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前世が最強賢者だった俺、現代ダンジョンを異世界魔法で無双する! 〜え、みんな能力はひとつだけ? 俺の魔法は千種類だけど?〜  作者: キミマロ
第一章 賢者覚醒編

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第八話 初給料

「おぉ! 研修でこんなに魔石を持ってくるなんてすごいのですよ!」


 その日の夕方。

 カンパニーに帰り着いた俺たちは、さっそく本日の戦果を披露していた。

 テーブルの上にジャラッと広がった魔石を見て、鏡花さんはたちまち目を丸くする。

 今日一日で俺たちは、合計三十匹ほどのグレーハウンドを倒していた。


「ぜんぶ、小サイズですけどね」

「でもこの数はすごいのです! ちょっと待っててくださいね!」


 鏡花さんは奥から測りを持ってくると、さっそく魔石をその上に移動させた。

 さらにレーザーポインターのようなもので光を当てると、その輝きをチェックする。


「この純度と重さだと……。天引き分を除いて、全部で七万三千円ですね」

「な、七万円!?」


 俺の全財産の倍以上の金額が、二人でとはいえたった一日で稼げてしまった。

 このペースで稼いだら、一か月で一体いくらになるんだ……!?

 歩合で三百万を超える人もいると聞いていたが、この分なら本当にあり得そうな金額だ。

 しかし、七夜さんの方は少し不満そうにしている。


「む、量の割にだいぶ安い」

「最近、小粒の魔石は流通が増えて相場が下がってるのですよ」

「わかった。じゃあ、新人君と私で半々に分けといて」

「あ、俺はもっと少なくていいですよ! 先輩のおかげですし!」


 何だかんだ言って、七夜さんの倒した分は俺よりも多かった。

 効率のいい狩りの仕方なども、いろいろと時間を使って教えてもらっている。

 それで七夜さんと俺の取り分が同じだったら、とてもじゃないがやってられないだろう。

 本来なら彼女はもっと高ランクのダンジョンで魔石を稼いでいたはずだろうし。

 しかし七夜さんは、ふるふると首を横に振る。


「半分ずつでいい。あんまり教えることも無かった」

「おや、そうなんです?」

「モンスター討伐もそうだけど、立ち回りも慣れてた」


 そういうと、何やら意味深な顔をして俺を見る七夜さん。

 あー、前世で冒険者として生計を立てていた時期が長かったからなぁ……。

 その頃の習慣とかが未だに染み付いてしまっていたらしい。

 そら、初心者がいきなり熟練した様子だったらびっくりするよな。


「あはは……。俺、実は親が討伐者で」


 これは嘘ではない。

 俺と那美の父親は討伐者をしていた。

 それが事故で亡くなってしまったため、俺たち家族は苦しい思いをしてきたのである。

 もっとも、父が亡くなったのは那美が生まれた直後で俺もほとんど覚えていないのだけど。


「それでいろいろ英才教育を受けたと」

「はい。いろいろあって、討伐者になろうとしたのはこの歳ですけど」

「なるほど、そうでしたか」


 気にしても仕方ないと思ったのだろうか?

 鏡花さんがあっさりとした口調でそういうと、七夜さんもまた渋い顔をしながらも頷く。

 

「……それより、桜坂君の分はどうするのです?」

「どうするって一か月分まとめて後で払われるんですよね?」

「それもできますが、今日の分をこの場で渡すこともできるのですよ」


 どうやら、俺の生活にあまり余裕がないことを察して給料の歩合分を日払いしてくれるらしい。

 おぉ、これはめちゃくちゃありがたいな……!

 そろそろ、モヤシだけの生活も限界に来ていたところである。


「じゃあ、お願いします!」

「はい。三万六千五百円なのです!」


 奥の金庫から現金を取り出してくる鏡花さん。

 よっしゃ、これで今日は那美に何かうまいもんでも土産に買っていってやろう……!

 思わずテンションの上がる俺に、鏡花さんが笑いながら言う。


「討伐者を続けていれば、安定してこのぐらいは稼げるのですよ。なのでお仕事頑張るのです!」

「はい!」

「明日もまた遅刻せずに来てくださいね! 研修ありますから!」


 こうして俺は、鏡花さんと七夜さんにお辞儀をすると初任給を手に家に帰るのだった。


 ――〇●〇――


「ただいまー!」

「おかえりー! 早かったね!」


 俺が家のドアを開けると、すぐに那美が駆け寄ってきた。

 初出勤ということもあって、いろいろと心配してくれていたのだろう。

 俺はそんな妹に、どーんと大きな包みを見せる。


「今日、さっそく給料がもらえたから。土産を買ってきたよ」

「え、本当!?」

「ああ。さっそく食べよう」


 ワクワクする那美に急かされながら、ちゃぶ台の上に包みを置く。

 そして風呂敷をほどくと、中から大きな折箱が出てくる。

 その茶色い包装紙には「特上」と力強い筆致で書かれていた。


「これ、お寿司!?」

「ああ。前にお祝いに美味しいもの食べようって言っただろ? だから買ってきた」


 こうして箱を開くと、たちまち色とりどりの寿司ネタが目に飛び込んでくる。

 助六以外の寿司を見るのなんて、いったい何年ぶりだろう?

 俺も那美もお寿司は大好きだったが、スーパーの値引き品すら買えない状態だった。

 こんなにいいお寿司を食べるのなんて、ひょっとしたら初めてかもしれない。


「お兄ちゃん、トロ食べて良い!?」

「いいけど、まずはしっかり手を拭いてから食べろよ」

「はーーい!」


 寿司折に付属していた紙製のお手拭き。

 それで手をササッと拭くと、那美は驚くような速さでトロを口に放り込んだ。

 慌てすぎて、醤油をつけることすら忘れてしまっている。


「ふはぁ……!」


 トロンとした目をしながら、心底幸せそうな顔をする那美。

 本当においしいものを食べた時は無言になるというが、まさにそれである。

 彼女はゆっくりと目を閉じると、時折心地よさげな吐息を漏らしながら幸せな味の世界に没頭する。

 その様子は、見ているだけで味が伝わってきそうなほどだ。

 

「俺の分も上げるから、ゆっくり食べろ」

「……ありがとう!! お兄ちゃん大好き!!」

「よし、またお給料が入ったらジョウジョウ苑に連れてってやるからな」

「すごい!!」

「ははは、お兄ちゃんに任せとけって!」


 こうしてこの日の夜、俺たち兄妹は久々の幸福を堪能するのだった。

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