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前世が最強賢者だった俺、現代ダンジョンを異世界魔法で無双する! 〜え、みんな能力はひとつだけ? 俺の魔法は千種類だけど?〜  作者: キミマロ
第二章 賢者とインフルエンサー

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第二十三話 嘘

「……そんなに、この詩条カンパニーのことが気に入ってるん?」

「はい」


 俺はためらうことなくそう言った。

 鏡花さんにも七夜さんにも、いろいろと良くしてもらったのだ。

 いくら補償金が出るとはいえ、ここで出ていくわけにもいかない。

 そもそも、金で仲間を売るみたいで凄く嫌な気分だし。

 

「もし金の問題なら、時間があればもっと積めるで?」

「そういうことじゃないんです」

「………………そうか、そら残念やなぁ」


 長い間を置いて、新沢さんはそう言った。

 俺たちは彼が強硬手段に訴えないかと警戒するが、そのような気配はなかった。

 代わりに、厨房に向かって大声で叫ぶ。


「はなちゃん、酒や! ビール持ってきて!」

「はいよ!」


 こうして持ってきてもらったビールを、新沢さんはあろうことかラッパ飲みした。

 ……いくら何でも、お酒をあんな水みたいに飲んで大丈夫なのか?

 俺が呆れている間にも、新沢さんはビールの中瓶を一気飲みしてしまう。


「……大丈夫ですか?」

「余計な気遣いせんといてや。振られた女にそう言うこと言われると、みじめになるわい」

「桜坂君は男でしょ」

「細かいこと言うなや」


 そう言うと、新沢さんはさらに焼酎を追加した。

 すごいなこの人、肝臓もS級なのか?

 その後も顔色一つ変えずに酒を何本も飲み干すと、やがて彼はほいっと金色の何かを投げつけてくる。


「……何ですか、これ」

「名刺や。見てわかるやろ?」

「いや、それはそうなんですけど」


 金ぴかの名刺って、一体どんな趣味なんだよ。

 神南さんも鏡花さんも、ちょっと呆れた顔をしている。

 俺もたまらずツッコミを入れそうになったが、流石に自重した。

 まあ、人それぞれ趣味ってあるからね。


「なんや、嫌そうな顔やなぁ。政府のお偉いさんが泣いて欲しがる名刺やで? もっといいリアクションしてくれてもええのに」

「……ありがとうございます!」

「まあええわ。また何か困ったことあったらいつでも連絡してや。たいていのことは何とかしたるから」

「はい!」


 俺が返事をすると、新沢さんは満足げな表情で頷いた。

 ……やれやれ、どうにか乗り切れたようだな。

 ほっと胸を撫で下ろすと、額に浮いていた汗を拭う。


「それじゃ、私たちはそろそろ失礼するのですよ。もういい時間なのです」

「そうね、行きましょうか」


 こうして俺たちは、店を後にしてタクシーに乗り込んだ。

 ほんの数時間だったというのに、凄い長く感じたなぁ。

 俺は半ば放心状態で、タクシーの椅子に背中を預けた。

 するとここで、隣に座っていた神南さんが言う。


「今日はどうにかなったけど、またあんなのが来たら困るわね」

「ええ。何か対策を考えないといけないのですよ」

「やっぱり、ほとぼりが冷めるまでの間はダンジョンに逃げちゃうのが一番かもね。カテゴリー3の本格攻略とかなら、かなり時間がかかるだろうし」

「でも、それだと那美がなんて言うか……」


 俺はすぐさま、神南さんと鏡花さんの会話に割って入った。

 それだけ長期の不在となると、那美に心配をかけてしまうからなぁ。

 するとたちまち、神南さんが呆れたように肩をすくめて言う。


「流石に今はそれどころじゃないわよ。那美ちゃんだってわかってくれるわ」

「まあ確かに……」

「それに、他のカンパニーの工作などが激化したら那美ちゃんも危険かもしれないのですよ。身内に働きかけるなんて、よくある話ですから」

「それは困る!」


 たまらず、声が大きくなった。

 那美に手を出すようなことだけは、兄として絶対に許すわけにはいかないぞ。


「決まりですね。私の方で適当なダンジョンを見繕っておくのですよ」

「頼んだわ。じゃあ、私は咲にも声かけとくから」

「来栖さんにですか?」

「あの子もたぶん、今頃は困ってるだろうし」


 こうして俺たちは、世間の目を逃れるためにカテゴリー3ダンジョンの本格攻略へと動き出すのだった。


――〇●〇――


「ダブルイデアやと思ったんやけどなぁ」


 天人たちがタクシーで話していた頃。

 新沢はまだお好み焼き”はなちゃん”で酒を飲んでいた。

 その傍らには、店名の由来ともなっている女店主の姿があった。


「あの子が違いますと言った時、あたしの能力は反応しなかったからねえ」


 そう言うと、困ったように顎を撫でる店主。

 彼女の正体は、嘘を判別できるイデアの持ち主であった。

 新沢がはなちゃんを行きつけにしているのも、彼女の能力を使うためである。

 店が過剰に古臭いのも、ある種のカモフラージュであった。


「つまり、あの能力は複数のイデアの組み合わせではない。となると、ひとつの能力であれを実現しとるってことか……? そないに幅の広いイデア、まずありえへんのやけどな」


 イデアというのは、人間の願望を反映した能力とされる。

 ゆえに、かなり特化した能力であることがほとんどだ。

 複数のイデアと誤認するほど幅のある能力など、むしろその方が貴重なぐらいだ。


「……ひょっとするとあの能力、イデアじゃなかったりしてね。何となくそんな気がするの」

「何言うとるんや。そないなもん、あるわけないがな」


 店主の直感を即座に否定する新沢。

 流石の彼も、この荒唐無稽な想像が実は正しいとは思えなかったようだ――。


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