1 ソフィア=サルヴェニアという人物
書籍発売記念&コミカライズ決定記念です!
何卒よろしくお願いします。
ソフィア=サルヴェニアの人生の滑り出しは、非常に好調だった。
彼女はサルヴェニア子爵の弟であるサイラス=サルヴェニアと、ジェファソン子爵令嬢であったその妻ジェニファーの間に生まれた子だ。
両親と一つ年上の兄セリムに囲まれた、貴族としての生活は、順風満帆であった。
両親と使用人の手をかけられ、蝶よ花よと育てられたソフィア。
彼女は五歳になったある日、不思議に思って、乳母に聞いたことがある。
「ねえ、ミルフィ。どうしてサーシャは、いつも子ども部屋にいないの?」
ソフィアには、二つ年上の従姉がいるのだ。
名前は、サーシャ=サルヴェニア。
このサルヴェニア子爵領の当主、スティーブン=サルヴェニアの嫡子である。
貴族の子は通常、日中を領主邸にある子ども部屋で過ごす。遊びも、学びも、食事も、全て子ども部屋で行うのだ。そうして教養を身につけ、十歳頃に子ども部屋を卒業し、大人と同じ食卓につくようになる。
しかし、サーシャはまだ七歳だというのに、殆ど子ども部屋に居ることがなかった。
「サーシャお嬢様は、個室で勉学に励んでおられます」
「べんがく……おべんきょう?」
「そうでございます」
「どうして? ここで一緒におべんきょう、すればいいじゃない」
首を傾げるソフィアに、乳母ミルフィは苦笑いをするのみで、答えてくれなかった。
この当時、サーシャが受けていた授業は、貴族学園で学ぶ水準のもので、とても子ども部屋で、五歳のソフィアが横で騒ぐ中行うような内容ではなかったのだ。
馬車馬のように働く両親を見たサーシャは、彼らを助けるべく、知識を求めた。凄まじい速さで学びを進めるサーシャに、教師達も俄然やる気を出し、気がついたら、殆ど子ども部屋に居ることのない状態になっていた。
情操教育という面で、これでいいのかと悩んでいたミルフィは、ソフィアにいい答えを返すことができなかった。
ソフィアはそれを、自分に都合のいいように受け取った。
(おべんきょうとはいえ、好きなことをして、子ども部屋に来ないなんて。サーシャ姉さんは、悪い子なんだわ)
しかし、すくすくと成長していくソフィアにとって、サーシャのことなど瑣末な問題だ。
毎日可愛い服を着て、美味しいものを食べ、無理なくおべんきょうをし、両親達や兄と団欒する。
ちなみに、この団欒には、サーシャやその両親は参加しなかった。
領主邸の居間に領主一家が一度も現れず、弟一家がそれを我が物顔で使っていること。兄一家が現れないことを、当然のように受け入れている両親。
その歪な環境に、幼かったソフィアは疑問を抱くことはなかった。
生まれたときからそこにあるもの。
ソフィアにとって、サルヴェニア子爵邸での過ごし方は、そういうものだったからだ。
しかし、ソフィアが七歳になったある日、問題が起きた。
サーシャの両親である、スティーブン=サルヴェニア子爵とその妻が亡くなったのである。




