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10 転落




「なぜこんなことに!」


 叫んだのは母ジェニファーだ。

 父サイラスは捕縛され、修道院行きが決まってしまった。

 正直、それだけならばまだよかった。

 父サイラスが作っていた隠し口座や隠し金が、全てガードナー次期辺境伯によって押収されてしまったのである。


「お母様。もうすぐ、ジェファソン子爵家に着くから」

「なぜ私が実家に頼らないといけないの! あの人は大丈夫だって言っていたのに。お金に苦労させないって言ってたのに!」

「母さん、そんなこと言ったって、金がないんだから仕方ないだろう」

「セリム、お前のせいよ! お前が既に就職していたら、こんなことには」

「そんなに言うなら、自分が働けよ! 母さんは僕と違って大人だろう!」

「ふざけないでちょうだい! なぜ高貴な私が、労働なんて!」

「だったら、頭を下げるしかないじゃないか!」

「いやよ!」

「なら、この道端に置いていく。ジェファソン子爵家に行くのは、僕とソフィアがそうしたいからだ。母さんは勝手についてきただけだろう」


 兄セリムの言葉に、母ジェニファーは親の仇を見たかのような、歪んだ顔で兄を睨みつけた。


 ソフィア達は今、三人で辻馬車に乗り、ジェファソン子爵家を目指していた。手荷物は、旅行カバンが三つだけ。

 実は、国王主導の下、サルヴェニア子爵邸は押収され、当面の資金として20万ジェリーを渡された後、三人は家の外に放り出されてしまったのだ。

 20万ジェリーでは、住む場所を確保することもできない。

 三人ばらばらに住み込みで働く場所を手に入れるなら生きていくことはできるかもしれないが、自分がそんな最下層の労働に身をやつすなど、ソフィア達には受け入れ難いことだった。

 助けてくれるよう友人達に手紙を出すにも、家を失ったので、返ってくる手紙を受け取ることも難しい。

 使用人達のソフィア達への視線は厳しく、手を差し伸べる者は一人もいない。

 結局、セリムの主導で、ソフィア達は親戚を頼ることにしたのだ。


「ジェームズ伯父さんは、助けてくれるかしら」

「……わからない」

「兄さん、そんな」

「だって、前に会ったのは何年前のことだよ。お前、覚えてるか?」


 ぐ、とソフィアは息を呑む。

 最後に会ったのは、叔父であるジェームズ=ジェファソン子爵が爵位を継ぎ、そのお披露目の会に呼ばれたときのことだ。

 もう五年以上前のことになるだろうか。

 そのとき以来、叔父とは一度も会っていない。


「……でも、可愛い甥と姪が路上で困っているのよ。きっと助けてくれるわ」

「だといいけどな。……学費まで、借りられればいいんだけど」


 暗い顔をした兄に、ソフィアは俯いた。

 二人は現在、貴族学園を休学していることになっている。

 しかし、休学し続けることができるのは三年までだ。

 それまでにソフィア達は、学費の目処をつけなければ退学となってしまう。

 平民の子どもが通う村塾や街塾には奨学金制度があるらしいけれども、貴族学園は裕福な貴族が通うものなので、奨学金制度は存在しない。

 あの学園に通うこと自体が、家の成功の証なのだ。

 落ちぶれた家の子どもに、学園内で居場所はない。


 それでも、ソフィアとセリムは、学園を卒業したかった。

 卒業資格が、きっとソフィア達の将来を助けてくれると信じているからだ。


 横でぶすくれている母を見た後、ソフィアは祈るような気持ちで、目的地の方向をただ見つめていた。




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