第三十話 再び現れる
「咲ッ!!」
すぐさま咲さんを解放しようと、神南さんが走り出す。
するとその動きを、男がすぐさま手で制した。
「下がっていてもらおうか」
男はそのまま、手甲に包まれた手で来栖さんの首を掴んだ。
やむなく、神南さんはじりじりと後退して男から距離を取る。
「それでいい。しかし、よくここまでこれたものだ」
「はっ! そんなこと言って、本気で邪魔する気はなかったやろ?」
「ほう?」
「本気で妨害する気なら、あんな時代遅れの旧式兵器以外にも使えるもんはいくらでもあったやろ。山猫が国防に飼われとることぐらい、裏に関わっとる連中ならだれでも知っとるからな」
新沢さんがそう指摘すると、男は急に笑い始めた。
そして、口元を抑えながら言う。
「流石はSランク冒険者、お見通しという訳か。期待に沿うような歓迎が出来なくて申し訳ない。しかし、最新兵器というのは弾丸一発を取っても金がかかるのでね」
「ほーん。なら、金をケチっただけやと?」
「それもまた違う。パーティはこれからだからな」
そう言うと、男は手を上げて指をパチンッと鳴らした。
すると部屋の奥から、ガシンガシンと音が聞こえてくる。
それはさながら、ロボットか何かの足音のようだった。
「ああっ、やばい! みんな逃げてください、あいつが来ます!!」
ひどく焦った様子の来栖さん。
いったい、何が来るというのだろう?
俺たちが警戒を強めると、やがて現れたのは――。
「お前は……!!」
入鹿ダンジョンで対峙した、黒い鎧のモンスター。
それがいま再び、俺たちの前へと姿を現した。
……驚いたな、まさかこんなところでまた会うことになるとは。
「桜坂君、こいつは……!」
「ああ。間違いなく入鹿ダンジョンで戦ったやつだ!」
「なんや、二人ともこいつを知っとるんか?」
「はい。入鹿ダンジョンで遭遇した、とんでもなく強いモンスターですよ」
そう答える俺の声は、わずかに震えていた。
算段がないとは言わない。
これでもかつて賢者と呼ばれた身だ、こいつを倒す方法はいくつも思い浮かぶ。
しかし戦うには、それなりの覚悟がいる相手ではあった。
「ほう、ならこいつは俺は相手させてもらおか。S級冒険者の力ってもんを見せたろやないかい」
「それはやめた方がいい。そのモンスターと君のイデアは著しく相性が悪い」
「……どういうことや?」
新沢さんの声がにわかに低くなった。
彼はそのまま、男を鋭い眼で睨みつける。
一方の男は、その殺意すら感じられる眼差しに対して鷹揚な態度で答えた。
「そのままの意味だ。そのモンスターは生きているようで生きていない。だから命を吸う君のイデアはほぼ効かないのだよ」
「じゃあ、なんでわざわざそのことを俺に教えてくれるんや? 親切なんか?」
「私が君と戦ってみたいからだよ」
そう言うと、男は来栖さんを手放した。
そしてこれまでの落ち着いた様子から一変して、声を荒げる。
「俺はかつて、お前に屈辱を受けた! 本来はお前と戦う予定ではなかったが、ここで死んでもらう!」
「私怨やがな! まあええで、相手したる!! あんた、名前は?」
「俺の名は龍造寺輝だ。どうせお前は忘れているだろうがな!」
そう叫ぶと同時に、男の手から青白いオーラが飛び出した。
ドラゴンのような姿をしたそれは、たちまち新沢さんへと食らいつく。
おいおい、ドラゴン型のオーラを操る能力ってか!?
たかが犯罪組織のボスにしては、ずいぶんと強力なイデアだ。
「今のうちね!」
「ええ!」
すかさず、神南さんと俺が走った。
そして倒れていた来栖さんへと手を伸ばそうとした瞬間、鎧のモンスターが立ちはだかる。
「流石に、簡単にはいかせてくれないよな」
「仕方ない、戦いましょ。ただし、ここじゃ倒れてる咲を巻き込むから……」
そう言うと、神南さんは部屋の壁際へと移動した。
そして剣を抜くと、それを一気に赤熱させる。
「はあっ!!」
――ジュッ!!
焼け石に水をぶっかけたような音を響かせながら、剣が壁にめり込んだ。
神南さんは力を籠めると、そのまま円を描くようにして壁を切り裂いてしまう。
そして思いっきり壁を蹴り飛ばし、大人が楽々通れるほどの大穴をあけてしまった。
「こっちでやりましょ?」
そう言って、挑発的に手招きをする神南さん。
すると鎧のモンスターは、素直に彼女のいる方向へと歩き始める。
先ほどの行動でも直感したが、やはりこいつには知性があるな。
一体こいつの正体は何なのか?
いろいろと気になるところではあるが、今はそれよりも来栖さんの救出が優先だ。
とにかく早くこいつを倒して、助けに行かなくては。
「おぉ、格納庫か!」
おあつらえ向けなことに、隣の部屋は兵器類の格納庫となっていた。
かなりの広さがあり、戦うのに不自由はなさそうだ。
さて、問題は……このモンスターを倒せるかだな。
流石にこいつが相手となると、正体を隠したまま戦い続ける余裕はない。
「神南さん。いまから俺の能力で、俺たちの戦闘力を底上げします。ただこれをやると最悪の場合、後遺症が残るかもしれませんが……いいですか?」
「構わないわ、やって」
素の状態では勝てないと理解しているのだろう。
神南さんはためらうことなくそう告げた。
よし、そういうことなら……!
「外気法……! 古代魔法陣、展開!!」
「なに、これ……!!」
足元いっぱいに展開された巨大な魔法陣。
そこから次々と魔力の光が放たれ、身体強化魔法が掛けられていく。
「オールアップ、ストレングス、竜の加護、フォース、シュタルク・ゼーレ……」
可能な限りの強化魔法を掛けていく俺。
こうして、瞬く間に俺たちの能力が急上昇していくのだった――!
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