントリーしちゃったら、まさかのトップバッターで後悔しているな」
「よくここからでもわかるですね」
「並行してライブ映像のウィンドウも表示しているし」
「あ、いつの間に」
「やっぱりズームして見えないとわからないことってあるから」
「……ここで座って観戦する意味は?」
「気分的に」
「わかるですけどね。あ、試合始まったですよ」
本当は画面の音声が自分にだけ聞こえるようにセットできるけど、気分重視でミュート設定にしてある。先に動いたのは指輪職人さん。今日も【重戦士】にしてあるようで、バカでかい斧を装備していた。それに腰のキューブ……【古代のアックス】だろう。接近して、防御力を下げて重い一撃を叩き込むといったところか。
相手がニー子さんじゃなければ脅威だったんだろうなぁ……よりによってパワースタイルの彼がなぜニー子さんを対戦相手に希望したのか――あ、ダメだ。今日のガーディアンであるポポさんとイチゴ大福さんはニー子さんよりも素早いんだ。むしろ指輪職人さんのプレイスタイルで勝算があるのってニー子さん相手だけじゃん。
「蛇腹剣が伸びたです」
「なるほど、崩れた柱とか足場が多いのはこのデモンストレーションのためなわけね」
「なんていうか、無茶苦茶な動きするですよね」
縦横無尽に駆け回る。それも上下左右、あらゆる方向に。よくもまあ短い練習期間でアレだけ動けるよ。いや、アリスちゃんのジェット移動も大概なんだけどね。
「お兄ちゃんの泡移動も大概ですよ」
「お互い様だねー」
「そうですね。で、結局のところお兄ちゃんならどうやって戦うです?」
「うーん……一番確実なのは範囲攻撃かな。盾を装備しているのはある種のハンデだろうし、アレでニー子さん側の遠距離攻撃は魔法か蛇腹剣に絞られるから、まずは距離をとりつつ範囲攻撃の準備をする。あとは回避できない広範囲の攻撃でダメージを与えて、追加効果を狙うね。アリスちゃんは?」
「とりあえず射程範囲外まで飛び上がって、必殺の一撃をお見舞いするです。限界まで上がれば落下距離の威力加算が多いですし」
「僕が言えた義理じゃないけど、どれだけダメージ出るんだよ」
「防御しなければ、耐久力の低い人なら即死だと思うです」
「どんだけー」
何だっけ、アリスちゃんが使っていたスキルのコンボ。確かメテオインパクトとか言っていたやつ。アレすさまじい威力が出るんだよね……自前のバフだけでアレだけ威力出るんなら、サンタ戦の時に盛りまくったバフで発動すればそりゃあんな威力になるってものだよ。ダメージ1位納得だよ。
「結局、自分ならニー子さんをどうやって倒すかって話になったですけど……指輪職人さんの場合はどうすればいいです?」
「普通の斧で蛇腹剣を弾くか何かして、隙を作って古代のほうで防御力低下させる。すかさず連続攻撃に移ればワンチャンある。ただし、俊敏値もある程度ないと厳しいけどね」
「すでに翻弄されている状態からの立て直しは?」
「無理」
あえなく撃沈する指輪職人さん。いや、実際健闘したほうだとは思うよ? 軌道の読めない蛇腹剣を何回か防いで見せたし。途中魔法も発動されたせいで防御の手が足りなくなってやられたが。
その後、指輪職人さんの健闘を見ていた次の挑戦者たちはどんな攻撃方法かわかっていたからか、最初の内は健闘するのだが……ニー子さんが魔法を発動した瞬間ふっ飛ばされるのであった。というか使っていたのほとんど初級魔法なのにあそこまで巧みに使いこなすニー子さんがヤバいな。
距離をとった相手には球体の魔法を飛ばして牽制し、防御魔法を一瞬だけ発動して自分を加速させて懐に飛び込んで決める――いや、その方法僕知らないんだけど。
もう一人は魔法使い型のプレイヤーだったが、ニー子さんは巧みにエンチャントを切り替えて弱点属性で一気にライフを削りに行ったし。
「加速技法もそうだけど、エンチャントの切り替え速いな。いろいろとどうやっているのか気になる」
「あの加速、確か……風系の防御魔法ってぶつかったモンスターやプレイヤーをはじく性質があるんです。それを使ったんだと思うですよ」
「使ったプレイヤーも弾くのか」
「はい。アリスは使ったことないので、みょーんさんに聞いてみないと詳しいことは分からないですが、短距離しか移動できないので実用的ではないとかなんとか聞いた覚えがあるです」
「へー……後で試してみよう」
「エンチャントのほうは単純に慣れだと思うですよ」
「まあ、それしかないか」
どうせ後でフリー対戦にも現れるんだろうけど、出来れば戦いたくないな。たぶん、他にも僕たちが知らない手を持っているな。フリー対戦だと本来の装備だろうし、もっと強いはずだ。うん、勝ち星は商品の詳細を見てからどの程度稼ぐか考えよう。




