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15 王都への帰還


 ソフィアが王都に戻ったのは、秋頃のことだった。


 王都からガードナー辺境伯領への行きの旅路は急いでいたので、ある程度お金をかけて旅をしていた。

 それにそもそも、陸地にある王都から海辺にあるガードナー辺境伯領へと向かう川船は、川の流れに沿って動くので、船頭の負担が少なく、船賃も安い。

 それを利用したソフィアは、一か月と少しの旅路で、ガードナー辺境伯領に着くことができた。


 しかし、帰りはそうもいかない。

 川の流れに逆らう方向の船賃は高いし、手持ち金も限られている。

 ソフィアはできるだけ安い集合船を選んで乗り継ぐようにしたが、人数の多い集合船は運航日が限られている。

 その結果、王都に帰り着くまでに時間がかかってしまったのだ。


 行きと違って涼やかな空気が満ちた王都を通り抜け、ソフィアは借りていたはずの家に戻る。

 すると、そこには兄セリムはおらず、母ジェニファーだけが変わらず机に向かって座っていた。


「ソフィア! 待っていたのよ、遅いじゃないの!!」


 叫ぶようにして取りすがって来た母の姿に、ソフィアはひっと息を呑む。

 やせ細ってがりがり、身だしなみもボロボロで、すがってくる様はまるで浮浪者のようであった。


「お、お母様」

「あの子が悪いのよ。あの子がやらかしたの。騎士を続ければよかったのに、この上恥を上塗りするなんて、あんなのは私の子じゃない!」


 半狂乱になって叫ぶ母ジェニファーを落ち着かせると、母はソフィアに、食事を要求した。

 家の中に何かあるのか尋ねたけれども、何もないのだと言う。

 ソフィアの手持ち金も、二人で使ってしまえば、あと二日もつかどうかといったところだ。


 話を先に聞きたい気持ちは強かったけれども、母が相当衰弱していることも見て取れたので、ソフィアはとりあえず買い出しをし、食事の支度をする。


「こんな水みたいなおかゆ!」

「お母様はどこから見ても体調が悪いわ。まずはおなかを食べ物になじませないと」

「こんなもの、私はこんなものを食べるような立場の者じゃ」

「お母様だって、風邪をひいたときはこんなものを食べていたじゃないの。それに、娘の作ったものを食べるのは、お母さんの仕事じゃないの?」


 ソフィアがそう言って、机にかじりついたまま動かない母の口元におかゆを持っていくと、母はそれを一口食べ、そして涙をこぼした。


「セリムが、退団になったの」

「えっ」

「あの子、あのまま騎士団に勤めていればよかったのに。そりゃあ、エリートコースではない編入で、同期はみんな二つも年下かもしれないけれど、他に就職するよりもずっとお給料だってあって」

「自主退団じゃないの? 『なった』ってどういうこと?」

「あの子、騎士団の金品を盗んだの」


 絶句するソフィアに、ジェニファーは涙をこぼしている。


「金庫の中に入っていた50万ジェリーと、100万ジェリー相当の金塊を盗んで逃げたの。金庫の解錠ができるなんて、あの子、そんなところにばかり知恵を使って」


 ソフィアは血の気が引いていくのを感じた。


 兄セリムはすべてを諦めたのだ。

 腫れ物に触るような扱いを受けながら仕事を続けることを諦めた。


 ソフィアが、失敗したから。


 王都に来て、ジェファソン子爵家からもらった50万ジェリーが尽きそうで、騎士団から支給された前給与だけではやっていけなくて、休みの日も日払いの仕事をして半月でソフィアの旅費を稼ぎ切った兄。

 セリムが寝る時間も惜しんで、精神的に追い込まれながらも尽力していたのは、ソフィアがサーシャを説得できて、元の生活に戻ることができるかもしれないという希望によるものだったのだ。


 そして、兄も居なくなった。


 どうしたら。


 これからソフィアはどうしたらいいのだろう。


「母さんを助けてちょうだい、ソフィア」


 それが今のソフィアの耳には、呪いの言葉であるように聞こえる。



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