1 一代伯爵ダグラス=ダナフォール(前編)
少し過去の時点から始まります。
カーティス=ガードナー辺境伯はその日、一代伯爵であるダグラス=ダナフォールを王都の高級レストランの個室に呼び出し、対面していた。
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カーティスは先日、息子から恋人ができたと言われ、その可愛い恋人を紹介された。
そして、内心ギョッとした。
なんと、その場に現れたのは、金色の髪に若草色の瞳をしたまだ年若い女性――国を挙げて捜索中のサーシャ=サルヴェニア子爵本人だったのである。
正直始めは、厄介な恋人を連れてきたものだと息子に呆れたけれども、サーシャ本人と話をしてみて、カーティスはその意見を翻した。
彼女は美しいだけでなく、理知的で、己の立場をわきまえている。会話の端々にその有能さが垣間見える。要するに、次期辺境伯夫人としての資質を備えている女性だったのである。
そして何より、息子を利用しようとする意図がなく、ただ息子を好いているところが好ましい。
ただ、後者については、カーティスはあくまでも男性であるが故に、無意識に、うら若き女性であるサーシャの演技に騙されている可能性がある。
なので、妻キャロルを頼ることにした。
「うん。サーシャちゃん、良いと思うわよ! 可愛い子よね」
サーシャとの対面が終わった後、妻キャロルはふわふわのストロベリーブロンドの髪を揺らしながら、にっこり微笑んだ。
その微笑みを見て、カーティスは、ならば問題ないかと納得する。
カーティスの妻キャロルは、さして学力の高い女性ではない。
隣地の伯爵家の長女であり、カーティスの幼馴染でもあった彼女は、貴族学園に通ってはいたものの、編入したクラスは上級クラス。成績も下の方で、「私、あんまり頭がよくないのよねぇ」と本人もぼやいていた。現在は、本人の意向もあり、ガードナー辺境伯領の統治に大きく関わることもしていない。
その辺りを見て、長男のガイアスは不満を抱いているようだ。
しかし、カーティスは妻本人や長男とは違い、妻キャロルのことを、頭の良い女性だと思っている。
実は、妻キャロルはカーティス以外の前では見せないようにしているが、物事を整理して考えることが苦手なだけで、その感覚力、人を見る目は誰よりも優れているのだ。
彼女は腹に一物抱えている者を見たとき、その場ではニコニコ笑いながらも、後でカーティスにおびえたような顔で報告してくる。お茶会や夜会も苦にしておらず、人当たりがいいので彼女の周りには人が集まりやすいのだが、彼女はそうして周囲から得た情報の中から、「よく分からないけれど、この話、なんだか変だと思うのよ」とカーティスに話を振ってくる。
そしてそれは、こと社交の場において、カーティスを全面的に助けるものであった。
人の機微に敏く、悪意やほんの少しの違和感を見逃さない不思議な鋭さを持つ彼女は、統治のやり方に詳しくなくとも、この辺境伯家において間違いなく必要な人物であり、誇るべき辺境伯夫人なのである。
こうして、妻キャロルのお墨付きを得たカーティスは、サーシャからの話を元に調査を始めた。
そして子爵家の現状を把握し、ガードナー辺境伯家としてサーシャの味方に付くことを決断した彼は、本日、子爵領を侯爵領に格上げするための根回しの一環として、侯爵候補の男に接触を図ったのである。




